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裸の付き合い

 次々と飛び交う注文にせかせかと働きながらも笑顔でそれに応えていたフランクはユウ達に向かって大きな身体で大きな手をいっぱい振り、


「とにかく夜道には気をつけてくださいよ〜! またお待ちしていますからぁ〜!」


そう2人を見送ってくれた。

 フランクが何を言おうとしたのか気になるが、節約生活中の身。本日の夕食を終えた今、ここに留まる理由もない。

 汗でベタつく身体を袖で拭い、ユウはさてと切り出す。


「風呂でも入ってとっとと寝るかの」


「そうですね〜。節約生活中とはいえお風呂に入らないのは女の子として問題ですし」


 節約生活初日から3日間、食事はおろか風呂さえもケチり職場で異臭騒ぎを起こしたことを思い出して2人は苦笑いを浮かべながらうんうんと頷く。

 次なる目的地を決めた2人は香ばしい香り漂う店を背に馴染みの浴場へと歩き始めた。






 慣れはした。

 決してグラマラスとは言い難いが、毎日のように己の裸体を見ている今や、ドキドキすることも変な感情を抱くこともほとんどなくなったが、落ち着かない。

 事実、無意識的に自分好みの女性が、それも一糸纏わぬ状態で来れば視線がついつい動いてしまうのは長年染み付いた男の性だろうか。

 そして極め付けは大浴場でありながら肩が当たるほどの距離で湯船に浸かるシュシュだ。

 出会った当初より、その身に抱えた爆弾の影は見え隠れしていたが、こうして湯船に浮かぶ身体に釣り合わないほどの2つの浮島はユウをたじろがせるには十分な要因である。

 いや、慣れはした。慣れはしたのだ。

 最初こそ娘とそれほど変わらぬ少女のあられもない姿に戸惑い、眼を奪われ、幾度となく男湯に逃げ込もうとしたが、自分がまだ盛んな若者であれば迷わず飛びついていただろうが、それでもやはり落ち着かない気持ちは健在なのだ。


「はぁ〜〜うぅ〜〜っ……労働の後の入浴は身に沁みますね〜〜」


 そんなユウの気持ちなどつゆ知らず、シュシュは艶めかしくも気持ちよさそうに吐息を漏らすのであった。

 極力、視線を隣に移すのはやめようとユウは口元まで湯船に沈み、ブクブクと泡を立てるがそれがまた逆効果で不意に動いたシュシュの胸が頬のすぐ横にいたりする。

 慌てて顔を跳ね上げて首を急旋回させるが、見渡す限り裸、裸、裸。下層において自宅またはアジトに風呂を所有している所はそう多くない。また、このような大浴場も指で数えられる程しかないのだ。さすれば、自ずと集まるギルティア国民の女達。銭湯というものが廃れつつあるユウの世界と違って、客層は老若男女様々だ。

 人によっては羨ましいだとかここを天国だ、と言う人もいるかもしれない。が、実際にその身になってみれば感じるのは興奮や高揚ではなく肩身が狭く、居心地が悪いという感情のみ。堂々と他人の裸体を凝視していれば、相手が女であろうと不信感を与えてしまうのは当然。


「……おぉ……」


 ながらもユウの視線は動く。

 人をかき分けるように現れたしなやかな筋肉がありながらも肥大化するまでもいかない美しくメリハリのある身体に目を奪われた。

 シュシュには及ばないが一般的に見ても巨乳と呼べる部類。腰はキュッと締まり、筋肉質ながらも女性らしさを残した臀部。足は長く気品ささえ見える。一種の芸術性を含んだユウの好む理想の体型。頭髪は揺らめく炎ような赤橙色で顔立ちはどこか男らしさを感じるものの女性としても美しい。

 元より、奇抜な髪色にそれほど理解がなかったユウ。この世界に来てはや1ヶ月半ほど、最早慣れてしまったというのもあるが、それでも魅力的な女性だと感じた。


「……お姉さま。なんだかとってもイヤラシイ視線を感じますわ」


 その魅力的な身体に眼を奪われるばかりに見逃していた小さな少女(年齢的に見て14、5歳と言ったところか)は従者のように赤髪の女を庇うような素振りを見せた。


「はっはっ。ここは女湯。周りは女ばかりだ。もし、それが誠だとしても文句は言えないし、何よりあたし自身恥ずかしがる柄じゃないさ」


 だが、それを快活に笑い飛ばすと事もあろうにイヤラシイ視線を浴びせていた犯人ユウの前まで来て2人は湯船に浸かり始めたのだ。


「はぁ〜〜……やっぱり風呂ってのはいいもんだね〜。身も心も現れる気分だよ」


「…………ッ! お姉さま! コイツですわ! この貧相な鶏ガラみたいな身体をした女がお姉さまをイヤラシイ目でっーーいったぁ〜い!」


「この大馬鹿者が。人様に在らぬ疑いをかけて迷惑かけるんじゃないよ、まったく」


 赤髪の女にポカっと頭を叩かれた少女は薄紫色の髪をくしゃくしゃにかき乱して涙を目に浮かべる。

 そのやり取りを見ていたシュシュが口元を押さえてクスクスと声を漏らして笑った。


「なんだか、あの人ユウちゃんに似てますね」


「あぁ? ……そうかのぅ?」


 まさかの事態になんとなく視線を外していたユウは再度、すぐ目の前に座る赤髪の女に眼を向ける。


「……何ですの? 誰の許可を得てお姉さまを見ているんですの?」


 が、それを遮るように少女は前に来ると睨みつけるような冷たい視線をユウにこれでもかと浴びせてきた。

 どうやら、この従者のような少女は赤髪の女のセキリュティシステム的な役割を担っているらしく、護衛対象に向けられる視線にやけに敏感なようだ。

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