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あきらめない特訓

 戸田はいつもと明らかに違う調子で腰に手を当てた。

目も口調も違い、何より威圧感があった。


 隙がなくな余っとした感じがない別人のようだ。

真澄は勝利の無事を願い祈るように手を合わせた。


 その様子を戸田は見た。

(神山が言ったように、時々女の子っぽい仕草するな)

「じゃあ頼む!」

勝利は緊張しながら言った。


 背筋をぴんとのばし先輩に接するような気持で接した。

そこに戸田が第1声をかける。


 隙のない凛とした顔と口調である。

「じゃあ、まず身だしなみから」

「えっ!」

「シャツが少したるんでる」

「あ……」


勝利は意外な所を突かれ、たじろいだ。


「驚いただろ、服装チェックとは、じゃあ次は腕立て伏せ100回」

厳しすぎず雰囲気を締めるような口調を戸田は一貫して見せていた。

外観もいつもと違い隙がない。



 しかしメニューは初めてとは思えない厳しさだった。

圧迫感が勝利を襲った。


(いきなりか……)

勝利はすぐにその場で腕立てを始めた。


 筋肉トレも久しぶりの経験だった。

しかしただでさえ苦しいのに戸田の出す緊張感からペースを守れず最初から飛ばした。

顔が赤くなっていた。


 しかし30回を超えるとスピードが鈍り始めた。

そして45回を超えたあたりで腕が曲がらなくなり顔も真っ赤になった。

「まだ半分通過してないよ!」


 戸田は引き締めようと少し強い口調で言った。勝利は突然やる事になった事に苦しんだ。実は少し後悔の念も感じていた。

(腕立て100回何て4年ぶりだ……)

そして戸田は上に椅子の様に乗った。勝利に一気に重い比重がかかり辛さは倍加した。


「上に乗るのかよ」

とても耐えられずどっさりと勝利は崩れた。しかしそこへ戸田の非情な声が飛ぶ。

「はいやり直し!最初から。」

「えっ!」


 戸田は降りた。勝利にしてみれば友人相手にここまでやるのかと言う気持ちと戸田の2面性に驚いた。

もちろん好意でやってるのだと全て受け止める事にした。

しかし今度は精一杯やったが70回が限界だった。


 勝利としてはこれで決める気だった。

やり直してもこれ以上腕がまがらなく筋肉が痙攣していた。

その時また真澄は手を合わせ心配しており、戸田は気づいた。今度は88回でダウンした。

「はいやり直し!」


 戸田は冷たい態度で喝を入れた。少しづつ語気が強くなっている。

「ねえ88回だよ!」


 真澄がかばうと戸田は無表情で言った。

「君は黙っててくれ」


 部外者はひっこんでろと言う口調だった。勝利は本当に限界が来たが100回やり遂げた。


「じゃあ、5分休んでスクワット100回」

機械の様なさめた口調で戸田は言った。何とか腕立てに並ぶ苦しみで勝利はこなした。ところが終わった途端淡々と戸田は言う。

「じゃあ、今度はランニング12km」

「12km!」


「自分でやるって言ったんだろ。最初僕が試合に出るって言ったのに。まさか友達思いを演じたかったんじゃ。」

「戸田君!」


 さすがに真澄はかばった。

「わかった、行ってくる……」

そういって勝利は走り出した。


 勝利の姿が見えなくなって2人は話した。

「いくらなんでも厳しすぎじゃ……」

「僕も勝つとは思ってない。」



 戸田は勝利がいなくなってから少し表情が和らいだ。

「えっ?」

「本人には言わない。でも負けるとわかってるから全力でやってもらうんだ」

「それって?」


 戸田は少し笑顔になり話し方も柔和になっていた。

「僕が後輩を指導するとき監督や先輩から教わったんだ。駄目とわかってる事も全力でやらなきゃいけないってね。」


 1時間半後、勝利は帰ってきた。勝利は疲れ果てながらもまだやる気を見せた。戸田に情けないと思われたくない為気持ちを振り絞っている様に見えた。


「戸田、パンチを教えてくれ」

「いや、まだ基礎から」


 その夜家で真澄は腕立て伏せをしていた。母親は心配して聞いた。

「どうしたんだい」

「あっちょっと健康のために」

(日向君があれだけしてくれてる。私もせめて同じ位の事しないと)


 翌日1年4組で呼び出しがかかった。少し童顔で目がうっつらした少年がドアの方を向いた。そこには神山がいた。

「あっ! 兄ちゃん」

「あれが神山君のお兄ちゃん?」


「どうしたの?」

「実は探りたい人物がいるんだ。」

「探りたい人?」


「俺のクラスに女なのに男のふりをしてる可能性のある奴がいる。そこで彼をどう観察したらいいか推理力に優れるお前の意見を聞きたい。」


「学生服のボタンって少し硬いでしょ。だから女の子ならボタンを締めるのに少し戸惑うと思う。もっとも前から男装してたら慣れてるだろうけど。」

「なるほど」


「それと、その人会議とかで積極的に発言する?」

「いや、あまり積極的じゃない。でも全くしないわけじゃない。中心じゃなく6人いたら4番目位だ。」


「何かを隠してる人は普段から隠してるから、そういう時にばれないよう無意識に消極的になるんだ。でも全く発言しないと「目立たない事で逆に目立つ」から少しだけ発言するんだ」

「なるほど参考になったよ。今度は見方を変えてみる。」


 授業に戻った神山はこれまでよりよく真澄を観察した。


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