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捕食されればいいんですよ!


「とは言っても蛇目蝶アレを捕まえなきゃならないわけだし、呑気に喜びあっちゃいられないわね」


「はい、わたしの魔法でお怒りのようですし、恐らく罠を作ったとしても簡単にはかかってはくれないと思います」


「近付くだけでお陀仏で、あいては警戒してる状況。ただでさえ、キモいし帰りたいと思ってたのにますますその気持ちが高まってきたんだけど。……ヤメにして帰らね?」


「ダメですよ! やっと見つけた魔具師さんなわけですからこれを逃したらたぶん次はないです!」


「いやいや、考えてみ? 魔具師に弟子入りするなら他でも受け入れてもらえるって。ただでさえ、人手不足なわけだしさ」


「人手不足だからダメなんですよ! 弟子入りができたとしてもきっと丁寧に教えてなんかもらえませんし、大方、他の依頼の手伝い、雑用に回されるのが関の山で自分の作りたいものなんてきっと作らせてもらえません!」


「そこはさ、やりようじゃん? 親方が寝静まった夜更けにコソッとさ」


「いやですよ、そんな泥棒みたいなこと。それに魔具職人に弟子入りなんてしたらギルド活動はどうするんですか。先生なんて柄にもないことをナルキスくんがやってるせいでなかなかこっちだって人手不足なんですからね」


「……ケンカは……ダメ……」


 小さく蚊の鳴くような儚い声が、2人の口論を確かに遮った。

 未だ、身体の痺れは取れず仰向けに空を見上げたままではあるが、マリーは小さな口を懸命に動かし言う。


「マリーちゃん! だ、大丈夫ですか?」


「大丈夫……少しだけ……少しだけ動けるようになってきた……から……」


 2人による迅速な救出と鱗粉を多量に吸い込まぬようマリーが咄嗟に息を止めたことが幸いしてか、痺れはそこまで酷くはないらしい。彼女の言う通り、身体を起こすまでとはいかないが、指先が微かに動いているのがわかる。


「アンタの気持ちはわかるよ。でもさ、マリーがこんな酷い目にあったわけ。あたしたちだけじゃどう足掻いても無理なわけだし、最悪でも誰かに助けを求めるとかしないと惨めたらしく死ぬだけだって。あたしはあんなキモいやつに体液を吸いとられて死ぬなんてのは絶対イヤだからね」


「助け……助けですか……」


 視線を斜め上に上げて何か思案していたシュシュは閃き、手を叩く。


「マリーちゃん! マリーちゃんの授能って自分以外の人も影を通って連れて来れるんですよね? 現にわたし、さっき助けてもらいましたし!」


 アウレア製の落とし穴に落ちた時のことを思い出してシュシュは嬉しそうに言う。マリーがそれに小さく頷くとシュシュの顔は一層、嬉しそうに輝いた。


「ならならなら! ユウちゃんをここに! ここに連れてきてください! ユウちゃんならきっと『ワシはその昔、虫捕りのユウちゃんと言われて〜』とか変なこと言って何とかしてくれるはずですから!」




「……それはできない」




 ハッキリと告げられたその言葉にみるみるうちに笑みが顔から消え失せていくシュシュ。


「すごく遠いとこに行くのはできない。マリーが移動できるのは目に見えるぐらいの距離までだから」


 果たして続けたマリーの言葉がシュシュの耳に届いているのだろうか。顔を伏せたままの彼女に淡々とした口調でそれは告げられた。


「……日を改めてさ、今度はしっかり準備して、助っ人も呼んで来るしかないんじゃない?」


「ダメです。おばあさんの気が変わってしまうかもしれませんし、これはわたしの推測ですけど今日、わたしたちだけでやり遂げなければおばあさんはわたしたちのことを認めてくれないと思うんです」


「あんた、それはさすがにさ……」


 偏屈な魔女で名の通るアウレアのことだ、絶対にないとも言い切れずクララの言葉はそこから続かなかった。


「じゃあ、どうする? 馬鹿正直に真正面から虫網振り回して偶然にもあのバケモノがすっぽり入ってくれるっていう奇跡にかけてみる?」


「うぅ……」


「このまま続けてもみんな捕食されるだけ。どうしても死にたいっていうならあんた一人でやりなよ」


 半分は呆れ、もう半分は怒り。ため息を混じりにクララが今にも泣きだしそうな顔で俯くシュシュにぶつける。マリーとそう変わらぬ子供のように今にも泣きだすかと思えばシュシュの反応はまるでその逆。目から鱗がこぼれた、と言わんばかり、猫のようにくりくりとした目をクララに向けて何度も瞬かさせた。


「な……あんた……まさか……」


 幼馴染だからこそ察せるものがある。

 シュシュのこの顔は自分の不用意な発言から何か良からぬことを閃いた顔だ。この顔を見た日、クララにとっていい思い出と呼べるものは皆無に等しい。




「そうですよ、わたしが捕食されればいいんですよ!」




 自分の言葉に何か悪だくみを手引きするようなものはあっただろうか。自分の発言を一言一句違えずに思い出そうと狼狽するクララだが、その気知らずにシュシュは青空に燦燦と輝く太陽のような笑顔でこう言うのであった。


「やっぱ、くぅちゃんってすごいです!!」






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