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疑惑と憤激

 勝利は今日も朝早く学校に来てトレーナーに着替えた。時計は5時になったばかりだった。教室には戸田がおり勝利は今日のメニューを聞いた。


「今日の朝練は?」

「何で聞くんだ。自分で考えないのか?」


 眠いのを抑えながらやる気を出している勝利を戸田は突き放すようにきつい言い方をした。その意をなんとなく勝利は汲んだ。これ以上は聞くまいと。


「わかった」

温和に短く察したような言い方でそういうと勝利は外へ駈け出して行った。戸田は反省も踏まえ考えていた。

 彼の為にきつくしてるとはいえ。

「きつい事言ったかな。あまりやると午前の授業に響く」


 勝利は1時限目居眠りをし、先生に怒られた。

「こら!」

ぽかりと叩かれ、むにゃむにゃと目を覚ましたが事を理解した。

反応が面白いのか周りは笑いに包まれた。


しかし勝利は釈明した。

「すみません、朝練のせいで眠くて」

「朝練?」


「はい、ボクシング始めたんです」

教師は意表を突かれていた。 

同時に、ええ、すごい、と言う声がクラスに響いた。



 話をききたくその後の休み時間は勝利の前に何人もの生徒が来た。

「すごいじゃないか。よくやる気になったな」

「どんな練習してるの?」


 その様子を真澄は複雑な気持ちで見ていた。

(日向君が練習してるのは私のせいだ)


 戸田の所に勝利は来た。さっきまでより少し明るい。

「あのさ、聞いてなかったけど、もし負けたらどうなるんだ?」

「あっ! 条件を聞くのすっかり忘れてた」


 大木は言った。

「もしかして何でも言う事聞かされるとか……」

戸田は言った。


「多分、我々が勝つとは夢にも思ってないんだろうな……まあ大木君が引き分けてくれれば……後は一勝一敗だから」

「まてっ! それは俺が負けるって事か?」


 勝利は突っ込んだ。

「まあ、俺が相撲殺法で何とかするよ」

「それってボクシング?」


 真澄は昼食を楽しみにしていた。

(今日は日向君と向き合ってたべよ……)

 


そこへ神山が昼休みに弁当を持ち真澄の所に来た。真澄は戸惑いの表情を見せた。

「ちょっといいか? 椿、今日俺と飯くおう」

「神山君……」


「まだ転校してきてからお前とあまり話してないから話そうと思ってさ。隣いいか」

「う……うん」



2人は隣に座った。少し気まずい沈黙が続いたが神山が切り出した。

「椿の弁当って親が作ってるの?」

「ううん、自分で作ってる。母は病気なんだ」


「そ、そうか、すまない、じゃあ世話してるのか、悪かった。ところでお父さんは?」

「離婚したんだ……」

「色々ごめん。俺椿が転校したの親の転勤だと思ってたんだ。」

しかし失礼とも思える神山の言い方にも真澄は怒ってはいなかった。


「ううん、僕が自分で決めたんだ。あまりほかにアドバイス聞ける人いないんだけど」

「ここの学校のどこが良かったんだ?」



 今度は神山は少し真澄を信頼して聞いた。

「男の子はすごく学費が安いでしょ。助かるんだ。あと雰囲気のいい学校だって友達に聞いたんだ。進学した友達の友達から聞いたらしい」


「そうだったのか、なかなかいい情報を得たね。実際来てみてこの学校はどう」

「うん、最高だよ。良い人が多くて」



 その言い方と表情には偽りがないのは神山も感じ取った。しかしまだひっかかったものは消えない。

「それはよかった。ところで全く話は変わるけど、ちょっと手を見せてくれないか?」


「ああ、いいけど…が」

さすがに今度は真澄も理由がわかりかねるようだった。

(この前日向が見たとき拒絶してたからな・・それは女だからからかも)


 神山は手を見た。じっくり手のひらを触りながら見た。

「白いけど結構固くなってる……」

「ああ、炊事と洗濯良くやるからだね」


 真澄は笑った。神山は

「主婦の手みたいだな」

「結婚はまだだけど」

(普通、主婦みたいだと言われたら、自分は男だ主婦じゃない、結婚して主婦になるのは女なのにまだって言い方はおかしい。それに男は手が固くて当たり前だから柔らかいとか白いって言われたら違和感を感じるはずなのに感じてない。そもそも手を俺が何故見たのかあまり理由を考えてないみたいだが……俺の事は信じてるのか。でもどこかおかしい。もしかして男は学費が安いから女なのに男のふりをして・・別の理由ならともかく、学費を安くすませるためだったら非常にまずい行いだろう。苦労してるのはわかるし同情もするけど)


 そんな時戸田が日向に言った。

「ねえ、プーチンって子供の頃スパイになりたかったらしいよ。ただミッションインポシブルとかかっこいいけど、周りの人をずっと騙さなきゃいけないわけじゃん。それって大変だよね。

真澄は複雑な気持ちになった。


 勝利は日曜日両親に呼び出された。相変わらず傲慢を絵に書いた態度で威圧するために座っているようだった。

隙もみせない。


勝利はしぶしぶと恐れの両方の感情で一杯だったが、努めて顔に不満を出さず従順に振る舞った礼儀正しい座り方をした。


「最近帰宅が遅いのは何なんだ?何をやっている?」

勝利への憎しみがこもり一瞬の隙も見せず威圧した。勝利は緊張しながら切り出した。


「ボクシングの練習をしてるんだ……」

「ボクシング!?」


 反社会的な物を見るような怪訝な顔をした。

「うん、友達のコーチで」

「なんでそんな事をしているんだ」


スポーツをする事に「何で」等と言う疑問を抱くものなのだろうか。

「実は1回だけだけど試合に出る事になって……」

「試合!?」



 さらに欺瞞と憎しみが強くなった。

「う、うん友達を助けるために。ちょっとトラブルがあって。」

「女か」

 


 今度は憎しみと威圧だけでなくいやらしさも目つきに加わった。さすがにこれは心の奥を突然突かれてかっとなった。

「女じゃないよ嫌な言い方だな!」


「理由は良くわからんが、お前は受験生なんだぞ。そんなことをしてる暇がどこにある?すぐにやめろ。」



 勝利は身を乗り出した。

「ちょっと待ってよ! じゃあ友達はどうなんるんだ?」

「お前の友達などくだらん人間だろう! それに自分以外はみな敵と思えとこの前言ったろう!そんな甘い気持ちじゃ受験に失敗するぞ。」


 勝利はくだらないと言われて怒りで身を乗り出した。

「くだらなくないよ! それに受験の事だってちゃんとやって両立させる。」

「勉強をしたくないから友達のためなんてうそぶいてるんだろう」

勝利は怒りで体が震えていた膝も拳も。しかし言い返すのをやめた。


 勝利は夜11時半に荷物をまとめた。そして玄関へいき鍵を開けた。

(出て行こうこんなうち)


 勝利は人気のない夜道を歩き少し離れた公園に行った。いかにも悪人がいそうな気配だった。勝利はおそるおそる中に入りベンチを見つけた。わきに荷物を置いた。


 しかしもう心身ともに疲れ、これ以上歩き回るのもつらかった。

「今日はここで寝よう。よいしょっと」


 恐る恐る周囲を見回しながら横たわったがベンチの板は背中に冷たく硬かった。寒さと公園が醸し出す不気味さでどうにも落ち着かず上体を上げた。そのままベンチに腰かけていた。


 すると人の気配がした。突然ホームレスの男性が隣に来た。60代のやせほそりひげを伸ばした、また白髪も長髪でよぼよぼだがどこか目に強さの様な物を不思議と感じた。


 世の中や人生を知っていそうな雰囲気だった。

「家出かな?」

勝利は戸惑ったが返した。まだ警戒心はなくなっていない

「は、はい」


「何かあったのかな?」

「親がひどい人で……」

「そうか、でも儂にはうらやましいよ」

「えっ?」


「儂には親もお金もすでにないんじゃ……たとえ変な親でもいないよりずっとましだと儂は思う」

「……」


「家出なんてせずに家に戻らんか?君は人生を台無しにするのは早いぞ。」

「はい……」

勝利の心の中が変わった。そして荷物を持ち家に向かった。

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