2 渦中の転生
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一生を終えた人間の魂の行き先。
黄泉の国か、天国か、はたまた地獄か。
人間の永遠の謎であり誰もが知りたがる問いだ。学問の権威でも解けるものはいない。しかし、まさに私は今、その答えに直面しようとしている。
さて、ここで一つ君たちに問おう。諸君らは前世、今生、来世を信じるか?
私は信じる。というか、これから起こる何ともお伽噺な顛末を見て信じぬ輩はおるまい。
さあ、お伽噺を始めようか。
…死んだのか?死んだにしてはやけに騒々しいな。ここは何処だろう。
超特大のモーニングスターで殴られたような鈍痛が半身を駆け巡る。あの時と同じ、地面に叩きつけられる感覚。痛っっっったい。
痛覚はもう懲り懲りなんだ。
視界が狭い。躰も重い。腕になんかついてる。これは、甲冑…?
交差点の真ん中で事故にでもあって死んだ筈だ、あまりに驚いたので跳ね起きた。そして跳ね起きられたことにも驚いたんだけど、もっと驚いたのは、そこが合戦の真っただ中だったこと。
もう一度言う。そこは「戦場」だったのだ。
この場合の「戦場」とは、誰かさんが比喩的に状況を表した言語上のモノではなく、その名の通り、血飛沫が飛び交い死体が踊り狂う殺し合いの場である。
目をこする。めちゃくちゃ痛い。手甲がつけられている。
ねえこれ鎧着てるってことはさ、もしかして私も戦ってたの?
いやあ嘘だね、と、思いたかったんだが、まあ、そうであったならどれ程良かったか。
自分が今まであの狂気の中で奔走していたことを肯定するには十分すぎる証拠がそこにはフルコースで提供されていた。
まず、甲冑を頭の先からつま先まで着ていること。そして私の横に筋骨隆々、威風堂々たる様で馬が踏ん張っていること。極めつけは、左の手に返り血で見事真っ赤に染められた、私の背丈の7割に達さんばかりの尺がある槍を握っていること。
さて、どうやってこの状況を否定したらいいだろう。
神様はご丁寧にあの戦場の仲間入りをする以外の道を全て封鎖の上爆破解体してくれたようで、最高精度のスパコンを数百台持ってきて一斉に演算をしたとしても、戦う以外の最適解は生まれなさそうなのである。
さらにさらに、神様はもう一つ素晴らしい贈り物をくれたようだ。そう、時間制限である。ここは戦場、それならば、落馬している敵を見逃すお人好しは存在しない。
もう何が言いたいか解ったろう。その通り、斬りかかってきた。ヤバい、本当にヤバい。
私に武芸の嗜みはないし、家系の誰かしらに武士がいたという事実はない。無論、単なるJKが本気の武士に勝てるわけはない。
詰んだ、完全に詰んだ。頭上から刀が振り下ろされる。
一閃。一刀両断とはよく言ったものだ。すっぱりと斬れて、鮮血が散る。
ただ一つだけ意外だったのは、斬れたのは私ではなく斬りかかってきた敵の方だったことだね。
一人の男がひらりと身を翻し私の前に立ち塞がった刹那、袈裟懸けに敵の武士を斬りつける。
それはそれは見事な太刀筋だった。敵は右肩から左脇腹にかけて斬り裂かれ、振り上げた刀はそのまま、血液を吹き出して地に倒れ伏した。
これが戦場か。
「御無事で、雪殿。お立ちになれますか?」
誰?どうして私の名を?
「その質問には後程お答えします。今は兎に角戦わねばなりません。生き残りたくば、私めに従って頂きたい。」
あんまり情報量が多かったもんで、脳がオーバーヒートしていたのだろう。正体もわからぬ人間に賛同してしまった。
―これが全ての始まりになってしまうことを私はまだ知る由もない。