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セクハラの末路

 実際、イヤラシイかどうかは置いといて確かに人をジロジロ見るのは良くないと軽蔑的でいて挑戦的な少女の視線から逃げるようにユウは俯く。

 そんないつものユウらしからぬ行動にシュシュが疑問を抱かないはずがなく、またそんな威圧的な口調に黙っているはずもない。

 シュシュもユウと同様になかなか負けん気が強いのだ。


「目の前に来ればそりゃ目に入りますよ! それとも何ですか? 人を見るのにいつの間にか許可がいる法律でもできたんですかぁ〜!?」




「黙るんですのよ、『デブ』」




 吐き捨てるような辛辣な一言にシュシュの目尻に一気に涙が滲む。


「はぁ〜〜〜〜!? デブじゃありません〜! むしろ、ここ最近で痩せたぐらいです〜!」


「はっ……痩せた? わたくしには肉と骨。と食前食後を見させられているような気分ですわ。その点お姉さまは……はぁ〜ん……美しすぎますわぁ〜」


 その口ぶりからどちらが『食前』でどちらかが『食後』かは言わずもがな。

 人知れずユウは自身の身体を見下ろした。


「にくッ……! あのですね、わたしはデブじゃありませんし、ユウちゃんだって骨じゃありません! 確かにあなたのお連れの方は美しいかもしれない! でも、ユウちゃんだって見てください! この可愛らしいお胸を! ほらっ! 形も良くて先っぽもこんなにピンクでーー」


「ーーお、おいっ! やめんか!」


 気が触れたか、鼻息を荒げてユウの胸を揉みしだき始めるシュシュ。


「……はっ。ただの崖じゃないですの」


 語彙も弁も及ばず、またその異常なまでのユウの裸体に対する熱意も伝わらず、少女は冷めた目を一層細めて鼻で笑う。


「……ん? ちょっと待て。今、ユウって言ったかい?」


 今まで困りながらもシュシュと薄紫色の少女の闘いを静観していた赤髪の女が初めて言葉をこちらに向けて投げかけてきた。


「ユウもユウ! ユウちゃんはユウちゃんですよ!」


「なんじゃそりゃ。まぁ、確かにワシはユウなんじゃが……」


「ひょっとして……ベラムにケンカを売ったユウってのは……」


 あれが果たしてケンカと呼べるものなのか。

 一方的に殴られ、殺されかけたアレはむしろユウにとってはあまり公にして言いたくない過去。


「はい! その超有名人のユウちゃんです!」


 要らぬプライドに葛藤し、口元をもごもごと動かすユウに代わってシュシュは声高々に答え、自分のことのように鼻を尖らせた。


「あっははは! やっぱり! そうだと思ったよ!」


 赤髪の女は水飛沫を上げて眼前まで近付くと握手をするように両手でユウの手を力強く握りしめる。


「ベラムにはあたしたちも少なからず因縁があってね、一泡吹かせてやりたいと思ってたんだ! こう……殴ったんだろ? 横っ面を思っきしさ! 膝をつくぐらいに!」


「いや、それは……」


 噂話というのは誇張されて広がるもの。

 実際は手も足も出ず一方的に殴られて終わったのだが、どうやらシュシュの鉄球がベラムの頬を打ち抜いたのとユウが啖呵を切ったのが混同されてしまっているようだ。

 この赤髪の女が言う者はどちらかというとシュシュの方。だが、その張本人はまさか自分のことを言われているとも知らず、またユウとベラムの死闘を逃さず見ていたわけではない故に『へ〜そんなことあったんですね〜』ぐらいの感覚でユウの顔を感心したように見るだけだった。


「ん〜? てことはあなたたちもギルド関係者なんですかね?」


 虚事を自身の戦果にするなどもってのほか、潔く訂正しようと口を開きかけるが、そんな暇をも与えぬようにシュシュの言葉でそれを止められてしまう。


「え? あ、あぁ! しがないギルドで副団長をやってるヨーコってもんだ。んで、こっちのちっこいのがビスチェ」


 何か信じられない者でも見るような顔でこちらを見ていた少女の頭をヨーコはガサツに撫で回した。


「ヨーコさんにビスチェちゃんですね」


「……勝手に名前を呼ばないでくださいます?」


「いいじゃないですか〜。仲良くしましょうよ、ビスチェちゃ〜ん!」


「ちょ、ちょっと抱きつかーーど、どどどどこ触ってるんですの! ふわぁ……っ!」


「おほほ〜? どうやらビスチェちゃんはこちらが弱いようで〜?」


「嫌っ! 離しーーあぁ……っ。ほ、ホントに……んっ……あぁっ!」


 先程の険悪なムードはどこへやら、蒼銀髪の美少女ビスチェを目の前にして単なるセクハラおっさんと化したシュシュ。激しい水飛沫を上げ、聞こえてくるのは荒い鼻息と艶かしい少女の声。


「あらあら〜? こんなとこに可愛らしい丘がありますね〜? ……はぁ……はぁ……ちょっと登ってみましょうか〜?」


「……ふわぁ……あぅ……ひぐぅ! も、もうやめ……やめ……て……」


 これ以上、放っておけば周囲のお客さんに迷惑(もうすでに周囲に人影はなく、後の祭りであるが)また紅潮させた顔に乱れた息と虚ろな目、視線を虚空に漂わせて惚けるビスチェの身が持たない。

 そう判断したユウはやむなしに手を振りかぶり、





 パァーーーーンッ!!






「ーーおしりっっ!!!?」






シュシュの真っ白な尻に向けて掌を打ち付けた。

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