17 先代と手甲
一週間のブランク、すみませんでした。未だ、忙殺が尾を引いているので、文字数が減少しております。次第に復活しますので、どうぞ、又お付き合いくださいませ。
……ここは?
空間なのか、そうでないのか、なにしろ視界で捉えうるものは、ただ一面の白であるから、目の前が壁なのか空間なのかすら認識できない。
「誰か!居たら返事してえっ!はる!照光!」
届いているのかもわからぬ声を上げる。只ひたすらに叫ぶ。
答えはない。
反響も残音もないこの空間は、私にひどい孤独感を叩き付ける。
「誰か…いないの…?」
「ここに来るにはちと早すぎた。のう?雪よ」
はっと我に返り、仰ぐ。
「誰!?どこにいるの!」
しわがれた声がした先には、男が一人、馬を連れて立っていた。
立派な鷲鼻につりあがった眉は、少々の老いをはらみながら、それでいて眼光鋭く、深く折り込まれたしわと傷跡が、その男を歴戦の壮士に仕立て上げていた。
「あなたは…いや、まさか!」
既視感の正体は、確かにそれであるはずなのだが、先の合戦で死んだと聞いている以上、それを信じるわけにはいかなかった。しかし…
「まさか…先代の?」
「実父を先代呼ばわりはないだろう。雪。それとも使者に現を抜かす暇はないとでも?」
実父。そのまさかであった。
「い、いや、そんなつもりでは」
それはそうだよな、親に向かって先代とは、無礼千万である。
「はっはっはっ、冗談だ。全て知っている。俄かには信じがたいが、主、未来から来たのであろう?奇しくも、同姓同名とはな」
「どうしてそれを…」
死人に耳なしという言葉はあてにならないようだ。全然聞かれているし見られている。これは下手なことはできないな。…じゃなくて!
「あなたは先の戦闘で不慮の事故死を遂げたと聞きました。どうしてここに?」
「いや、その通りだ。私は死んだ。だから今、こうして主の前に霊として化けて出たのだよ。」
お化けの存在を信じるかと聞かれた私は、そのひねくれた性格を存分に発揮して、お化けの非科学性をとうとうと述べたりもしたものだ。まったく、齢十七にしてその心理を知るとは。
「ここは、なんといえばよいか、主のいた世界の言葉を借りるなら、そうだな、電脳…精神世界とでも称しておこうか。」
「ちょっとよくわからないです?」
「ううむ、主、爆術修行中だったな?そこで術が暴走して、死にかけているのだ。だから私がちょっと呼んで助けをくれようとしている訳だな」
…本当に、この世界の住人は揃いも揃って、重大なことをさらっと言ってくれる。ちょっとは狼狽えさせてくれ。
死にかけている?冗談じゃないわ。何回死ねばいい、私は。
「死に…じゃあどうしたら…私どうしたら?」
「うむ。そのために呼んだのだからな。これをやろう。右手を出せ」
差し出した右手に、燃えるように赤い手甲がはめられた。指先から肘までの、長手甲だ。ずしりと重たいが、これまたよく馴染む。オーダーメイドか?
「我が芝原家の術力は強大すぎて本人にさえも封じきれないことがある。その時のための枷だ。きっと術から主の身を守ってくれよう」
「あっ、ありがとうございます」
「さあ、もういい頃合いだ。行きなさい。その手甲の使い方は、主が一番知っている」
ぐいと背を押された。気づくと、最早立つ地はなく、躰が落下した。
「ちょ、ちょっと!待って!まだ、まだ聞きたいことが!」
時すでに遅し。
先代輝時ははるか視界の向こうへ消え、その視界も次第に薄れゆく。
彼が最後に何か言っていたが、ほとんど聞き取れなかった。




