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悪は善と表裏で連なる


「と、ところであのベラムとかいう大男はどうなるんじゃ?」


 瞬時にこれはまずいと判断し、ユウは話題を変えるべく少々の狼狽えを見せつつも切り出してみる。


「そうね〜」


 しかしながら、怒りさえも払拭するには弱い発言。ユウの膝に手を置いて身を乗り出すようにシュシュの頬をつねりあげたテレサは気のない返事をする。

 可憐な少女達(内、1名は20代半ばの婦女)の日常的じゃれあい、傍目から見ればそう見えるかもしれないが、実際は違う。

 間近で見ているユウだからこそわかる恐ろしさ。

 笑顔でシュシュの頬をつねりあげるテレサの眼がまったくと言っていいほど笑っていないのだ。確かにどんな顔をしているかと問われれば笑っている。そう答えるしかない。しかしながら、その眼は深淵よりも深く暗い何かを秘めた、今にもその指先でシュシュの頬肉を抉り取ってしまいそうな、そんな恐ろしさを感じた。


「ひ、ひたいれふッ!」


 その証拠にみるみるうちに紅く色味を帯びていくシュシュの頬。漫画のようなバッテンになった目尻には涙が滲んでいる。


「ユウちゃん達には悪いんだけどね。きっとすぐに出てきちゃうと思うの」


 キュッとトドメでも刺すように捻りを加えてその握ったシュシュの頬肉を離すとテレサは困ったような笑みを浮かべて元の体勢に戻っていった。

 痛みに悶絶し、必死に頬をさするシュシュ。

 相手の善意を踏みにじったシュシュの発言に凄惨な現場に直面した少女達への配慮の欠如。どっちもどっちな気がしてならないが、敢えてユウはその一連のやり取りには触れないでおくことにした。いや、関わればいらぬ面倒事がこちらに飛び火しかねないと直感的に判断したのかもしれない。


「出てくる? なんじゃ、ギルド管理協会ちゅうのは牢獄でも持っとるんか?」


「牢獄、というとちょっと聞こえが悪いけど……そうね。ギルド法に違反した人達を更生させる簡易施設みたいなものがウチにはあるのよ」


「物は言い様な気もするが……まぁ、いい。そこにベラムは連れていかれたというわけじゃな?」


「ベラムさんだけじゃないわ。あの場にいたゴブリン商会のメンバーも一緒のはずよ。ギルド所属者が一般人に手を加えること、ましてやユウちゃんに至っては一歩間違えれば命さえ危ぶまれる状況、それは極めて重い罰則が与えられることなの」


「重い罰則……なのにすぐに出てくると言ったのぅ」


 テレサは苦々しげに頷く。


「そうなの……ベラムさんが上級ギルド『グェン同盟』の所属者だって言うのは知ってる?」


「あぁ、自分で誇らしげに言ってたわ」


「この国において上級ギルドっていうのはまさに特別。それだけじゃなくて、ベラムさんは悪業が目立つ反面、上級ギルド者としてしっかりとこの国に貢献していることも確かなのよ」


「身分が高く、国のためになるから無罪放免っちゅうわけか……なんだかのぅ」


 それを聞いて大人しく野イチゴのジュースをちびちびと口に含んでいたシュシュは訝しげに目を細めた。


「あんな危険な人が国のために働いているとは思えないんですけど……ひぃぃッッ!」


 不意にテレサと目が合ってしまったシュシュが頬の痛みを思い出すかのように小さな悲鳴をあげる。別に威圧しているわけでもなさそうだが、一種のトラウマを植え付けてしまったのだろう。


「ワシも同意見じゃ。あやつが国のために働くとは到底、思えん」


「う〜ん……正確には結果的にそうなっていると言った方が正しいわね。あの戦闘狂染みた性格だから世間を賑わせる犯罪者や無法者たちを懲らしめ、押さえつけているのも彼だし……ユウちゃん達に馴染み深いものと言えばベルセルククレフターの件もそうね」


「ベルセルククレフターっちゃうたら、あの」


「そう、ユウちゃんがボロボロになって何とか退治したあの突然変異型の巨大ベルセルククレフター」


「それがいったいあの人と何が関係あるんですか? だってあれはユウちゃんがーー」


「ーー番いだったのよ」


 シュシュの言葉を遮ってテレサはきっぱり言うと喋り続け、乾いた口内を潤すように少しだけジュースを口に含んだ。


「もう1匹いたのか……ワシらが倒した化け物が……」


「そう、突如大量発生したベルセルククレフター、それを守るように子の悲鳴を聞きつけ駆けつけて来た親。元々、ベルセルククレフターは番いで行動する種。考えてみれば不思議なことじゃないでしょ?」


「例え、そうだったとしても納得できん。あのベラムとかいう変人は自分を虐めてくれる女を探しとるような奴じゃぞ! 化け物退治をするようには……」


「あの人ってね、ある種痛みに飢えてるっていうことでもあるのよ。強すぎるが故に自分を殺してくれる相手を探している、ある意味探求者とでも言うべきかしらね。ジョセフさん、あっ、ユウちゃん達の監査員をやってた人ね。あの人からの報せを受けてすぐに近くにいると予測されるもう1匹の巨大ベルセルククレフターの探索及び討伐の協力を各ギルドに要請したらいの一番に飛んできたわよ」


 呆れ半分、困ったようなため息と苦笑いを順に表情を作り、テレサは頬を指先でかいた。


「さらに驚いたのはあの化け物をたった1人、数秒で片付けてしまったこと。本当にどっちが化け物かわからないわ」


 あれ程まで手こずり、死にものぐるいで討伐を成し遂げた相手をいとも簡単に片付けてしまったらしいベラムの活躍を聞き、ユウは何とも言えない苦虫を噛み潰したような顔で唸った。

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