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ピンキーボーイ  作者: 笠原圭子
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異世界?!



「う、いてぇ。猫がけりやがったな、いてぇ。有栖川、ちゃんと抱っこしとけって…ここはどこだ?」

 


 鈍く痛む頭を撫でながら目を開けると、そこには一面のヒマワリ畑が。

 俺はなんとヒマワリ畑のど真ん中に立っていた!!!!!






 ボーッとする意識。

空を見上げると照りつけるような太陽が、目に飛び込んでくる。

「うわ眩しっ」

 目を閉じる。

 顔を背け地面を見ると、背中にジリジリと日光の熱を感じる。

「冷静になれ冷静になれ俺」

 目を閉じたまま自分に言い聞かせるようにぶつぶつと唱えた。

心臓の高鳴り。

頭の鈍い痛み。

瞳のダメージ。

 それらが治まると俯く自分の鼻先から汗がポタリと落ちるのがわかった。

 明日は高校の入学式。

有栖川アリスがそう言っていたっけ???






 さっき見た恐ろしいほど均一したヒマワリの配列に一茶は見覚えがあった。

 ヒマワリといい、この照りつける日差しといい異常だ。

 突然背筋がゾッとした。

「おーい、一茶くーん!」

 俺はハッと顔を上げた。


 遠くで小さい子どもをエプロン姿の女性が追いかけている。

「一茶くん!まてまてーーー」

 蜃気楼の向こう。

一茶くんと叫ぶ女性。

呼ばれてキャハハと笑いながら逃げる小さい男の子。

間違いない!ここは一茶が通っていた幼稚園だ。

「先生…穂波先生!」

 口からその名前が漏れた。

 大好きだった穂波先生。

 俺が年長になってすぐにいなくなってしまった穂波先生。寂しがる一茶にと母親は姫を買ってきた。穂波先生にそっくりだったから。



「あっ姫たん…!!!。姫たんはどこだ!」

 確か胸に抱えていたはずだ。はっとして手元を見ると地面に落ちているのを発見した。慌ててひろいあげる。

「あああ、姫たんこんなに汚れてごめんよ。帰ったら綺麗にしてあげるね。」

 よしよしと頭を撫でる。

 そして穂波先生が小さい一茶を追いかけるのを姫たんとしばらく見ていた。

 姫たんが居れば驚くほど冷静だった。不思議な世界はリアリティー溢れる夢だと思えた。

《おい!》

 急に後ろから嗄れ声がしたので振り向いた。

 有栖川アリスの猫、ポットがヒマワリ根元の間をすり抜けこちらにやってきた。

「何だお前か脅かすな」

《ポット様と呼べ人間。お前この状況で驚かないのか?》

「驚かないのか?だって?バカか。驚くわけないだろう。ここは夢の世界なんだからな。猫がくっちゃべろうが驚かねえぜ。大好きだった先生に会えたんだ嬉しいぐらいだ」

 猫はふんっと鼻を鳴らせて、不満げな顔で俺と同じように前を見つめ、黙った。そしてしばらくしてまた話始めた。

《オレはただの猫じゃない。【夢喰い】だ。》



 ▪️



 照りつける陽射しの中、ひとりと猫一匹が、だらだらと歩いている。

《おい人間。お前どんだけ田舎に住んでるんだよ。家まだか?》

「お前がここに連れてきたくせに文句言うなよ。」

 地井一茶は幼なじみの有栖川アリスの猫、ポットが話したことにも驚かずあーだこーだ落ちもなくつらつらと会話をしながら家路に着いた。

 一茶の家の前でポットは

[リセット]と言うと、キーンと耳鳴りがして頭を殴られたような衝撃が一茶に走った。



「ちょっと…ちょっと一茶!!一茶!!しっかりして!!!」

「有栖川?」

「うわーん、ごめんね一茶。あわわ、どうしようどうしよう頭うったんじゃない??」

 有栖川アリスは長いツインテールをぷるぷるを震わせて涙目でおどおどしている。一茶はそんな有栖川アリスをそっと抱き寄せて、大丈夫大丈夫だから。と囁き、ふう、とため息をついた。

「泣くなよ有栖川。俺は大丈夫だから。」

 有栖川アリスはうんうんと頷き、だんだんと落ち着きを取り戻していった。




 ▪️



 満開まであと少しの桜。

 並木道を地井一茶は歩く。一茶の隣を歩く少女は有栖川アリス。幼なじみである。鼻唄混じりで歩く彼女のオレンジ色の長いツインテールが揺れている。

「今日から高校生ね。私たちが高校生って信じられないね、一茶」

「そうだな」

 物心ついた頃から有栖川アリスとは友達だった。保育所に通っているときから苛められて泣いてばかりいる有栖川アリスを地井一茶はいつも助けている。

<可愛いアリスちゃんをいじめるな!!!>

 彼女と並んで歩いていると幼い頃の記憶が蘇る。有栖川アリスが【可愛いから】苛められている。ということに気がついたのはいつごろだっただろう。オレンジ色の長いツインテールが揺れるたびに、ふわふわと甘い香りがした。

 幼なじみとして一茶は素直に有栖川アリスの幸せを願っている。恋心というよりは親心だ。とさえ最近は思っている。

「一茶は何部に入るの?」

「ハンドボールかな」

「漫研じゃないんだ」

「俺は姫たんを愛しているだけで、漫画が好きなわけじゃない」

 姫たんとは地井一茶が保育所に通っていたときの担任、穂波先生にそっくりな女の子の綺羅りん姫というキャラクターだ。穂波先生が突然やめてしまい寂しがっていた一茶に母親が綺羅りん姫のフィギュアを買い与えたのが姫たんワールドへの入り口で、高校生になった今はすっかり住人である。姫たんを愛し姫たんに会うために過ごしワールドの住人として姫たんとの恋愛を一途に楽しむうちに、穂波先生の存在は一茶の記憶から消えていた。そうあの一件が起きるまでは


 ーーーーーーーー明日に入学式を控えた日、一茶を訪ねてきた有栖川アリスの腕に抱かれた太った毛の長い猫のポットに蹴られて気を失い、目覚めると一茶はある場所にタイムスリップしていた。タイムスリップしたその場所とは一茶と有栖川アリスがかつて通っていた保育所だ。朦朧とする意識がはっきりとしてくると、その光景は鮮明になり体感する空気はまさにリアルそのもの。そして、保育所の園庭では幼い一茶を追いかける担任の穂波先生の姿があったのだ。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あの一件はどうやら一茶が気を失っていた間の夢らしい。あのとき部屋でポットに蹴られて倒れた一茶に有栖川アリスは必死に呼び掛けていたそうだ。しかし一茶は妙に納得がいかないでいた。有栖川アリスの猫の発した[リセット]という声が生々しく今でも耳に残っている。


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