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後悔


「そんな大きな声出さなくていいじゃないですか……村ではよく言われてましたよ? 『喧しい女は結婚できない。淑やかこそ女の務めだ』って」


「誰が行き遅れよ!」


 こめかみ辺りに平手を喰らったシュシュが後方へ吹き飛んだ。


「お、おい……何もそこまで……」


「気遣いのできない喧しい暴力行き遅れ女で悪かったわね!」


 テレサも1人の女性。何かしらの地雷を踏んだらしいシュシュがピクピクと痙攣しているのをちらりと見やり、ユウは顔に汗を伝せる。

 テレサの悲痛の怒号長らく止むことはなかった。




 錯乱状態に陥ったテレサが回復するまで、そして見事な掌底をモロに受けたシュシュが今際の際から戻ってくるまでしばらく。騒ぎを聞きつけた協会員の協力もあり、やっとのことで落ち着いて話ができる環境になってからテレサは渋めの湯のみに入ったお茶をムスッとした顔で啜った。


「ねぇ、2人とも。あなたたちは自分が何を言っているか、それが何を意味するかわかってるの?」


「わかってるも何もワシらはギルドを立ち上げたい、それだけの事じゃろうが」


「それね。『ギルドを立ち上げたい』そこはギルド管理協会に身を置く身として、ギルド所属者を支援する身として普通に考えれば応援しなくてはならないこと。そう普通わね」


「普通は…か」


「ねぇ、ユウちゃん。なんだかわたし、頭がクラクラするし……そのこめかみ辺りがジンジンと痛むんですけど何があったんですかね? 何かの病気でしょうか?」


「でも、あなたたちは違う。普通じゃない。その立場にいる人たちじゃない。忘れたわけじゃないでしょ?」


「……ベラムのことじゃな」


「あれだけ悲惨な目に遭いながら何でギルドを立ち上げようとするの? ベラムさんだってつい昨日、拘束を解かれた。あなたたちがギルドを立ち上げればベラムさんがいつ手を出してくるかわからない。でも、それはもうギルド間の抗争。規則として私たち協会があなたたちを守ることは不可能になる。それがわかって言ってるの?」


 先ほどまでの感情に任せたものではなく、説得するような諭すようなそんな重みが言葉の1つ1つに感じられた。


「ギルド管理協会はギルド間の問題には干渉しない、それが決まり。何故どうして、そんなの私にもわからないけどそれが決まりなの。もし、知らなくて言っているのであれば考え直して。これは私の我儘や意地悪で言っているんじゃない。あなた達のことを思って言ってるの」


「……いや、ワシらはーー」




「ーーわたし達はそれでもギルドを作りたいです」




 それまでずっと頭を抑えて唸っていたシュシュがユウの言葉を遮り、代弁するようにはっきりと告げた。


「なんで? どうして? 何がそこまであなた達を奮い立たせるの? 怖かったでしょ? 死にかけたのよ? 次は本当に死んじゃうかもしれないのよ? どうしたのシュシュちゃん、頭を打っておかしくなっちゃったの?」


「正直怖いです。今でもあの日のことを思い出すと身体の震えが止まらないです。……でも、何も出来なかった自分を許せない、その気持ちの方がずっと強いです。悔しいまま終わるのは嫌なんです…………わたし、頭打ったんですか? どこで? いつですか!?」


「ワシらには『夢』がある。『希望』『野望』が成し遂げなければならないことがある。それを叶えるためにはギルド、それが必要なんじゃ」


 視線を一切外すことはなく、長く重い沈黙の時間が続く。息苦しく、胸が詰まるような空気。互いに一歩も譲らずという意思がはっきりと見える無言の攻防戦の末、根負けしたようにテレサが深く長いため息を吐いて前髪をくしゃくしゃと手で乱した。


「無駄。何言っても無駄! 無駄無駄無駄! こんな頑固者達に意見を通そうとした私が馬鹿みたい。あ〜あ、今すぐお酒でも飲みたい気分よ」


 そう悪態吐いてテレサは引き出しから1枚の紙を机の上に置いた。


「すまんの、墓のことばかりか心配と心労までかけてしまったみたいじゃ」


「ごめんなさい。本当にごめんなさい。……なんだかすごいテレサさんが怖く感じてならないです」


「本当そうよ。あのお墓だってね、私すごい苦労したのよ? なんだか恩着せがましいと思うから言いたくなかったけど、あそこは誰かの所有地じゃない。国有地なの。わかる? 国有地! 崖際だからって勝手に立てるわけにはいかないし、でも金銭的頼み以外なら何でも聞くって言っちゃったし!」


「国有地? 今は国を占める国王の席は空白のはずじゃろ? ならその所有権はいったいどこに……」


「王不在の場合はギルド管理協会が臨時に預かることになってるの」


「あ〜、ならテレサさんが協会の偉い人に頼んでくれたってわけですね。わたしはてっきりーー」







「買ったわよっ!!!」







 テレサの握りこぶしが木製机にこれでもかと叩きつけられる。


「か、買ったんですか……?」


「そうよ! お陰で私は結婚はおろか彼氏もいない身でありながら狭っい土地持ちよ! 自分の家だって持ってないのに! へ? そこに何があるかって? お墓! 知り合いの友人のお墓!」


「いや、だが国の保有する地。下層域とは言えども見晴らしも良い一等地じゃ。それなりの値段じゃろ……」


「えぇ、凄い高かったわ。購入申請を出した時、目が飛び出そうになったもの」


 気色が悪いほどの満面の笑みでテレサは答えた。


「なんか……すまんのぅ」


 知らなかったとはいえ、無理を言った身。頭の上がらなくなったユウはらしからず、何度も頭を下げた。


「過ぎたことを言っても仕方ないもの。いえ、本当はユウちゃんの頼みを引き受けてしまったことを凄い後悔したけど……とにかく、今はその話じゃないわ」


 乱した息を整えるように深呼吸してトントン、とテレサは話を戻そうと指先で机上の紙を叩いた。

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