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ごめんなさい、もうしません


「なっ……シュシュ、おま……」


「姉妹って何ですか?」


「……女兄弟のことじゃろ。同じ親から生まれ、血を分け合ったーー」


「知ってますよ! 知ってますそんなのはしってますとも! わたしが言いたいのはその姉妹じゃなくてですねぇ!!」


 その顔にいつもの人懐っこい子犬のような笑みはない。眉をつり上げて目は鋭く、明らかに怒っていると見える。

 その声を聞いた時、泣きべそをかいて飛びついて来るものだと思っていたユウは困惑。叩かれた意味も分からず、ユウは血に汚れた手で後頭部辺りを触れた。


「……誰?」


「ほれ、見ろ。お前が大声を出すから起きてしまったじゃろ」


「わたしのせいですか!? 姉妹だ盃だと言いながら勝手な行動をして、またまたそんな大怪我をして心配して来てみれば小さい女の子に膝枕していったいなんのつもりなんですか!?」


 そこでやっとユウもシュシュが怒りを向けてきている理由を理解し、気まずそうに唇を結んだ。


「……わたしは……わたしはユウちゃんにとって邪魔者ですか? 足手まといなんですか? 姉妹の盃って何のためにしたんですか?」


「そ、それは……お前のことを心配して……もしものことがあってお前に怪我でもさせたらワシはーー」


「はんっ! だからそれがおかしいんですよ! 姉妹の盃はただの仲間以上の絆を持った者同士の証って言ってましたよね? 死地に赴くとしても計り知れない困難が待ち受ける状況だとしてもお互いを信頼し、協力し、乗り越える。それが姉妹だって!」


 確かにシュシュの言い分は正しい。ぐうの音も出ないほどに。

 今回の騒動、無事に解決したと言ってもそれは偶然の産物。正直に言えば、戦闘力的にはマリーの方が上だった。それがこうして負傷こそおったが無事にいられるのはたまたまユウの戦略と勘がはまった、そうとしか言えない。相手がまた違ったら、マリーがもっと慎重な性格だったらと可能性は無限大。いつ命を落としてもおかしくはなかった。

 そう考えればシュシュからしたらユウが今回とった行動は自分勝手で無謀で、怒られて当然と言っていい。


「……そうじゃの。ワシが、ワシが悪かった。すまん」


「すまん? 謝るときは『ごめんなさい』って習いませんでした?」


「むっ……ご、ごめんなさい」


「もうしませんは?」


 頭ではわかっている。自分が悪いことはわかっている。素直に謝罪の言葉を述べるべきだと。


 ただ、なんだかこのシュシュは絶妙にウザかった。


「もう、しません」


 思わず言い返したくなるのを堪え、なんとか言葉を放り出したユウは大きく息を吸い、長い息を吐く。


「……昨日の朝、腹わたを出された死体を見てのぅ。頭にこびりついて、いても立ってもいられなくなってしまったんじゃ。ワシは腐った世の中を治すなんて大仰なことを言いながら何にもできてないじゃないかっての」


「ユウちゃんのそういうところ、嫌いじゃないです。いえ、むしろ好き、大好き。だからこそ一緒にいたいって思いました。……でも、わたしに相談もせず自分勝手な行動をするところは大嫌いです。……大好きな人を嫌いになんてさせないでください」


「……すまん」


「え?」


「ご、ごめんなさい。もうしません」


 胸が痛む。チクチクと針で刺されたような小さな痛みだが確かなもの。

 信頼を裏切り、心配をかけまいとして取った行動が裏目に出て。

 ユウは深々と頭を下げた。


「今回だけは許します。でも、次やったら絶対ぜぇ〜〜ったい許しません。姉妹の盃だって破棄、投げ捨ててやりますからね!」


「お、おう」


「それでこの子は……あれ?」


 小さく息を吐き、肩を落としたシュシュの意識はやっとマリーの方へ向き、途端に首を傾げる。


「この子、いつもフランクさんのお店にメンチカツを買いに来る子ですよね?」


「なんじゃ、お前知っとるんか?」


「知ってるもなにも、毎日わたしたちがいるときにたくさんのお友達を連れて買いに来てるじゃないですか!」


 警邏隊の言ったいい匂いの正体がフランクのメンチカツの匂いだとは思いもしなかった。もしも現場にブリスケット精肉店の紙袋が残されていたらフランクは濡れ衣を着せられていたかもしれない。


「お友達じゃない。知らない子」


 シュシュの言葉を否定してマリーがポツリと言う。


「この綺麗な銀色の髪、綺麗な青と緑の眼。お人形さんみたいな子だなっていっつも思ってましたもん」


「そのお人形さんが『切り裂きマリー』じゃ」


「……へ?」


「マリー、こいつはシュシュじゃ。口うるさい時もあるが、悪いやつじゃない」


 信じられない発言にシュシュは硬直。予想していた反応にユウは気にせず続けた。


「シュシュ。シュシュはママのお友達なのね」


「マ、ママぁ!?」


「そうじゃ。友達も友達、大親友じゃ」


「ちょっ、まっ……わたし頭がついていきません。この子が切り裂きマリーでユウちゃんがママで……」


「ママっちゅうてもワシが生んだわけじゃないぞ? こいつは母親を恨んで殺人をしていたわけでじゃな」


 マリーが殺人にはしった経緯を説明せんと口を開いた矢先、今まで離れた場所で3人を眺めていたヨーコ達が動いた。


「そうかい……その子が切り裂き魔なんだね」


「お手柄ね鶏ガラ。さぁ、身柄を引き渡しなさい。怪我の治療ならいい医者を紹介してあげますわ」


 シュシュを押し退け、ユウとマリーの目の前に立つ2人の顔に穏やかさは見られない。

 無表情で2人を見上げるマリーの前に手を出してユウは一歩後退する。


「……嫌じゃ。誰がそんなおっかない殺気を放つ奴らにこの子を渡すか阿呆」


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