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贖罪は何処へ

 マリーをギルド管理協会まで送り届けた日から次の日。

 果たしてユウのとった行動が正しかったのかは今でもわからない。だが、テレサのいるあそこならばきっと私怨などに縛られず、公平にマリーの罪を裁いてくれるのではないかと思った。

 朝焼けの門戸の前で送り出した小さな背中は忘れない。あの子がどうなろうと自分を頼ってきたその日には必ず力になってやろうと心に決めた。


「はい、ユウちゃん。お仕事ご苦労様ね〜」


 だからその時に備えてマリーがいつ帰ってきてもいいよう穴の空いた腰の痛みにも耐えながら、今日もユウは汗水を垂らして懸命に働いていた。

 マリーが無事だと知ったら、巷では11人もの被害者を出した凶悪な殺人鬼が生きていると知れたらきっとその命を狙うものも増えるだろう。そうなればいくら授能を持ったマリーとて多勢に攻められればひとたまりもないはず。ましてや彼女は10歳にも満たないだろう小さな少女だ。その時にギルドを立ち上げ、たくさんの仲間と共に彼女を守ってやれなくてどうするのだ。


「あと、これ。シュシュちゃんに」


 カゴいっぱいの果物を給料袋と一緒に渡され、ユウは申し訳ないような苦笑を浮かべて頭を下げた。


「シュシュちゃん風邪引いちまったんだろ? うちは青果店だ。こんぐらいしかできないけどさ、早く2人並んで元気な笑顔を見せてよさ」


「すまん、なんと礼を言ったらいいか……」


 リッタは口ごもるユウの肩を叩き、首を振る。


「いいいい! 礼なんていらないよ! 俺は2人の元気な顔が見たい。シュシュちゃんに早く風邪を治してほしい、ユウちゃんの曇った顔は見たくない、それだけなんだからよ!」


「……恩にきる」


 妙にカッコつけた口調でそう言ったリッタにユウは再度深々と頭を下げ、帰路に着いた。

 今や日払いの仕事に精を出す美少女2人、ユウとシュシュはある一定層に限り結構な知名度を持っていた。どこで聞きつけたのか、そんな人々がシュシュちゃんにとお見舞いの品を手渡してくる。両手いっぱいの土産を抱えながらユウはその人々の暖かさに触れ、自然と笑みを浮かべた。

 あの日、日の落ちる寒空の下、薄着でユウを探し回っていたシュシュはマリーを送り届けるや否や風邪に倒れてしまった。

 日々の疲労、死と隣り合わせの緊張が長く続き、きっと精神的にも肉体的にも参ってしまったのだろう。


「まぁ、これだけ栄養のあるものを貰って元気にならない方がおかしいじゃろう」


 貧食生活だった2人の久しぶりのご馳走。子犬のように髪を揺らし、喜ぶシュシュの顔を思い浮かべながらユウは塞がった両手の代わりに尻を使って扉をゆっくりと開ける。

 廃墟を利用した穴だらけの我が家、隙間風の吹きすさぶとても人の住む家と呼べるものではない。それでも扉を開ければ何故だか心が暖かくなる。


「おかえりなさいユウちゃん!」


 真っ赤な夕日が覗く天井の大穴。その光に照らされていたシュシュの元気な声が届き、そして……固まる。

 今や、風邪に苦しみ寝ていたシュシュがけろっとした顔でソファにくつろいでいることなんてどうでもいい。それ以上に信じられない光景が目に飛び込み、ユウは思わず両手の荷物を床に散らばせて目を擦った。


「やっほ〜ユウちゃんおかえりなさ〜い」


「おかえりなさいママ」


 前者はテレサ。後者は今後しばらくは、少なくとも昨日の今日で顔を見るとは思わなかった存在。人形のような均整の取れた少女ながら美しい顔立ちにどこか儚さを思わせる銀色の髪。宝石のように輝く左右で違う瞳を瞬かせ、陶器のように白く滑らかな肌。小さな手でユウの落とした果物を拾い、カゴに入れた少女は紛れもなく昨晩、死闘を繰り広げた切り裂きマリーに他ならなかった。


「マリー……お前……なんでじゃ……もしや逃げ出して……」


「違う違う。落ち着いてよ、ユウちゃん。は〜い、あなたも座って座ってね〜」


 震える拳をテレサに抑えられ、半ば強引にシュシュの隣に座らせたユウは険しい顔つきでマリーを眺めた。


「ビックリしましたよね。わたしもあまりの仰天に見てください。あれだけの高熱が嘘のように元気になっちゃいました」


 力こぶを作って回復をアピールするシュシュ。単にクララに処方された薬が効いただけだと思うが、それに突っ込む余裕はない。


「あら〜……そんな怖い顔しちゃダメよ? せっかくの美人さんが台無しだわ」


「いいから教えてくれ。何故、マリーがここにおる。自分の罪から逃げ出したっちゅうんか?」


「いいえ、マリーちゃんはすでに罪を洗い流した。ううん、正確にはその最中なんだけど……」


 唇に人差し指を当ててテレサは眉を下げた。




「ユウちゃん、今のギルティアに『規約』はあっても『法律』はないのよ」




 信じられない言葉を聞いた。

 それではこのギルティアは単なる無法地帯。


「どういうことじゃ。法を守り、善良な国民を守るのがお前ら協会の役割じゃないのか?」


「確かに、ギルティアに国王が誕生すれば私達は王政の元、その決められたことを管理する役割が与えられるわ。そう、今のギルティアに王はいない。つまり、私達はギルドをバックアップし、または不正を裁く。その名の通りギルドを管理する協会に過ぎないのよ」

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