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バカタレ

 ここに来てから頑なに避け続けて来たその部屋は自分が今、どこにいるかをしっかりと実感させられるものだった。

 大人2人が横になっても床に転げ落ちることはなさそうな広く大きなベッド、そのすぐ横の大きな棚には卑猥な形をした玩具が数多くと並んでいる。それだけでは足らず、特殊性壁を持つ者の為に用意されたのであろう三角木馬や壁に繋がれた鎖の腕輪、巨大な鏡、その中にはユウにさえ使用用途がいまいちわからないものまである。この異世界の一国、ギルティアでは多種多様なプレイが日夜行われているのであろう。


「ーーーーというわけじゃ」


 大きなベッドを1人で占領し、他3人は床に正座させられるという極めて稀なプレイ。

 まさか、娼館という場で連れ諸共、娼婦を説教する客が今までいただろうか。


「…………話はわかりました。わかりましたけどやっぱりわたしには理解できないところがあります」


 腕を組み、黙ってユウの話を聞いていたシュシュはゆっくりと目を開き、徐に傍らに置かれていた卑猥な玩具を鷲掴み、ユウ達目掛けて投げつけた。


「ぐわぁッ!!」


 運悪く被弾したビルが野太い悲鳴を上げて己の額を抱え込む。

 どうやらあの玩具はそれなりに硬い物らしいと密かに理解したユウは静かに唾を飲み込んだ。


「何人だ!? いったいキサマは何人をッ! 何人にぃッッ!! このバカタレがぁ〜〜〜〜!!」


「キサマ? バカタレ?」


 手の届く範囲にあった玩具をやみくもに投げて弾幕を作っていたかと思うと突然、シュシュは金切り声を上げた末に頭を抱え、1人ベッドの上を暴れ回った。


「あぁ〜お終いです。ユウちゃんが……わたしのユウちゃんが……たくさんの人に汚されてしまったんです」


「お前の女になった覚えはない」


 卑猥な弾幕から1人生き延びたユウは友の亡骸に挟まれながら冷静に口を挟む。


「それにまだワシは誰にも体を許し取らんぞ。一度は金に目が眩み、危うい時もあったが同僚が助けてくれた」


「え?」


 闇に堕ちていたシュシュの顔にパッと光が差したように見えた。


「そもそもじゃ、ワシが例え女の身体を持っていようと男に抱かれるというのは少し抵抗がある」


「ですよね! ですよね! やっぱり女の子がいいですよね!」


 あれ、こいつもしかして、と若干の疑問を抱きつつもユウは何とかそれを流してみせ、


「それにしてもなんじゃその声は」


ずっと違和感を覚えていたシュシュの異常に突っ込むことで話を逸らすことに成功した。


「えへへへ〜〜どうです、この声とこの姿。どう見ても男の人にしか見えないんじゃないですか? ウィスリーさんが素性がバレたらマズイと言っていたので変装をしてきたんです」


 フード付きのローブを脱ぎ、ユウは得意げに姿を晒す。確かにあの2度見をするほどの大きな胸は薄くなり、肩に何かを入れてるのか細身の身体が少しだけ逞しく、男らしい体つきになっているような気がする。


「この声はですね、ユウちゃんが貰ってきたアレですよ」


「……あのキテレツな魔法薬か」


「我ながらカッコいい声だと思いません?」


「気持ち悪いから早く元の声に戻してくれ」


「……しゅん」


「その声で()()()とか言うな。鳥肌が立つわ」


「…………お湯ください」






「んで、どうだ? 少しは何か情報が掴めたかハッピーちゃんよぉ?」


 猫舌なのかボーイに届けさせた白湯をゆっくりと冷ましながら飲むシュシュはさて置き、備え付けられていたテーブルを囲んで座る3人。

 亡骸と化したかと思われたウィスリーとビルの2人であったが、何とか一命は取り留めていたらしい。が、その顔面は来店時にもまして痛々しくなったような気がする。

 この騒ぎを巻き起こした元凶が自分達であったにしろ、こうまでズタボロにされて文句一つ言うことなく気持ちを切り替えられるのは素直に褒めたいと思う。


「いや、まだそれほど犯人に繋がるような情報は掴めてないのぅ」


「なんだよ、タダ酒飲んで男に薄っぺらなケツ振ってただけだってのかよおい」


「お、おい。ウィスリー、お前の口の悪さは昔からで治りゃしないものだとよく知ってるが、今だけは言動に気をつけろ」


 あからさまに取り乱した様子でウィスリーを小突くビル。なんてことない、これだけのことをされて愚痴や悪態の1つも漏らさないのは率直にシュシュへの恐怖があるだけのことらしい。シュシュは彼らに()()()()()()()と言ったが、一体どんな詰め方をしたのか。極道の身ながらそれは正直に教えてもらいたいとユウは思う。


「一応、情報がないわけではない。だが、それは別にここで働いていなくてもわかりそうなものじゃがのぅ」


「例えば?」


 そう言い、ビルは紙とペン懐からを取り出した。


「ったく、お前は顔や図体に似合わず几帳面な奴だな」


 呆れた様子で肩を竦めるウィスリーに小さく同意を示すような苦笑いを浮かべた後、ユウはまた口を開いた。


「行方不明となった()()は全部で6人。それは全てオーナーが代わった3ヶ月の間に起きておる。……元締めがグェン同盟に代わってからじゃ」


()()はてことは客の行方不明者の数はわからんってことか」


「うむ、キッドがその不明数に含まれていることは確実なわけじゃが、所詮はここも一夜の楽しみを提供する娼館じゃ。退店した客の安否までは管理しとらんじゃろ」


「消えた娼婦に共通点はあったか? 例えば多額の借金をしていたとか。なければ、その消えた直後の痕跡とか言動一つでも分かればーー」


「ーーいや、その筋も聞いてはみたが、どの娼婦も突然いなくなるような娘には見えなかったと言っておったな」


「……そうか」


 残念そうにビルは肩を落とした。

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