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嫌味とため息


「はぁ……」


 このため息はいったい何度目のものだろうか。数えるのも億劫になるほど繰り返されるそれに呼応するよう刺々しい舌打ちと机を蹴る音。それもいったい何度目のやり取りになるのだろうか。

 目の前で、まるで時が戻されたかのように幾度となく重ねられるその攻防をユウはベッドの上でぼーっと眺めていた。


「はぁ……まったく……いやはや……怒りを通り越して呆れたものだな……」


「チッ!」


「まったく僕以外の全員が揃っていながら……はぁ……」


「はぁはぁはぁはぁうるさいですね。何度も何度もため息なんてついて、何か嫌味の一言でも言いたいならハッキリ言ったらどうですかね? それとも何か悩み事でも? 意外ですね〜。そんな悩み事なんて縁遠そうな空っぽの頭でも悩みに頭を抱えることがあるなんて」


「どっちもだな。キミこそ存外、よく気付くじゃないか。てっきり醜く喧しいだけの女だと思っていたよ」


 目を尖らせ、頬杖を突いていたシュシュがまた机を蹴った。


「へぇ〜〜……ふふっ。まさかそんな可愛らしい木の実のネックレスと頭に花飾りをした人に、まさかまさかそんなおめでたい人にそう言われるとは思いませんでしたよぉ」


 ユウたちの凶報を聞きつけて子供たちを送り届けるなり、この協会病院に駆けつけて来たナルキス。その姿にはちらほらと林間学校で起きた微笑ましい名残が見て取れる。きっとそれらの飾りも子供たちからプレゼントされたものなのだろう。

 しかし、シュシュの安い挑発めいた指摘を受け、ナルキスはそれらを外し、大して名残惜しくもなさそうにゴミ箱へ投げ入れた。


「あっ、せっかく子供たちから頂いたプレゼントをよくもそんなふうに……」


 自分が発した言葉がその行動に至った発端であろう、と慌てるシュシュだがナルキスは小さく鼻で笑って金色の髪をかきあげた。


「プレゼント? 僕にとってこれらは何の価値も持たない。道端に落ちている石ころのように意にも介さない無価値なものさ。無能なギルドメンバーの失態を聞きつけ、僕としたことが取り乱したあまりこんなゴミを身につけてここに来てしまったことは確かに恥じるべきことだった。だが、キミはキミで恥じるべきものがあると思うがね」


 人として何らかの欠落があるナルキスがなぜ、教育者として子供たちだけならず、保護者たちからもそれなりの支持を受けていることはギルティアにおける謎の一つである。幼少時からアルケスト家として過酷な生活を生き抜いて来た知恵と生き様が評価を受けているのか、あるいは人間的欠陥を抱えた彼をある種、反面教師的に見ているのかもしれない。

 そう、ナルキスは自分自身と唯一、ギルドの長としてまたは最愛の人としてユウ以外に興味がないのだ。


「気付いていない様なら僕がハッキリ言ってやろう。キミたちはたった2人の相手に何故、それ程までの負傷を負った? いや、この際キミたちが怪我を負おうが死のうが関係はない。問題はキミたちはギルドの長であるユウ様を護るべき立場にあるということだ。それがどうだろうか、このユウ様の痛々しい有様。状況を見て察するにフランク先生は身を挺してユウ様を護ろうとしたのだろうね。だが、キミはどうだろうか? 小さいマリーくんでさえ一時、入院を余儀なくされる程の怪我を負ったというのにキミは……そのブサイクな顔に傷を負ってさらにブサイクになったぐらいで何ら変化が見えないじゃないか。前述した通り、僕はキミたちがどうなろうと知ったことはない。過程よりも結果を大事にするタイプの人間だ。しかしながら僕も鬼や悪魔ではない、情状酌量の余地を鑑みる方だ。僕がウザたらしいガキ達の相手なんかしておらず、その場にいたのなら……キミたち、特に自分だけ軽傷で帰ったキミを見るとそんな憂いが止まらないよ」


「…………ネェ、コイツコロシテイイデスカ?」


 シュシュの目が据わった。


「シュシュ、ダメ。ケンカはよくない」


 横並びのベッド。その最奥に寝かされていたマリーはクララの持ってきた果物を器用に向き、横のフランクに差し出して、ポツリと呟くように言った。


「そ、そうじゃ。シュシュ、お前はシュシュの姉代わりじゃろう。これじゃどっちが姉かわからんぞ」


「そ、そうですよ。それにね、ナルキスくん。私がこんな大怪我をしたのは弱い自分のせいであって、決してユウさんを命を賭して護ろうとした、なんてカッコつくことではなくて……。それこそシュシュさんの方が大変なご活躍を、いやあの顔無しという殺し屋を打ちまかしたのは他でもないシュシュさんでして……」


 得意げに胸を張り、鼻を高くするシュシュ。


「敵を倒したのはシュシュじゃない、クララ」


「マ、マリーさんッ!?」


 が、マリーの一言によってその鼻はへし折られ、張った胸は持ち前の巨乳が嘘のようにどんどん沈んでいく。


「いや、た、確かに敵にトドメを刺したのはクララさんに違いありませんが、追い詰めたのはシュシュさんでふ。シュシュはんのきへんがなけへばわたひたひはもう……マリーふぁん! くはほのひってふはいふっへふぁひほふのひゃふでふぁ!?」


 果物を切ってるナイフは麻痺毒のやつでは、そうフランクは言っているつもりなのだろう。

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