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我がギルドの名は


「やはり、ワシは『〜〜組』とついた方がしっくりくるのぅ」


「う〜ん、女の子が3人もいるわけだしわたしはかわいい名前がいいと思います! 『ぷわぷわぷてぃっくぶてぃっく』なんてどうでしょう!」


「なんだその気が抜け果てるような名前は。僕は……そうだな。美しくも気高い名こそユウ様の率いるギルドに相応しいと思う。『太陽の女神と月下の騎士』いや、それよりも……『美の女神に仕えし騎士ナルキスと滑稽愉快な仲間たち組』の方が……」


「……揚げたてのメンチカツたべたい」


「わ、私は新参者ですし皆様の意見さえ纏まればなんでも、はい」


 ギルドを立ち上げるための人員は揃った。しっかりと皆が納得したメンバーだ。

 しかしながら、ユウたちは早々に壁にぶつかることとなった。

 テレサから貰ったギルド設立の申請用紙をテーブルに置き、あれでもないこれでもないと意見が飛び交う。申請用紙には書かなくてはならないのはギルドメンバーとその代表者、所謂『団長』の名とギルド名の2つ。公式な書類にしては実に簡易的な記入事項であるにも関わらず、ユウたちは頭を悩ませていた。

 別に誰がこのギルドの団長になるかで揉めていたわけではない。団長は誰もがユウしかいないと自然にその流れができており、反発するものもいなかった。


 問題は『ギルド名』の方だ。


 ギルド名は言わば自分が背負うもの。

 名を名乗るには必ずその冠がつくのだから格好のつかないものにはしたくない、と思うのは当然のこと。

 各々、希望を言い合う形で書き取り役となったフランクが取り仕切ろうと配慮するが、かれこれ3時間が経とうとしている。


「いい加減にしたまえ、シュシュくん。キミの出す案はどれもユウ様も僕の意見も取り入れてないじゃないか」


「ナルキスくんこそ、なぁ〜んか気持ちの悪いキザったらしい案ばっかで全然かわいくないです!」


「ギルド名に可愛さは必要ないと思うのだが? それに僕はえ〜っとなんだ、ププ……なんたらのナルキスだとは恥ずかしくて外で名乗ることもできないぞ」


「わたしだって同じですよ! 何ですかか美の女神に仕えしーーあぁもう舌噛みそうですよっ!」


「それはこちらとて同意見だよ」


 まぁ、話し合いが長引いているのも主にこの2人が原因なわけなのだが。


「まさかギルドを作る前に躓くとは思いもせんかったのぅ……」


 自分らのギルドのため熱い討論が行われるのは困惑する反面嬉しいものもある。

 苦笑いを浮かべてユウは頬を人差し指でかいた。


「じゃが、シュシュ、ナルキス2人の意見が合致する名前は永遠に出てこんような気もするし……う〜む……」


「ママ、お腹減った。揚げたてのメンチカツが食べたい」


「おぅ、後で書類提出のついでにフランクの店に行くとするかのぅ。まぁ、この話し合いが終わったらになるが……終わる気もせんのぅ」


 天井の大穴から覗く空は真っ赤に染まり、太陽との一時の別れを告げるような哀愁漂う空模様。

 フランクの加入の件、ギルド設立書類の件と休みなのにまったく休まっている気もしない。

 ユウは大きく息を吸い込んで長く息を鼻から吹き出すと申請用紙に付属されていた説明資料を一枚裏返して手に取った。そして、何を思ったかビリビリに破き机に散らばす。


「ほ、ほらぁ! ナルキスくんがワガママばっかり言ってるからユウちゃんが怒っちゃったじゃないですか! どうするんですか!? どうしてくれるんですか!?」


「なっ!? ぼ、僕のせいではないだろう! 元を辿ればシュシュくん、キミが僕の素晴らしい意見にいちゃもんを付けてきたわけであって、どちらかと言うとワガママを言っているのはキミの方だ!」


「阿呆、癇癪を起こしたわけじゃないわ。このままでは埒があかないと思っての」


 そう言いながら、ユウは覚えたての文字、この世界で広く使われている公用語リュシュオン文字で辿々しく幼稚だがしっかりと『ゲンコツ組』と書き、二つに折ると盃用の杯の中に投げ入れた。


「あ、あのもしやと思いますがユウさん……くじ引き……?」


「そうじゃ。話が決まらんならもうこれしかないじゃろう。くじ引きもまた運命っちゅうやつじゃ」


「で、ですがあまりに適当過ぎると言うか……」


「しゃあなしじゃ。フランクは書かなくていいのか? シュシュもナルキス、マリーまでもが書き始めてるっちゅうのに」


 見ると皆が文句を言うわけでもなく、その紙に向かって熱心にギルド名の案を書き綴っている。


「い、いえ……私は……」


「新参者だからか? 仲間に新参も古参もあるか。いいからお前も悔いのないよう書いとけ! これはお前のギルドでもあるんじゃからのぅ」


 フランクは沈黙した後、控えめに頷くと紙切れに小さくか細い文字で『友愛組』と書き、杯にそっと投げ入れる。


「この際、贅沢は言わない。どうかシュシュくんの案が選ばれるのだけは……!」


「ナルキスくんのはイヤナルキスくんのはイヤナルキスくんのはイヤナルキスくんのはイヤナルキスくんのはイヤナルキスくんのはイヤナルキスくんのはイヤナルキスくんのはイヤナルキスくんのはイヤナルキスくんのはイヤナルキスくんのはイヤ」


 全員の紙が入れられた杯からユウは目を瞑り、さっと一枚の紙を引くと中身を見ることもなく、それをさっと記入役のフランクに渡した。


「あ、あのユウさん……本当にいいんですか? 申請用紙は特別な魔法紙で出来ています。一度書いたら消すことはできませんよ……?」


「ワシに二言はない!」


 困惑のままフランクはその紙に書かれた言葉をそのまま記入用紙に書き写す。

 この時を持って、ユウたち念願のギルドは誕生した。全ての民に平和を、そんな幼稚な夢を抱き、ベルセルククレフターの討伐にセルシオの死やベラムとの死闘、マリーと出会い、ナルキスと出会い、フランクが仲間になった。

 新たなる伝説を残すことになるそのギルドの名はーー















       『あげたてメンチカツ』















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