表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/22

9 字見、禁忌、大術

頼助は傍らで矢をつがえては引き、次々に兵を殺っていった。

私も、討たなければいくら馬上で矢のリーチがあれど危険なので、元武将のこの躰の赴くままに、懸命に射た。


息は上がりっぱなしだ。時折感じる腕の痛みは筋肉疲労だろうか。脳が若干酸欠気味だが、それすらも無視して射る。


馬上の狙撃はとんでもなく難しく、そんなことを気にする余裕はなかった。

気を一時でも抜いたら、矢が外れて敵の刀の錆となろう。


それでも、射た矢は敵兵を突き、喉元を掻っ切り、一人、また一人と数を減らしてゆく。



どれくらいの時間が経っただろうか。騎馬狙撃隊は順調に敵を撃ち、大方の歩兵を片付けた。私も微力ながら貢献できたんじゃなかろうか。そう思いたいね。

「雪殿、友軍より伝達。敵歩兵隊の殲滅が完了したとのことです。」

頼助は息ひとつ切らさずにいる。流石だ。


「騎馬歩兵隊、こちら本陣。状況を報告せよ。」

前方に展開していた甲壁の一部が発光し、通信機として機能したのでびっくりした。


ええ、報告?困ったな、どうしたものか……ええい、仕方ない!


「ほ、本陣に報告。我々騎馬狙撃隊は敵歩兵の殲滅を完了。直ちに全軍前進、追撃されたし。」

「本陣了解。これより進軍を開始する。騎馬隊の損傷は」

「損傷なし。戦闘の続行も可能と思われる。」


はあ、こんなものか。なんとか通じたようだ。ヲタク特有の博識がこんなところで役に立つとは思わなかった。

「では前方警備を厳とし、作戦の続行を。」

「騎馬隊了解。」


戦闘開始から約4時間。相場は知らないが、結構短く済んだのかと思う。まあ、あの忌まわしき高校の始業から終業までの時間より短いんだから。


そう考えると高校って長かったんだな。


陽が西に傾き始め、我が軍は前進を開始した。



しばらくの前進の後、敵本隊を微かに肉眼に捉えた。

「敵本隊視認。一斉射撃準備……っ!」

指示が急に途切れる。


同時に、体の芯に強烈な衝撃を感じた。


内臓を押しつぶすような圧力と脊椎を砕くような殴打感。


それは今までの破壊的な衝撃のどれとも違う、強く、しかし何とも形容しがたいものだった。


ただ漠然とした苦しい感覚。


ふと振り返ると、先の戦闘では泰然と振舞っていた頼助が、顔面蒼白、焦燥を醸し出している。


…只事ではない。

「本陣、聞こえるか、本陣!」

途絶した通信は依然として不通のまま、不安を煽るばかりであった。


「頼助…?」

「強大な術式波を観測しています。大術の予兆です。一刻も早く退散しなければ!…畜生!」

緊張で強張る頼助の声は明らかに怒気を孕んでいた。

「こんな小戦闘で大術…?字見め、正気かッ!ここら一帯丸ごと吹き飛ばすつもりか!」

大術…響きでだいたい理解した。おそらく、一撃必殺の特大魔法で全体攻撃みたいなもんだろう。

急場しのぎの防衛戦のつもりだったが、作戦に生じた綻びは急激に拡大し、戦場をパニックへといざなう。


どうすれば…!


突然、視界の端に小さな、緑黄の光球が現れる。

「…殿、雪殿、雪殿!聞こえますか!こちら本陣、照光です!」

「照光!」

強い不安の中に安心する声。

どうやって話してるんだ?直接語りかけられてるのか?あ、この球か。

「急場で通信術式をこしらえました。大分粗雑なのでノイズが酷く、通信できる時間もそう長くありません。」

急場でって…すごいな、照光。


「端的に。緊急事態。敵軍が大術、あー、要するに、一撃必殺の特大魔法で全体攻撃を仕掛けてきています。」

予想が一言一句違わずに的中したことを喜ぶ暇はないようだ。

「じゃあ、どうしたら…?」

「まともに食らえば全滅は免れません。本陣で甲壁を…最大展開しますから…その…後ろに退避しつつ、全隊…散開さ…ます。…それでも避け…確率は五分…五分で…」

ノイズが強くなってきた。もう限界か。

「…わかった。騎馬歩兵隊、本陣後方へ後退!」


「術式波増大!大術到達までもう僅かもありません!間に合わない!」

観測手の悲痛な叫びが最後にクリアに聞こえた。



―通信断絶。


兎に角我々は尻尾巻いて逃げるしかないのか、いや、今は迷っている場合ではない。

 

逃げろ。


躰の芯に来る感覚は地響きに変わり、大地を振るわせる。

あまりの揺れに、ついに馬が錯乱し始めた。

「クソッ、落ち着け、落ち着け!」

焦る頼助の声が、一層の不安と恐怖を掻き立てる。


既にコントロールを失った馬が、嘶き、明後日の方向へ走り出そうとする。その急転換のGに耐えられず、騎馬隊は次々に落馬してゆく。無論、頼助や私も例外ではない。


逃げようにも逃げられない。



嫌だ。



地鳴りがピークに達した。周囲が白色光に包まれる。



前方に小さく見えていた柴原の軍は、目も眩む光に呑まれて消えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ