美の形、萌えの形
真っ直ぐな侮辱もさしてきにする様子もなく足を止めた5人の男たち。
「拙者らに何かご用でござるかな?」
それはかつてユウたちと共に死線をくぐり抜けた者。ギルド・萌ゆる夢のニオタたちであった。
「あぁ、君たち5人のブサイクくんたちだ。なに、少しばかり尋ねたいことがあってね」
「我らの夢の為、人助けもまたその道に近づく一歩。なんでも聞いて頂きたい」
と、テツオ。
言葉節に挟まれる悪口は決して彼らの耳に届かない。自分たちの信念を貫くが故にこうして蔑みを受けることは普段と変わらぬ日常だったからだ。
「君たちの知るこの国で最も美しい者は誰だ?」
相変わらずキザで鼻に着く仕草を取りながらナルキスはそう問う。勿論、自分もその中に含んでも構わないと付け足しながら。
「美しい者……でござるか。う〜む……」
言われニオタたちは皆一様に腕を組み、考え込むように唸る。そして示し合わせたかのように目配せをし、頷く。
「ユウ殿でござるな」
「ユ、ユウさん……かな」
「どちらも私には選べんが、この2人であることは確か!」
「シュシュ氏ですな!」
「シュシュかな、俺としては」
それまで息があっていた5人だったが、嘘のように半々に意見が分かれる。
「まだ言うか! シュシュ氏のあの愛嬌、優しく面倒見の良い彼女こそ恋人として至高!」
「い、いや、ユウさんの方がめ、面倒見いいし、ひ、引っ張ってくれそうだし……」
「バカ、お前らバカ。シュシュちゃんは巨乳だよ? わかる?」
「私にはユウ様もシュシュちゃんも推し面には変わらぬ故……くぅ〜〜悩ましい!」
途端、ユウとシュシュどちらがいいかなどと口論を始める中、ニオタがリーダーらしく短い咳払いをしてそれを諌める。そして鼻の頭をかきながら困ったような笑みを浮かべた。
「しばしば口論になることでござるが、拙者らはそのお二人に命を救われた身。其方の問いにはこの二人以外に考えられぬでござる」
「……ナルキスだ」
「うむ?」
「僕の名だ。このナルキスを退ける程にその二人は君らにとって美しい者だ、と言うわけだね」
「ま、まぁそうなりますな」
「だいいち男に俺らが美しいって感情を抱くと思うわけ?」
妙な迫力を持った蒼い瞳にたじろぎながら頷くテツオといやに強気なロムセン。そのロムセンの言葉にナルキスはより一層眼光を鋭く尖らせた。
「美に男も女も関係ない。真実の美は性別をも凌駕するんだ」
「お、おう……」
「それで、そのユウとシュシュとか言う奴らに僕がどう劣っていると言うんだ?」
「劣っているとかそう言うのではないでござるが……見た目も美しいことはさることながら拙者らが惹かれたのはその精神でござる」
「精神?」
行商人たちも言っていた、美しい心と言うやつだ。
美に心は関係あるのか、釈然としないがナルキスは黙ってニオタの言葉に耳を傾ける。
「何というか、信念を曲げずに貫く。人の命を助けるために自分のことは顧みない。この人に任せれば大丈夫、そんな安心感にも似た何か惹きつけられる魅力を持ったお方たちでござるよ」
「自己犠牲が必ずしも美しいものとは思えないが?」
「いや、私もニオタ君に同意見だね。ユウ様もシュシュちゃんも何処か不思議な魅力がある」
「わ、わかる。あの人の顔を見るとな、なんか安心する。た、助かったって」
「人を率いる力か……美の形も様々だな」
自分とは違った美の捉え方に新たな理解を深めつつ、ナルキスは納得したように首を振った。
「その二人にはどこに行けば会える? 自分の目で確かめておきたい」
「う〜む、拙者らもあの一件以来顔を合わせることがないでござるからなぁ……あ、色々と世間を騒がせる人たちでござるし、街の人々に聞けば何かわかるかもしれないでござるよ」
「やはり情報収集か。わかった、邪魔をしたね」
「いえいえ、拙者らもナルキス殿の何か力になれたなら良かったでござるよ。それでは失礼するでござる」
丁寧に頭を下げて人混みへ消えていくニオタ達を手を振って見送るわけもなく、ナルキスもまた街の雑踏に紛れて小さく何かを呟くとユウとシュシュの情報集めに繰り出した。
「ふむ、なるほどやはりこの二人か」
街行く老若男女に声をかけ続け、一息つきに道端に座ったナルキスはそう漏らして顎を撫でた。
ニオタ達に問うたように人々から聞けばネロやヨーコ、リュゼ、リットンなど初めて耳にする名前もあれどやはり多くの人はユウとシュシュ、この名を口にした。
熱心に仕事に明け暮れるユウ達。その甲斐甲斐しい姿だけでなく、ベルセルククレフターやベラムの一件。はたまたどこから広まったのか世を震撼させた切り裂き魔を捕まえたのも彼女らだという噂もあり、この下層域においてユウ達の名はギルド所属者でないながらも相当な知名度を誇っていた。
その記憶の新しさと美少女たちが悪と立ち向かう、そんな劇場話のような活躍からいつしか多くの人々に支持されていることをナルキスはおろか本人たちさえ知らない。