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堕落した束の間の休息


「ねぇ、ユウちゃん。不本意、誠に誠に不本意ながらギルドメンバーもあと1人で念願のギルド設立というわけなんですが……あ、ナルキスくんここも拭いてください」


「……いい加減、僕らも仲良くしようではないかシュシュくん。あれからもう3日も経った。過去の遺恨は水に流し、女神ユウ様の元共に尽力しあおうではないか。これ以上のユウ様の前で醜態を晒し、くだらない啀み合いをするなど実に無駄なことだと思わないかい?」


 珍しく日払いの仕事に出かけるわけもなく、4人揃って拠点内にいる平和な日。

 日々の疲れを癒そうとソファに寝転がり、うたた寝をしていたユウの隣には子猫のように懐で丸まり静かな寝息を立てるマリーの姿。ぽっかりと空いた天井の穴から昼寝するには心地よい暖かな日差しが降り注いでいた。

 義理とはいえ、せっかくの家族団欒だが、小姑のようにシュシュは部屋中を掃除して回るナルキスに冷ややかな視線を送っている。


「人のことをそれも初対面でブサイクと言っておいてよく仲良くしようなんて言葉が出てきますね。ちょっと頭オカシイんじゃないですかって本当にオカシイんでしたね」


「人間誰しも過ちを犯してしまうものだ。それに他人にどう評価されたとして心の底から自分に自信を持っていれば、他の評価なんて気にしないと思うのだが?」


「ん〜〜……今の発言でナルキスくんがモテないってことはなんとなく理解できました」


「はっ、僕がモテない? どうやら君にはユーモアのセンスはあるようだ。この僕が、世界でユウ様の次に美しい僕がモテないはずないだろう」


 満面の笑みで冷たい言葉を告げるシュシュにそれを鼻で笑うナルキスと非常に険悪な空気が部屋中に満ちる。ただ、それは今日に限ったことではない。ナルキスが仲間になってからというものこうした口論は日常的に繰り広げられていた。

 最初こそユウもナルキスを仲間に加えたことは失敗だったのではと頭を悩ませたが、こうも飽きもせずやり合う2人の姿を見続けて逆に仲が良いのではと思い始めた。

 もし、本当に仲が悪いとしてもどんな組織にもウマが合わない輩はいるもんだ。ここで互いに歩み寄り、理解し合うこともまた若い2人のためになるだろうと放っておくことにしたのだった。決して投げ出したわけではない。

 それにそういう輩に限って後から意気投合したり、恋仲になったりするのだから人間わからないものである。


「ねぇ〜ユウちゃ〜ん! ユウちゃんってばぁ〜! かまってください〜暇で死んじゃいそうですよぉ〜!」


「うるさいのぅ……たまの休みぐらいゆっくりさせんか」


「おい、ユウ様の安眠を妨げるんじゃな……」


 言い終わる前に硬直したナルキスの視線を追い、シュシュは気付く。

 その視線の先はシュシュが揺すったことによりはだけたユウの腹部に向けられていた。


「まままままままままぁ〜〜〜〜!! ユウちゃん、お腹を隠してください! 変態がユウちゃんの身体を舐め回すようないやらしい目で!」


「ばばばばっかなこここことを言うな! ぼぼぼぼぼ僕がユウ様のことをいやらしいめじぇ〜ッ!」


「何なんですか! 変な喋り方! 不潔! スケベ! ワンタッチ!」


 ワンタッチとは果たしてスケベな者を表す言葉なのだろうか。


「あぁ〜うるさいうるさいのぅ!」


 これだけ騒がれても起きる様子のないマリーをそっと退かしてユウは忌々しげに頭を掻きむしった。爆発した長い栗色の髪が怒りにわなわなと震えている。


「あと1人ならじきに来るはずじゃ」


 そして苛立ちを隠せない様子で朝食のそのままに置いてあった硬いパンを噛みちぎった。


「え? ユウちゃんそれって最後の1人はすでに勧誘済み……ということです?」


「んあぁ? だからそう言うとるじゃろ。いつワシらがギルドとして動き出してもおかしくない状況。こうやって力を蓄えているというのにお前らは……」


「さすがユウ様だ。シュシュくんがこうして堕落した日々を送っている中でもうそこまで根回ししていたとは……感服しました」


「堕落……ナルキスくん、そういうのはまともにお金を稼いできてから言ってください。わたしは毎日、汗水流して働いてます。一方、ナルキスくんはお金を稼いでくるばかりか店の人もお客さんも怒らせてクビになっちゃってるじゃないですか!」


「どうも自分より劣った人間に指図されるのが癪に障ってね」


 誇らしげに髪をかきあげるナルキスに冷めた侮蔑の視線のみを送り、シュシュはユウに向き直る。


「それで、ユウちゃんが声をかけたのって?」


「なに、ワシもここじゃそんなに顔が広いわけじゃない。見知っーー」


「ーーわかりました! わたしわかっちゃいましたよ!」


 探偵でも気取るようにシュシュは顎に手を置いてにやりと笑みを浮かべた。


「そうですよね〜。わたしたちには必要不可欠の存在、我らが白衣の天使クララちゃんに決まってますよね!」


「いや、クララにも声はかけたが断られた。医師免許を取るのに忙しいとのぅ」


「お、おやぁ? な、ならばヨーコさんにビスチェちゃん!? いやぁ、さすがユウちゃん。他ギルドから引き抜きなんて大胆ですね〜」


「阿呆。そんな無礼なことワシがするか」



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