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チンケな能力


「やはりそうですか……なるほど。通りで貴方が()()の根城と化したこの街で1人生き抜いて来れたのも頷ける」


 押し殺したような笑い声を漏らし、マーシュは距離を空けて対峙するナルキスを寒気のするような目で見つめた。


「どうですか? 私と共に神の化身となり、世界を救いませんか? 貴方は生き残りだ。貴方は特別だ。神の血を受け入れ、肉体に()()を宿す貴方ならきっと神も私と同じように資格を与えてくださる」


「所々、言っている意味はわからないが、断るよ。つまりは僕もキミみたいな醜い姿になれってことだろう」


 不用意に近付けば何が起こるかわからない。

 ナルキスは地を滑るように流麗な足捌きでマーシュの中心に回り、隙を伺う。


「警戒している。今の私にはそれが手に取るようにわかりますよ」


 無防備な背中を晒しながらもマーシュは語りをやめない。


「安心してください。貴方のような恵まれた攻撃型の神秘とは違って私のモノはチンケなものです」


 尚も周囲を回り、伺いながらナルキスは冷気を放出して一面を身も凍るような霧で覆い尽くす。

 目の前を真っ白にホワイトアウトさせるようなこの行動はナルキスにとっても悪手、そう思えたが自らを追い込むようなことをわざわざしたりするはずもない。

 観察し、集中すること。そして僅かな霧の流れがこの授能と長く付き合ってきたナルキスにだけ敵の居場所を知らしてくれる。

 マーシュはその場から一歩も動いていない。いやむしろ、振り返ってたり剣を構えたりと少しの動きも感じ取れない。

 余裕か、それとも油断か。相手の精神状態までは読み取れないが恐らく前者。

 ならば、その余裕を、鼻柱を折り砕いてやろう。

 音もなく、ナルキスは動いた。

 狙うは首。首を切り落とせば他の怪物達と同じように一瞬だが、動きは止まる。後は冷静に後処理をすればいいだけだ。

 足音もなく、少しの風を起こすこともなく真っ白な世界を進むナルキスがマーシュの姿を捉えた。

 やはり霧が教えてくれた情報通り、無防備な背中を晒すばかりか垂れ下がった触手にも動きはない。

 疾風の如く振るわれたナルキスの剣がマーシュの首に迫りつつある時に、






「おや? かくれんぼはもう終わりですか?」






首が真後ろに回転し、醜悪な笑みを浮かべたマーシュの濁った瞳と目があった。

 驚きこそあったものの勢いのままに放たれた一閃は最早止めることはできない。

 人間の可動域をはるかに凌駕した体捌きでマーシュはそれを躱し、触手と剣戟の多弾攻撃が襲い来る。しかし、その全てが凍てつく氷の障壁によって阻まれ、その隙にさらなる追撃をナルキス。

 互いの剣がぶつかり、金属を削り合うような甲高い音を響かせて火花を散らす。目にも止まらぬ攻防、どれをとっても致命傷となり得るような正確無比の渾身の一撃の数々はどれも互いに打ち消し合い、体力だけが浪費されていく。


「ちっ!」


 緊張の続く鬩ぎ合いの中、さすがに息の上がってきたナルキスはマーシュの胴をを剣ごと蹴り飛ばし再度後退し、霧の中に身を隠す。生身のナルキスと神の力を得たマーシュ、持久力ではさすがにマーシュに軍配が上がるか。

 荒いだ息を静かに深く吸い、吐き出す。

 授能の反動など微塵も感じることができないのに体力だけは現実通りだ。

 浮かんだ不可思議な現状にナルキスから思わず苦笑が零れた。


「……だが何故、あいつは僕の位置を知ることができたんだ……?」


 冷気の霧に身を隠し、ナルキスは考える。


「音を立てるような失態を僕が犯したとでも言うのか。いや、動きは最小限に且つ素早く動いたはずだ」


 導き出される答えは2つ。


 1つ、神格化により五感の全てが常人の域を超えている。


 1つ、神の力ではなく、マーシュ個人が元々持っている魔法もしくは授能のいずれか。


 前者ならば何かと誤魔化しが効く。後者ならば如何なる手段を打とうとこちらの位置がバレている……最悪だ。

 マーシュはナルキスの授能を目にし、こう語った。



『チンケなモノ』



 もしも、マーシュの能力が何らかの方法でこちらの居場所を探知するものだとしたらこの周囲を覆い隠す霧は何の意味も持たない。

 音を立てぬよう細心の注意を払ってナルキスは霧の中を静かに移動する。

 身に纏う氷のベールも段々と効果が弱まってきた気がする。未だかつてこんな事態に陥ったことはなかったが、それほどまでにマーシュの一撃一撃が強力ということなのだろうか。障壁が機能するであろうはあと数発が限界といったところ。

 持久戦に持ち込むのは得策ではない。






「ーーーーッッ!!!?」






 ほんの僅か、一瞬にも満たない刹那の間にナルキスは霧が大きく揺れ動くのを確かに感じた。

 しかし、気付いた時にはもう遅い。

 冷気の霧を吹き飛ばし、目の前に現れたマーシュの笑みが見えた時にはすでにもうナルキスの肩から多量の鮮血が吹き出していた。

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