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ベルセルククレフター討伐隊


 街の外へ出るまで約6時間ほどの馬車に揺られ、ようやく辿り着いたのは山間に設けられた広大な農業地帯だった。


 ギルドに依頼書を提出してから間もなく、どうやら締め切りギリギリだったらしく目的地に向かうよう告げられた日付は翌日、早朝。

 無一文のユウは田舎から持ってきた僅かばかりの蓄えを取り崩し、宿を取っていたシュシュの好意に甘えそこへ転がり込み、休息を取ることにした。そして、夜更けに迎えにきた協会の馬車に乗り、快適とは言い難い環境で目的地に向かう。宿ではまだ昼間、加えて仲良くなってまだ浅いがため話が盛り上がってしまったこともあり、なかなか睡眠を取ることができなかった2人は揺れる寝心地の悪い馬車の中で眉根を寄せながらなんとか取りきれなかった休息を取ろうと試みる。が、それも到着を告げる御者の声により叶わなかったことがわかった。

 広大な大地を燦々と照らす太陽が2人の顔を照らす。畑を染める新緑がツヤツヤと光って見えた。地平線まで続く農作物の群は壮大であり、ある種の絶景とも思える。

 街の外へ出るまであれだけ長い時間がかかったギルティアの街の人々の食料を賄っているのだ。これぐらいは当然なのかもしれない。


「うぉぉ……」


「うぅ……」


 充分な休息が取れなかった2人。故に足取りは重く、今にも閉じそうな瞼に飛び込む眩い太陽の光が2人を襲う。

 まるで日光に焼かれる吸血鬼のように険しい顔で2人は目を細め、手のひらで日光を防いだ。

 身体が重いだけでなく、浅く変な風に睡眠を取ってしまったせいもあり頭がずしりと重く、痛む。

 少しでも睡眠が取れていれば、この絶景に一言二言ぐらいの感想ぐらいは言えたかもしれないが、世界を明るく照らす太陽もそれを反射しキラキラ輝く緑も今においては只々、鬱陶しい。

 猫背気味にどんよりと曇った顔で虚空を眺める2つの後ろを馬車が土煙を上げて去っていくと、1人の小太り気味な青年が近付いてきた。


「やや、お二人もベルセルククレフター討伐の参加者ですかな?」


 腹を揺らし、頭に巻いたバンダナの隙間から覗くやや汗ばんだ額を光らせて青年は顎を掻いた。


「拙者はニオタ。今回のベルセルククレフター討伐を仕切らせて頂く『ギルド・萌ゆる夢』のリーダーでござる。ささ、お二人ともこちらへ」


 特徴的な喋り方をするニオタという青年はやや早口気味にそう告げて、後をついてこいと言わんばかりにちらちらとこちらを見ながら先を歩いていく。

 寝不足のため、覇気のない瞳で丸い背中に黙って続いていくとその先の木陰に10人程の姿が見えた。

 木陰にいた面々の内、4人はきっとニオタのギルドメンバーだろう。立ち居振る舞いからなんとなくそれは察することができる。そして残りはガラの悪そうな男2人と化粧の濃い女。顔に傷を負った髭面の男と真っ白なシャツを着た子綺麗な初老の男だ。


「ふむ、これで全員集合でござるな。では、自己紹介から始めますかな。拙者は萌ゆる夢のリーダー、ニオタでござる。で、こっちが同じく萌ゆる夢のギルドメンバー、右からテツオ、ルドオ、ロムセン、キボンヌでござる」


 やはりどこか独特な雰囲気を持った4人は恥ずかしむようなどこか強気のような、または挙動不審に頭を小さく下げて、ぼそりと「よろしく」とだけ呟くように口を動かした。

 どこか満足げに鼻息を吹き、ニオタはキボンヌの横にいた左顔面にタトゥーの入った男に手を差し出す。次、どうぞということだろう。


「くだらね〜。なんでお前らみたいなキモいやつらに名を名乗らなきゃいけねーんだよ。そっちのイカした女達にならまだしもよ」


 そう言って左タトゥーの男はユウたちをじっとりとした目で見つめる。


「ふむ、名乗りたくないでござるか……。協調性の有無は査定に関わりますかな、管理協会殿」


「直接的な査定には響きませんが、協調性もまた仕事を潤滑に進めるには必要かと。その場の態度なども協会への報告書に上げることになりますので、あまり場を乱すようなことは今後のためあまりなさらない方がよろしいのでは、というのが私個人の意見ですな」


 ニオタの問いかけにより、淡々と落ち着いた口調で述べる初老の男。その言葉に左タトゥーの男は不機嫌そうに地面に唾を吐いて、嫌々口を開く。


「俺らはどこのギルドに属してねー。いずれ、でっけぇギルド作っからよ。誰かの下に付くなんてのはごめんなわけ。だからよ、耳かっぽじって覚えとけ、オレ様はアグニ。ギルティア一のギルドに君臨する王となる男だ」


 次に右顔面にタトゥーが入った男が続く。


「ヒッヒッ、兄貴カッケー。オレはインドラ、兄貴が1位ならオレが2位なわけ。舐めた口聞くなよ、カスどもが」


「アタイはソーマだよ。アグニの彼女さ。だからエロい目で見たらすぐにアグニに言いつけるからね、覚悟しな」


 どれだけ言われようが、この3人には協調性というものがないらしい。

 田舎の不良のようにガンをつけるような憎たらしい顔で全員を見渡し、示し合わせていたかのように揃って唾を吐いた。


「ラヴジャだ」


 次は傷顔の男の番なのだが、男は低い声でそれだけ言って下を向いてしまう。

 到頭、ユウたちの番が回ってきた。


「ワシはユウ。鮫島組の頭じゃ」


「ワタシはシュシュです。よろしくお願いします。ユウちゃん、サメシマグミってなんですか?」


「なぁ、お前らオレ様の女にならねーか? 悪いようにはしないぜ? なんたってオレ様は王になる存在だからな!」


「アンタら、アグニに色目使ったら承知しないよ!」


 2人とも未だ覚醒せず、本調子じゃないものの挨拶を済ます。

 そのせいで要らぬことを口走ってしまったユウを何にも聞いていなかったとシュシュが低めのテンションで尋ねてくるが、同じく低めのテンションで適当にごまかしておいた。これがいつものシュシュならこうはいかなかったであろう。


「以上、この11人がベルセルククレフター討伐隊でござる!」


「なんじゃ? そこのおっさんは戦わんのか?」


 自己紹介にも加わらず、さも当然かのように進行しようとするニオタに思わず、ユウの口が挟まれる。


「はっはっ、ユウ氏は面白いことを申しますな。この方はギルド管理協会の方ですぞ」


 馴れ馴れしく半笑いを浮かべながら言うのは確か、テツオだったか。

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