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心残りはなく

 優馬が光子を連れ出してからは一切日向家とは連絡を取らず、都内の優馬の1人で住むマンションに2人で住んでいた。2人は確かに安堵した。しかし光子は時々何かを気にするようにそわそわしていた。優馬は気遣った。

「前のご主人の事を気にしているのかい?」

「いいえ。」

「じゃあ、息子さんが心配なの?」

「・・・」

「やっぱりそうか・・確かに家出してしまったようだし、もし戻ってきてもあの家に住む事になる。」

「・・」

「もしあれだったらこの家で息子さんの面倒を見る。」

「ありがとう、だけど・・」

「だけど?」

「あっ、なんでもないわ。」

光子は明らかに何かをごまかしていたが優馬は気づかなかった。光子は優馬がいなくなってから写真をとりだした。それは勝利が国木田と一緒に撮った写真だった。

「私があの子から離れれば・・あの子に女が近づくのを防ぐものがいなくなる。それは出来ない・・この国木田と言う女許さない・・」

光子は写真を握り手を震わせた。


 病院の近くで真澄が待っていると勝利と国木田が手を取りかえってきた。真澄は明らかに不機嫌だった。

それをあおるように国木田は普段言わないきつい冗談を言った。

「借りものの日向君をお返しします。もうご飯終わったから後はご自由に。」

鼻につく言い方だったがさらに決定的な事を国木田は言った。

「本当はその先に行くのが楽しみだったんだけど。」

と少しいやな笑い方をした。さすがに勝利と真澄は仰天した。

「なっ!」

「あと、さっき日向君に告白したから。」

「なっ!」

さらに真澄は仰天した。国木田は言う。

「私にだって告白する権利はある!権利は同等のはずよ。」

「私だって!」

真澄は必死だった。勝利は唖然としてどうしていいかわからなかった。国木田は言う。

「私だってあなたが何となく日向君を好きそうだから抑えていたのよ。」

「ごめん。うそつきの私なんかに。」

それは皮肉でもなんでもなく自分が知らずの内国木田を傷つけ気を遣わせていた事への謝罪だった。国木田は少し突き放すように言った。

「別に謝ってもらわなくていいわ。でも私これからは気持ちを抑えない。自分の本当の気持ちを出していく。」

真澄は黙り寂しげな顔をした。そこには敵意はなかった。そして切り出した。

「うん、私もうすぐ・・」

「えっ?」

意外な話の展開に国木田は戸惑った。真澄は説明を補足した。

「明日、学校で話すから。」


 次の日真澄はホームルームの時間黒板の前に立っていた。そして西巻が少し辛そうに切り出した。

「えー誠にさびしく残念ですが、椿君が今週中に転校する事になりました。」

クラスはさすがにどよめいた。とりわけ勝利と国木田は胸を撃ち抜かれるようだった。西巻は説明する。

「椿君が転校するのはやはりお母様の病気がひどく、その看病のため環境のいいところに行く事になったのですが。」

と言いかけた時、真澄は制した。

「先生、僕から説明させて下さい。」

と言って思いをかなり胸に秘めた顔で心情を絞り出すように話し始めた。皆は何の話かと強く真澄を見つめる。呼吸を整えついに真澄は言った。

「僕みんなをだましてました。僕、実は女なんです!」

さすがにクラスは騒然となった。事態を飲み込めていないようだった。勝利は一番辛そうだった。

「僕はインチキをしました。家は学費がはらえなくて男子の学費が安いこの学校に男装して入ってきたんです。」

西巻は止めた

「そ、それだけの理由じゃないんだ!」

そこへ教室のドアが開き真澄の母親が入ってきた。

「皆さん、娘は学費のためだけじゃなく、私を守るため強くあろうと男の恰好をしていたんです。だからどうか真澄と仲良くしてやってください。」

「母さん・・」

真澄は涙がにじんでいた。その時勝利は戸田にサインをして何かを思いついた。そして勝利は言った。

「お母さん、大丈夫です。僕たちに任せて下さい。」


 休み時間皆を集めた勝利と戸田は真澄も連れて来た。勝利は言った。

「皆、これから走れメロスごっこをやる。それで許してやってくれ。

と言い真澄の顔を拳で殴った。さらに戸田も真澄を殴った。皆は一体何かと思った。勝利は言った。

「椿、今度は君が僕を殴るんだ!」

戸惑いながら真澄は勝利を殴った。かなり効いていた。勝利は言った。

「これが走れメロスごっこ。確かに椿は女だったけど、男の友達として振る舞ってきた。だから男同士なら殴れると思ったんだ。」

戸田も言う。

「皆、これで許してやってくれ。」

さすがにクラスは騒然となり、同時に真澄に対する怒りや疑念も消えた。真澄は

「ごめん、私からもう少し。」

生徒たちは真剣に聞いた。

「短い数か月の間でしたが、皆さんと会えて本当に楽しかったです。とりわけ日向君、戸田君、国木田さんには本当にお世話になりました。とっても感謝してます。」

その3日後真澄は転校して行った。


 ところがそれだけでは終わらなかった。いきなり教室の扉が開き鬼の形相の光子が入ってきた。

「母ちゃん、なんで!」

光子は憎しみを込め教室中を見回したそして国木田に目を付けて向かって行こうとした。

「国木田未来・・!勝利をたぶらかした女・・!」

憎しみを込めたつぶやきと共に国木田に襲いかかった光子を西巻は取り押さえた。

小宮は光子と話した。

「日向君はご両親との心の傷で重い病気にかかっているのです。今治さないと大人になって治らなくなります。」

「わ、私は・・何もしていない・・!」

西巻も言う。

「貴方たちは日向君をおいつめ何度も我慢ばかりさせた。だから我々も彼を救わなければならないのです。」

「彼の病気を治すために彼をご両親から引き離し自信を持たせる必要があるんです。」

「私は何もしてない・・!皆姑が悪い・・!」

光子は悔恨よりも力のなさを悔いているようだった。


 それから数か月は受験勉強期間のため、大きな事は起きず皆受験に集中していた。そして勝利の第一志望合格発表の日、番号は掲示板に会った。


 勝利と父親は口を聞かないままで帰ってきても話さない、その雰囲気はずっと続いていた。


 そして卒業式の日何と真澄がお別れ会に参加した。勝利と2人でフルートを吹いた。

「国木田には僕から告白した。」

「そう・・」

真澄の動揺は計り知れなかった。

「でも大学受かるまではデートとかしない様にしている。」

「そう・・」


 真澄は校庭で1人思った。

(私はいい・・だましてただけだから。たつ鳥後を濁さずと。)

少し間をおいた。

(私は好きだ、うんとっても。でも大丈夫。)


 その後真澄から勝利の家に手紙が来た。そこには転校早々に落とした写真も入っていた。また最近髪を伸ばした写真もあった。

「私が男の恰好するのは高校で最後です。もう日向君たちの前には現れません。またいつか会いたいです。ありがとう日向君。」

勝利は机の写真立てに真澄の写真を置いた。




 

これで完結です。ありがとうございました。色々設定を生かせてなかったり掘り下げが足りなかったり課題はいっぱいありました。ただすぐには新作は書かないですまたネットで書くかわかりません。時間はおくと思います。


プロローグ説明補記 

 本作品の主人公は自制心が強いように見えるがそれは異なる。実は幼少時から自分を抑える事や親を絶対視させ過干渉を受けたために自分を抑えるのが当たり前になってしまった悲劇でなのである。一見この主人公にはそんなに大きな精神的負担がかかっていない様にも見えるが、「不幸である自覚が足りない。」「親に自分はそれが当たり前だと教え込まれた悲劇」を背負っている。 


我慢するのが当たり前だと思い込んでいる恐ろしく大人な主人公であり、このような場合、成人後になっても言いなりにされたことに親に強い恨みを抱くようになったり、社会性が欠如した性格になる事がある。及び人生は辛くて当たり前と思うようになり、さらには他人の勝手なふるまいを全て我慢するようにもなる。柔軟性や個人の価値観も失われる事がある。


 飼い主はえてして自分勝手である。エゴもある。「檻から出て暴れると危ないから。」と言う理由で戦時中象は殺された。餌を貰うため悲痛なまでに芸をしたり毒入りの餌を吐き出した事は有名である。


 人間でももし何の罪もないのに身勝手な理由で家や檻から出してもらえなかったら、いくつか選択肢が出来るだろう。


 暴れて意地でも自由をかちとる、それも1つの方法だが一方閉ざされた世界で精一杯あがいて楽しみを見つけ出す場合もありどちらかと言えば非戦闘的な人は後者を選ぶと思われる。

この作品の主人公も人間として理不尽な環境の中必死に答えを見つけ出そうとする。


 この作品などは後者が大きく見られはたから見ればけなげすぎる行為である為十分な悲劇である。

閉じ込められたり言いなりにされる過程で僕は主人に恐怖をいだくよう教育され、これが厄介な事に抜けないからだ。年をとるごとに親への恐怖心と忠誠心はさらに増していく。



 夏休みの昆虫採集でかごに捕らえられた昆虫は大体がその中で生を遂げるがこれは元々かごの中に作られた環境が外の昆虫が育った環境と大差ないため悲劇性はすくないかもしれない。


 しかし人間であれば別である。檻に閉じ込められ精神不自由に育てられれば、行動や考えに自主性がなくなり、親の顔色をうかがい他人と上手く付き合えなくなったり、積極性がなくなったり、さらには自己主張出来なくなったり、感情をそのまま出せなくなる、などの弊害があり、また他人を思いやらなくなる事もある。本人も知らずの内他人や親の望む自分を演じるようになり操られるようになる。


 ヒステリックな母親に育てられると女性と上手く付き合えなくなる。気づいた時には自立が不可能になっているほど精神成長を阻害されることがよくある。しかも本人に自立心がないと解釈されてしまう。



 世間で深刻に言われる「毒親」「愛着障害」「不幸にする親」「アダルトチルドレン」などは非常に思春期における人格形成を邪魔し困難にするものとして大きな問題になっている。


  社会的な圧力から子供を産む母親もいる。また性的虐待から子を守らない母は犯人を助けている罪になる。そうした母親は虐待がないかのように振る舞う。また被害者を悪にして加害者を正当化する事にそのような母親は長けている。


 人は虐待をうけるといつもびくびくするようになり人生を楽しむ事が出来なくなる。そして心の痛みから逃げるため過食や買い物にはまる事も多い。っそしてやがて日常的な楽しみに興味をなくし、友人、人も離れていく。その結果成長がストップしたにせの自分であるインナーチャイルドが出来上がる。子供の普遍な天性は失われる。思い出をかきつらい思い出を愛情に書きかえる事で傷は少しづつ癒される。


 また母親が娘に暴力をふるう事もあり母自身が病んでいる事も多い。ネガティブな想像ばかりして門限を設定する親もいる。母のため良い行いをする事が母の幸せで自分は好きな事をする権利がないと思ってしまうのは主人公に当てはまる。こういった母親は嘘をつき子に間違ったメッセージを送る。

完全主義や楽しむことを許さない、家族の秘密をもらさない等は主人公の父親に当てはまる。


しかし(少し引用)

 それらは自分が受けたストレスに対する自然な反応であり、被害者が子供であったために避けられなかった事でもある。筆者は「昔何故怒ったり抵抗しなかったんだ。」と責められる事が少しある。否認によって家族の秘密を守り外部に言わなかったりする。

 


 褒められたりするために色々やるが誰もわかってくれない、理解しない等の不満もあり前者は主人公のDVにあった母、後者は主人公に当てはまる。

少しづつ家庭環境がおかしくなる気づかない「わな」があったり、家族としての境界線を踏み越えたり操ろうとする側の手段は様々である。


捨てる事や、克服していく事が必須だが、本人の努力だけでなく専門家の助けが必要とされる。過去の被害者に話を聞くことも重要だ。本当は親子が理解しあえるよう場合によっては第3者も交え話すことが大事だが、問題はどこまで親が責任を感じているかである。


 俗に「愛のないつめたい家族」や「子供を肯定しない親」「子供に過度の期待をする親」「表面だけ明るく振る舞う家族」「子供を甘やかしすぎる親」などがいる。

 口論があったり暴力があったり過干渉や依存がある家は機能不全である。こういった環境にいる人はまず安全な場所へ行き安心をえて不安要素を書き出すことが回復への一歩である。


 親の方は自身も何かに傷ついてそのような症状になる事があり、嫁姑の確執やDVもその一種である。また結婚前に経験した事もある。こう言った親は子供を力をふるう相手として時に無自覚なまま激しく傷つける。また逆に優しすぎる子供は親を突き離せず言いなりになる事もある。強引に子供との間に一体感を作ろうとし個人の人生人格を認めず、恋愛も許さない親がまれにいる。  


 サポートセンターに助けを求め自分は1人じゃないと確信する事でようやく自信を回復した人もいるが子供の頃のつらい思い出と向き合わなければ傷は消えない。

この作品の親は「息子に恋愛を認めない親」である。



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