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闇医者クララ・ホーキンス


「ふ〜ん……シュシュの友達ね〜」


「えへへ〜。ユウちゃんとっても綺麗だから驚いちゃいましたか?」


「……幻視魔法の痕跡なし。どう見ても女。イヤらしい目的で近づいたんじゃなけりゃなんなわけ。お金? こんな貧乏な子に限ってないない。絶対ないわ」


「も〜変な心配しすぎですよクララちゃん」


 真っ裸で診察台と思しき簡易なベッドに寝かされたユウへクララはジッと探るような眼差しを向けながら投げやり気味に顔の前で手を振った。

 どうやらこのクララという小柄なギャル風の少女、見た目に似つかわしく心配性で疑り深い性格のようだ。

 似つかわしくないのはそれだけではない。

 少女の一人暮らしにしては質素で落ち着いた部屋に少々、散らかった部屋。それらは少女らしくぬいぐるみやキラキラと派手な小物もあるが、その大半は分厚い書籍や医療道具、薬瓶などが占めている。仕事用らしき机の上に食べかけの冷めた食事や汚れた皿が積み重ねられ、そこに併設するように診察用らしき硬く薄いベッドがある。

 どうやらシュシュの言う医者というのは間違いなさそうだが、引っかかる所もいくつかあるが。


「シュシュ。あんたマジ臭いからお風呂入っといで。ついでにあたしの服とこのユウって子の服を洗って貰えると助かる〜」


 クララはどうもシュシュの姉的立ち位置にいるらしい。

 未だに疑うような視線をユウに落としながらクララはユウの着ていた服を大雑把に投げてよこした。


「えぇ〜……ユウちゃんの治療見届けてからにしますよ〜。それに久しぶりにクララちゃんの凄腕っぷりを見たいですし」


「つっても、あんた血苦手じゃん。いっつも青ざめてどっかいっちゃうんだから大人しく従えし」


 それでも強制するつもりはないらしく、クララは鮮やかな青色のマニキュアが塗られた両手にアルコールを吹きかけてユウの身体に手を伸ばした。


「うぐむぅ……ッ」


 乱暴に扱われたわけでもなく、僅かな力で行われた触診さえもユウの身体は激痛に悲鳴をあげる。

 鬼のような顔で痛みに堪えるユウに気遣いなどすることもなく、気怠げな表情で淡々と触診を進めたクララはスッとユウから離れて木製椅子の背もたれに深々と身体を預けた。


「全身バキバキに折れてるし、内臓も酷いことになってる。なにあんた? 何をしたらこんなことになるわけ? つーか、よくここまで歩いて来れたね」


「ちぃとばかし、どデカイザリガニ退治をのぅ」


「うわっ、フツーに受け答えするし。ホントーなら昏睡状態に陥っててもおかしくないんだけど」


「ふっふっーなんとわたしとユウちゃんはこんなに! こんなに大っきいベルセルククレフターを退治してきたんですよ!」


「ベルセルククレフター……あぁ、あの泥臭くてまっずい蟹ね」


 身体全身を使って死闘を繰り広げた怪物を懸命に表現するシュシュを横目で一瞥だけするとクララは薬品棚から薬瓶を1つ取り出した。


「それでね、なんとわたしも大活躍しちゃいまして! 聴きたい? 聴きたいですかぁクララちゃん」


「ねー、ユウ。あんた痛みには強い方?」


 得意げに武勇伝を語りたそうなシュシュを華麗にスルーし、クララは注射器に薬液を入れながらユウに尋ねる。


「……うむ。まぁ、我慢はワシの十八番じゃが」


「あっそ。なら良かった。んと、その前に臓器の修復が先か。麻酔はなくていーい? 我慢するのは得意なんしょ?」


 尋ねながらクララは医療道具、メスによく似た刃物をキラリと光らせた。


「それは……腹を掻っ捌かれるの我慢しろということじゃな。いや、う〜ん……何度か刺されたことはあるが、あん時は痛みより怒りの方が優っとったしのぅ……」


「え! ちょっとクララちゃん? な、何をするつもりですか?」


「自信ないならこれ噛んどいて」


 差し出されたというより、ほぼ無理矢理気味に口の中へ押し込まれた数枚の葉っぱ。

 凄まじい苦味に今にも吐き出してしまいそうになるが、涙を堪えてユウは何度もそれを噛み締める。

 途端、身体に異変が生じた。

 麻酔が効いてきた、とはまた違う。少しでも身体が動けば襲い来る激痛は健在にも関わらず、全身は指先1つ動かすことが出来ないほど重いのだ。

 例えるならば、身体が岩になったような、そんな感じだ。1ミリ足りとも動かすことのできない身体、困惑する思考。やがて、ユウは1つの結論を出す。


「ど……く……ッ!?」


 唇を震わすことで精一杯だった。あれほどまで東京中の極道を恐れさせたユウ。その口からは情けないほどか弱く、か細い虫の羽音のような小さな声が漏れる。


「いやいや、医者が毒とか盛らないっしょ。いや、まぁあたしは正式な医者なわけじゃないけど」


 冷淡な口調。クララの持つナイフが皮膚を裂き、血を滴らせながらユウの身体に沈んでいく。

 雷を受けたような激痛が全身を駆け、暴れ回る。全身から脂汗がじんわりと噴き出すのを感じ取れる程に神経は過敏になるが、それでものたうち回ることも大声を上げて叫ぶことも叶わない。


「石化草って言ってさぁ、痛みに暴れ回る患者を無理矢理治療するために使う薬草なんだよね、それ。あたしみたいなのが高価な麻酔薬なんて手に入れられるはずもないし、もし手に入れられたとしてもなんかすっげぇめんどくて危ない取引しないといけないし。だから、安価なこれを使うわけ。どーせ、あたしを頼る奴なんて街医者にも行けない金のない奴らばっかなんだからさ」


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