爆死して最初の仕事がビッグバンというのは皮肉ですかね?
三十五才男性、社畜。それが私でした。ええ。過去形です。
会社の倉庫を整理していたら地震がおこりまして。いえ、地震で潰れたわけでもなく閉じ込められて餓死というわけででもなく。
こぼれた可燃性の薬品が気化していたところ、屑上司が煙草片手に入ってきたのです。火気厳禁と書いてあるのに。
そんなわけで私は爆死しました。悔いはありません。憎い上司は自業自得で死んだでしょうし、趣味も家族も特に未練になるものは無かったので。
なのですが……何故か私は不思議な女性と向き合っています。この女性、黒髪黒眼と日本人的なのですが踝まで届くのではないかと思うほど長い髪と前髪に混じる白い房に、何より背に広がる翼二対の白と黒の翼が普通の人間ではないことを物語っています。
それに今更ですが地面も何も無い空間にいる時点で普通では無かったですね。
「ずいぶん落ち着いているようね」
「焦って逆に落ち着いているのかもしれません」
「では混乱する前に単刀直入に。異世界に転生してくれないかしら?」
「いいですよ」
「……質問とかしてもいいのよ?」
「なるようになれが私の座右の銘なので」
というわけで私は異世界 《に》 転生しました。はい。異世界になったんです。私。どういうことでしょうね。
『チュートリアルモードを開始しますか?』
真っ暗な世界の中……いえ、私の中で変な声が聞こえました。非常に怪しいですが他に手掛かりはありませんしお願いしましょう。
『了承。チュートリアルを開始します。まずは物質の種を起動してください。確認しました。物質世界が形成されました。次へ進みますか?』
言われるがままに物質の種とやらを起動してみたところ、大爆発しました。これはあれですね、天文学だかなんだかで言われるビッグバンというやつですね。死因爆死の私としてはなんとも言えない始まり方ですが。
その後も欠片をぶつけて星を作ったり水を作って命を作ったりチュートリさんの指示通りに進めたらなんと。地球っぽい星が出来ました。
『チュートリアルプログラム、天地創造は以上です。続けてチュートリアルプログラム、生命進化を開始しますか?』
チュートリさんが次のプロセスに進むよう促してきてますがどうしましょうか……私としてはこの地球(仮)の様子を見てみたいんですけどね。
『了承。チュートリアルプログラム、アバターを開始します』
え?アバターっていうとあれですか。あの地球(仮)に仮の肉体を送り込んだりできるんですかね?
『肯定。種族、容姿、性別等多数の項目の設定が可能です。初回はプリセットの使用を推奨します。生成しますか?』
面白そうですね。社畜人生では満喫出来なかった自然を堪能できるかもしれません。やってみましょう。
『了承。プリセットアバターを地球(仮)へ転送します。転送座標を安全性優先で検索。確定しました。転送開始します』
おお?意識の一部が引っこ抜かれるような、それでいてちゃんと繋がっているような不思議な感覚がしたと思ったら意識が二つに割れてました。いや、人間としては説明できない感覚なのですが、強いて言うならばテレビを見ながらスマホを操作するような感覚でしょうか。あくまで主体はこちら、世界全体側なのですが意識の一部が地球(仮)の中にあるというとても不思議な感覚です。面白いですねこれ。
ちょっとアバターの方へ意識を集中してみましょうか。
こちらは不定期連載になります。気が向いた時に書く代わりに一回の更新での文章量は多めにしようかと。