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20/22

20 観測者

そこは、黒を基調としたシンプルなところである。

今日も今日とて元気に気絶(?)した私は、この世界のお約束、超明晰夢の世界へお邪魔している。

DLCが大量に存在するゲームの追加情報に匹敵せんとする程の大量な後付けご都合設定。それをこれからまた聞かねばならないことは、最早、異世界転生という超日常的面白体験を高校の講義へと変貌させてしまったかのような憂鬱感をくれる。はぁ、面倒だ。


見渡す限りの闇。むやみに黒を塗り付けた特大のカンバスで作った箱に閉じ込められているんだろうかね。


埒が明かないので、少し歩いてみよう。そう思って一歩、足を進めると、何やら突き出した壁が額に接触して痛い!

「いったぁぁ…何、これ?」


ちゃんと明かりをつけていないからだ、全く、誰がこんな暗い所に…


「……クッフフ…馬鹿め……」


「誰だ!」

今、確かに声がした。それも男の。

「誰?暗い中から見てんじゃないわ!出てきなさい!」


「暗い?……ふふ、可笑しなことを言う。視界を明暗に依存させているのか、未だに。これだから古い奴らは間抜けなんだな。はっはっは……」


ちょっと何言ってるかよくわからないがとりあえず馬鹿にされているのは明らかだな。敵意というか蔑みの念がビンビンだ。


しかし、眼が効かないのは事実だしなぁ、どうしてやろうか……あっ!


掌に力を集めて、そこにぼうっと、橙の小さな炎を生み出す。


まだ暗いな、しかし、おおよそ身の回り十畳くらいが見えるようになった。

さて、声の主はどこだ、張り手でもくらわしてやろう。


「おや、驚いたな。この短期間で術を操れるようになってしまうとは。古人にしては中々じゃないか?」

声がだんだんと前から近づいてくる。照らす炎が奴の足先をとらえたとき、

「でも、まだまだ」

「うわっ!?」

耳元でささやかれた。

とっさに身をかわそうと体をひねると、付いてきた肘が男のわき腹を捉える。

「ぐうっ!?く、ば、馬鹿!ああやりにくい!これだから古人は!」

そういって悶えながら柏手を打った。


ぱっ、と、一斉に明かりがつく。暗順応を澄ませていない私の目が悲鳴を上げている間に、男は追撃の可能性を危惧して少々間を取った。



やっと、やっと目が慣れてきて、少しづつ視野が開けてくると、そこには先ほどまでいた時代とは明らかに異なる、サイバーパンクの世界観をそのまま投影したコントロールルーム?が見える。


そして、その機械群に囲まれて、暗赤色のコートに身を包んだ男が一人。

大柄なのだろうが、雪殿の躰がデカすぎてほぼタメをはれている。

顔は黒のマスクが覆い、右目のみを露わにしている。なんだか無気味な、見た目だ。


「失礼、取り乱したな。そちら、戦乱の世から来たのだな、その姿を見る限り」

「さっきはよくもあんな気持ち悪い真似をしてくれたわね。それで、貴方、何者?あの時代の者じゃないでしょ」

既に少々嘗められているようなので、ちょっと気を強くしゃべってみた。でも効果あるのかな、これ。


「まあ、いまさら何を言うまでもないが。そうだ。私もまた、未来の世から来た。それは君も同じだろう?」

「……っ!なぜそれを!」

「なに、驚くことはない。私は、そうだな、今は『観測者』とでも名乗っておこうか。時代の流れに齟齬が生じないように監視をする者だよ。君たちの世みたいな戦乱が起きると時代が食い違ってパラドックスが起きやすいからね。それを未然に防ぐためにいる。まったく、君たちみたいな古人は気が荒いからな。すぐに殺し合いを始めてしまって困る。もう少し穏やかに生きられないのか?」

「あんた、さっきから一言余計なのよ!…もう。それで、どうして私をここに?なんの用?」

「話が早くて助かるね。君に見せたいものがあるのさ」

そう言って『観測者』は、そこにあった椅子に腰かけ、さっきまで存在しなかったはずの巨大デュアルスクリーンに向き直って操作を始めた。


……気持ちの悪い奴だ。さっきから妙な薄ら笑いを浮かべているし、変に穏やかな口調だし。耳元でささやかれたのも十分鳥肌だが、何より、さっきからずっと目を見つめてくる。なんか、思考を全部トレースされている感じがして歯が浮く。


「さて、雪君。これを見てごらん。」

なんで名前まで知ってるのよ、ほんとに気味が悪いな……そう思ったのもつかの間、スクリーンに映し出された光景に言葉は失われた。


「これは、私……?」


そこには、我が母校の教室で授業を受ける私の姿があった。


一体どういうことだ?私は確かこの間の自動車事故で死んだはず……それが今や画面の向こうではぴんぴんしている。

「あの合戦の最中、駿河は芝原の頭、芝原雪が落馬ののち姿をくらましたというので不思議に思って注視していたら、微弱な次元震が見られた。その時、全く同時に21世紀で事故を起こしたのが、君だった。」


次元震?何だろうすごくSFの香りがする。

「まあ、細かいことは聞きとばしてもらって構わない。つまりだ。君が事故を起こした瞬間に、過去の時代の合戦において将軍芝原雪が落馬するという類似した現象が起こった。さらに君はその芝原家の末裔であり、そのうえ同名であるといった偶然が重なりに重なり、時空が共鳴した。」

またもや新情報。なんと私は戦国時代に日本の覇権争いに参加した武将の末裔であるらしい。まあ、いまさらこれ位で……末裔?!!!?

「末裔?!」

「おや、知らなかったのか?そう、君は芝原家の末裔だ。だからあんなにすぐ術を使い得たし、軟弱な現代人だったくせに戦闘を生き抜いたんだ。」

「そんな……」

確かに、ただの、一般女子高生にしては転生後少々うまく行き過ぎている気がしないでもない。


「話が逸れた。どこまで話したかな、そうだそうだ、君が事故を起こした瞬間に、君は戦国の武将雪と入れ替わったんだ。」

「それじゃあ、あの、あそこに映ってる私は……」

「そうだ」


こ、これは、これは非常にまずいんじゃないか?ガッチガチの武将が21世紀の高校に編入など、未だかつて聞いたことがない。これでもし、彼女が、『貴様らなどと慣れあうつもりはない。気易く話しかけるな』などと言っていたら、今まで築き上げた通常のJKとしての地位がまず瓦解する。私の一場所がなくなるぞ……ん?あれ?


画面のあっち側では、芝原雪が、JKらしく友人と談笑している様子が見受けられた。


すごいギャップだね。そう考えると、雪将軍、セーラー服中々似合ってるな。


「なんかよくわからないけど、これを私に見せて一体どうしようっての?」

「なに、せっかくここに来たのだ、君を元の世界に戻してあげようと思ってね。」



観測者から放たれた言葉は、今の私をのけぞらせるのに十分すぎる衝撃を持っていた。


更新が不定期になっておりますが、忙殺ゆえ暫くこのまま続きます。連載は終わりませんので、評価、感想とも受け付けております。ご一読ののち一言いただけたら作者冥利に尽切るというものでありますから、引き続きよろしくお願いします。

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