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不気味な依頼

 一方はいつでも応戦できるよう身構え、もう一方は強大な力が迫り来ることに恐怖し、同じように扉を見守り、しばらく。乱暴に扱えばたちまちに崩れ落ちてしまいそうな軋む扉に配慮など微塵も感じられぬほどの力を持ってその両開きの扉は開かれた。

 招き入れもしていないのにズカズカと家内に踏み込んでくる男女6人。その全員がまるで戦時中の兵士たちのように厳格で無慈悲な冷たい顔つきをしていた。

 その者たちに見覚えはない。その無礼者たちの顔にはユウが関わりを持った人間は誰1人いないと断言できる。もしかしたら、街中ですれ違ったり、遠目で眺めたことはあるかもしれないが、言葉を交わしたり、仕事を依頼されたり、肩と肩がぶつかりケンカになったことはないその人物たち。


 だが、彼らが身を包むその軍服には見覚えがあった。


 ヨーコ、ビスチェとユウがよく知る人物であり、力のない今、最も相手にしたくない彼女たちが着る物に酷似していたのだ。


「ユ、ユウさん……い、いったい貴方は……貴方は何をしたん……ですか……?」


 ガチガチとフランクの歯が鳴る。


「さぁ……強いて言うなら何もしとらん。ここ最近はずっとお前と行動しとったんじゃ。お前も知っとるじゃろう」


「なら……どうして……どうして結社フェーシエルが……総統リュゼ・アストゥートさんがこんなところに……」


 兵士たちが左右に分かれて道を開ける。その中央を背の高い女が悠然と歩み出てきた。肩に軍服を羽織り、覗く肌には無数の傷跡がある。女性的な金色の綺麗な髪を揺らし、表情にはやはり軍人特有の厳しさがあるが、余裕の現れなのか他よりははるかに柔らかく、整った顔立ちが魅了する。

 絶対的なカリスマめいたものをユウは感じ取った。


「ほぅ、こんな裏通りにこんな廃墟があったとは……長くギルティアに身を置いているが、初めて知ったよ」


 家主の合図を待たずして、リュゼはユウの対面にあったソファに腰を据えると懐から葉巻を取り出し、口に咥えた。


「小汚いが、住み心地は良さそうか。なるほど、地を這いずる卑しい下級ギルドのネズミたちには御誂え向きというわけだ」


 葉巻から白い煙が立ち上っていく。

 独特なその煙の匂いにユウは顔をしかめて鼻を覆った。


「何の用じゃ? まだ上級ギルドに目をつけられるようなことをしてないと思うんじゃがな」


「まだ、か。はっは、面白い小娘だ」


「ユウさん、口の聞き方! 相手は上級ギルドの、あのフェーシエルの頭ですよ!」


「フランク、お前はうるさいのぅ。こやつはそんぐらいでワシの首を斬るようなつまらない人間じゃないじゃろう」


「そう言われてはな、私も褒め言葉として受け取ろうじゃないか」


 小さく笑い、リュゼは机上のグラスに灰を落とした。


「しかし、何もしていないは聞き捨てならんな」


「あ?」




「うちのヨーコとの対立、それに……そうだな。切り裂き魔事件の犯人を囲っていることとか、な」




 ざわっとユウの背中を冷たい何かが撫でた気がした。まるで死神に鎌をあてがわれたような不気味で得体の知れないもの。葉巻を吸い、まるで日常会話のように放たれたその言葉、その青い瞳に一目晒されただけでユウは無意識に拳を握ってしまっていた。


「我がフェーシエルはこのギルティアにおいて全ての警察組織を仕切る地位を与えられている。だが、 それも国王不在の今に限るとこだがな」


 国王不在の空白期間、ギルティアにおいてギルド所属の罪人を裁くための権利は四分されている。


 罪状を決め、司法を取り仕切る『英霊殿』


 罪人を幽閉し、罪と向き合い更生させるため刑務を仕切る『ヴェルジニタ修道院』


 更生の見込めない極めて悪質な罪人に実刑を、主に処刑人を務める『グェン同盟』


 そして最後に罪人の捜索、確保など警察組織を取り仕切る『結社フェーシエル』


 この4組織でこのギルティアの治安は維持されている。


「なに、警察組織を仕切っていると嫌でもその手の話は耳に届いていくる。困ったものだ、困ったものだが、別段、この職務を嫌っているわけではない。何せ、堂々と軍を持てる、そう許可されたと言って過言ではないからな」


 再び、リュゼは葉巻をふかして白い煙を口から吐き出す。


「安心しろ、その件を咎めに来たわけではない。もし、そうだとしたらこうして正面からここを訪ねたりはしない。そうだろう?」


 同意を求めるようにリュゼは僅かに口角を上げて見せた。ここへ来て初めて見せる笑顔だが、それに気を和らげる効果はなく、寧ろ、その威圧されるような不気味さに身構えてしまう。


「……ワシらを捕らえに来たわけではないとすれば、いったい何をしにここへ」




「仕事の依頼だよ、可愛いお嬢ちゃん」




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