黄昏時の出発
こんにちは。
少し違うジャンルに手を出してしまいました。
拙い文章ですが、どうぞよろしくお願いします。
夕刻。森の近くの薬屋の老婦人は足元でお行儀良く座って待っている三毛猫をひと撫でした。
「ありがとうニャン助、その薬はこっちよ」
コトコト。コトコト。
大鍋には、爬虫類の干物であったり、野草が川から引いてきた新鮮な水と共に煮られている。
のどかな雰囲気が漂う薬屋から、三毛猫…名はオズという、が数歩森へ出る。
いつもと違うオズの行動は老婦人に寂しさをもたらした。
オズの元まで老婦人はスタスタと歩く。
「あら、ニャン助はまた旅をするの?」
ニャアァ?(奥さんは寂しいかにゃあん?)
「ええ、貴方はフラリとどこか行くもの。でも、また帰ってきたらおいでね」
二人は古い仲だ。
オズも彼女もお互いの事を広く知っている。
老婦人が言葉が分かるのは、魔法という不思議なエネルギーをオズが使っているためである。
ニャアと言っても、特定の相手には伝わる様に魔法を操っている。
オズが今いる国はサガーナアトラ王国。
魔法や商売で栄えている一方、裏では魔動物と言われる魔法を動物などの生き物と掛け合わせて出来たものを闇市などで他国から自国までの高い値段で売っている国。
オズは魔動物である。オス三毛猫が魔法と掛け合わされ、知能と能力、長寿などを得た者___それがオズの正体だ。
オズは闇市に商品として売られそうになった時に知能が目覚めて、必死で逃げたどり着いたのが、のどかな老婦人の薬屋だったのだ。
それからはたまに顔を老婦人に見せつつ、旅をしていくのが、オズの気分転換だった。
一度離れると、三年程顔を見せないので、老婦人はそのことが寂しいのだ。
いつも通りの座敷袋の中に回復薬などの薬を無償で老婦人は入れてくれる。
『帰って、必ずよ』
最初に別れた時は、まだ若かりしい頃だった老婦人がオズの両前足をキュッと握りしめた。
ニャンにゃ(帰りますとも、必ずな)
…今も昔も答えは変わらない。
「…これで全部ね、じゃあニャン助、他の方々にもよろしくよ。最後に、必ずお帰りね」
ニャにナナァ(奥さんも元気でいりゅんだぞ)
黄昏時に一匹の猫は老婦人の薬屋を出た。
これからが長い旅路である。
ここまで読んで下さってありがとうございます。