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7 金糸雀初陣


 そんなに重要なことをなんで戦いの直前に言うんだ。気になってしょうがない。

そっちに気を取られて斬られたりでもしたらどう責任を取るつもりだ?


そうぼやく私は柴原家本丸にあった。


我が柴原陣は小高い丘の上に陣取りをした。上から敵陣を眺める形だ。

視界左下には興津川が流れる。川を挟んで向こう側は字見家陣である。


字見家は、柴原家の位置する駿府から興津川を北上した所にある武田家臣下だ。

記憶によると、弓矢による狙撃を得意とする。その精度は、100メートル先の犬猫の眉間を打ち抜くレベルだという。

冗談じゃない。死んでしまうぞ。


ああ、合戦にはぴったりの快晴だ。



「雪殿、この戦いは、とにかく敵本隊を我が領地に攻め込ませないよう防御するのが目的です。なので、今回は『防御甲壁陣形』を用います。」

「防御…ああ、はい」


『防御甲壁陣形』読んで字の如く、防御を最重要視した陣形のこと。五術の一つ『甲術』による防御壁を陣営前方に展開することで、敵の攻撃を防ぐと同時に、敵陣側部から挟み込み動きを封じる一種の戦闘隊形である。

…と、このように簡単に説明はしたが、果たして上手くいくのであろうか。


「本作戦において、基本的に、一騎打ちなどの肉弾戦は行いません。あくまで後方からの弓矢によるロングレンジ攻撃にとどめます。」


一度落とした命だ。もうどうなろうと私の知ったことではない。また死んだら今度は直接神様に文句言ってやる。

もはやヤケだ。が、おかげで緊張もほぐれた。前世、陸上部で鍛えた精神力の強さには多少なり自信があるのだ。


私は初戦闘ということもあって、自陣後部、言わば戦術管制室のようなところにいる。

とりあえず照光の指示に従い、まずは後方支援及び防御戦闘を担当する。


「識別コード認証announce enter “sibahara” 」

何だなんだ、照光が何やらぶつぶつ言ってると思ったら明らかに戦国時代の物ではなさそうな言語が聞こえる。…後で帰ったら聞くとしよう。

「柴原軍に告ぐ。『防御甲壁陣形』繰り返す『防御甲壁陣形』。」

見事に統率のとれた我が軍は、一つの生き物の如く滑らかに形を変え、陣前方に歩兵隊で壁を作った。



「前方5キロメートル、術式反応を感知しました。敵勢力のロングレンジ攻撃です。着弾予想60秒。」

自陣後部に組まれた仮櫓かりやぐらの観測手が声を上げる。と同時に友軍に一層の緊張が走った。


「さあ、雪殿、開戦です。これを。」

そう言って照光は私に和弓を渡した。

渡された弓は、一般に武士が使用する弓、七尺三寸の弓よりも四寸(約12センチメートル)も長い、七尺七寸の四方竹弓である。

こんな特大の獲物を手なづけられるかと思ったが、思いのほか手によく馴染んだ。


「柴原家は代々、体躯が大柄なのです。ですから、弓は四寸伸びを使います。非常に威力がありますから、まさに後方支援にもってこいですよ。あとは体が覚えている通りに従えば上手くいくでしょう。丁度いい、敵の矢を落としますよ。」

敵の長距離狙撃矢が大気を切り裂き甲高い音を纏って来るのが見える。


とうとう来たか、いいよ、やったろうじゃん!


深呼吸。

胸いっぱいに張りつめた空気を吸い込む。

と、躰に力が漲る。何だ?


「甲壁上部集中展開、衝撃に備えろ!後弓隊は弓撃準備!」

「矢を引けえっ」

弓を握り、胡簶ころくから引き抜いた矢をつがえる。


元将軍柴原雪の記憶の賜物ではあるが、いやはや、我ながら完璧なフォームだな。弓道なんかテレビでちょっと見たことがある程度だが、それでも、今のこの形が素晴らしいとわかる。さすがは戦国武将だ。


腕に力を込める。無駄を削り、絞り鍛えこまれた躰は軽々と矢を引いた。


と、その時である。引いた矢の先端がきらりと光を発し、矢先から手元までが金糸雀色に輝いた。

もしかして、これが『五術』?


「てえっ!」

掛け声と同時に無数の矢が放たれる。

それに倣い、私も矢を宙に発射した。


弓を離れた矢は、全て、光を纏って空高く舞い上がり、弾道ミサイルの如く美しいロフテッド軌道を描きながら、敵の矢へと直進する。


「撃墜カウントダウン。5…4…3…」

そういえばどうやって矢で矢を射ち落すのだろう、そう思った矢先だった。


カッ!ズズズゥゥゥンンッ!


無数の矢がすれ違うと思われた刹那、目も眩む光と共に、全てを飲み込むような重音と爆炎を巻き上げて、消滅した。

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