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決裂と別れ

 結局、勝利は負けた。3ラウンドKO敗けだった。しかも2試合連続の疲れがたたり、ダメージは大きく立ち上がれず病院に行く事になった。東山は勝ったものの体の各所を気にしており確かにダメージはあるそぶりを見せていた。

次に戸田が出て見事2ラウンドKO勝ちとなった。これでボクシング部の栄誉は守られた。


 小宮は言った。

「今日の試合が日向君の病気が治るきっかけになればいいんだけど。」

国木田は言った。

「私お見舞いに行ってきます。」

(て、真澄ちゃんがいるかも。いいよね、男同士だし。)

と笑った。


 国木田が行くと戸田や明石、ボクシング部員たちがいた。国木田は不機嫌そうだった。

(なーんだ私だけじゃないんだ。)

 明石は寝ている勝利に言った。

「本当にありがとう。急に無理な頼みごとして本当にすまなかった、何てお礼をいっていいかわからない。」

「そうだ、日向の治療費をみんなで集めない?」

「賛成。」

皆喜んで同意した。勝利は嬉しかった。皆がこんなに自分を心配し気遣ってくれていると言う実感だった。

疲れがいくらか回復したようだった。

「ごめん、負けたのに。」

しかし部員やクラスメートは笑顔で勝利を称えた。

「とんでもない、あんなすごい試合するの日向だけだよ。」

「ああ、初心者だってすっかり忘れるぐらい。何か久しぶりだな。あんなに見てて熱くなったの。」

続いて部員は真澄をほめた。

「椿もすごかったよ。最後まであきらめないすごい闘志だった。」

「でも打たれ強いだけじゃなく回復も早いよね。もう平気なの。」

「あ、うん僕は筋肉全体が柔らかいみたいで。」

中西は言った

「柔らかい筋肉はダメージを逃がすらしい。」

他の部員は

「椿さん、男の闘志見せてもらいましたよ。」

「あ、はは・・」


 中西は話を改めるように言った。

「日向、ボクシング部に今からでも入らんか?」

「あ・・そそうですね、確かに僕はボクシング好きです。」

「じゃあ。」

と中西は言ったが、戸田が口を挟んだ。

「中西さん、彼の親とっても厳しいんですよ。」

「門限?」

さすがの中西もまずいものを食べたような顔をした。戸田が勝利に聞こえないよう答えた。

(は、はい。)

(冗談じゃないよな)

珍しく中西がこそこそ噂をした。変な話なので肩をよせ移動しようとした。明石は心配した。

「大丈夫なのか日向。病気になったりとか。」

戸田が加えた。

「小宮先生に聞いたけど試合中切れたようになったし、普段から少しまずい状態だったらしい。今に始まったことじゃなく子供の頃から。」

他の友人や部員は言った。

「もう家出した方がいいよ。」

戸田はさらに説明した。

「家庭内暴力があってお母さんがいつも殴られてるらしいです。」

「本当かよそんな父親はみんなでやっつけよう。」

「そうだ男の風上にも置けない!」


 戸田は言った。

「ご両親の事があるだろうけど、ボクシングをやったら受験が厳しくなるだろう。」

「うん・・」

勝利は迷いとボクシングをもっと早くやっていればと言う悔やみがあったしかしだからといって最初からボクシングをしていれば受験は厳しくなった。性格はかえられても将来は。。と言う迷いの中これで良かったのではないかと自己肯定した。しかし家族とのわだかまりはくすぶるように消えなかった。


 女生徒たちは真澄のまわりに集まってきた。だいぶ真澄はかおのあざが痛々しく目が特につぶれそうだっ

た。実は女なので顔の傷をかなり気にしていた。今の真澄はおせじにも美少年と言えないが、逆に女生徒たちはさらに好感を持っていた。

「椿さん、顔のあざが痛々しい。」

「でもあざも素敵。」

(あ、あざが・・)

真澄は初めての褒め言葉に戸惑った。

「パンチ見せて!」

真澄は答えてしゅっしゅっと空パンチした。女生徒は歓声を上げた。


 光子は地元の駅まで優馬に送ってもらった。

「また気がむいたら連絡してくれ。」

さすがに光子は下を向き迷った。

「優馬さん。私は確かに今の状況はいや。でも不倫は悪い事よ。」

優馬は言い聞かせるように言った。

「不倫じゃない。離婚し僕と結婚してほしい。」

さすがに行き過ぎと感じる申し出だった。もちろん心の準備などない。

「で、でも。」

「それしか君が幸せになる方法はない。今の状況を変えるしか。」

光子はためいきをついた。

「そうね。離婚して働いて勝利を養えば良かった。そうする勇気がなかったのよね。」

「僕が援助する。必ずDVから救う。」

優馬は力強く言った。


 勝利が怒られていた。

「会社に息子が倒れたと電話がかかったから何だと思ったらボクシングの試合をやっただと!貴様こんな大事な時期に受験をなめているのか!」 

勝利は黙って聞いていた。


「貴様は必ず一流大学を出て一流の人間になってもらう。光子のおろかな遺伝子をついでいる以上お前が立派にならんとわしのメンツが潰れるんだ!聞いてるのか!」

勝利が黙っていたのは言いたいが言う勇気がない、無駄と言う気持ち。また我慢が当たり前になったいつもの病気だった。そこへ光子が帰ってきた。大士はにらみ怒鳴った。またしても相手の心をひきさくような情けのない言い方だった。

「こんな遅くまでどこを歩いてたんだ!」

「ですから、同窓会だと。」

「昔の男と会ってたのがこの下品な女め!」

大士は情けをかけず見下し罵倒した。

「そんな事。」

「きさまは俺の嫁であると言う事がどう言う事かわかってるのか!1日たりとも家事を休んだり遊びに行く事はゆるさん。」


 勝利は黙って聞いていた。

「母さんが亡くなっていじめる人間がいなくなって調子づいているんだろう?」

そう言って大士は光子をなぐった。すごみ力関係を誇示していた。

「黙って殴られろ!それが妻である貴様の務めだ。」

自分より弱い人間には一片の情けもかけない男の姿だった。勝利は思った。

(こんなやつの血が流れて生まれてきたこと、こんな事しかできないこんなくだらない男から俺は生まれたのか。)

自分の出生と大士への蔑みと憎しみ、そして自分へのふがいなさだった。彼は自分を責めてしまう性格なので自分を慰められなかった。そこへ玄関のベルが鳴った。

「ちっ!」

と大士は舌打ちした。

「いいから出ろ。」

玄関を開けると光子は驚いた。

「光子さん逃げよう!」

「優馬さん!」

「DVの証拠録音したんだろ!」

「ええ!」

光子は隠しておいたサウンドレコーダーを胸から出した。大士は何事かと出てきた。

「何事だ一体!?」

優馬は毅然と答えた。

「光子さんをこの家には置いていけない!僕が連れて行く!」

「何だと!」

大士はまるで言われたことのないひどい事を言われたような戸惑いも混じった怒りの反応をした。

2人は取っ組み合いになりついに優馬は大士を殴った。

「いい加減にしろこの下種男め!」

大士は倒れ立ち上がろうとした。そこへ勝利は立ちふさがり首をつかみ殴りつけた。さらに大士を起き上がらせ数発殴った。勝利は怒鳴った。

「死んじまえ死んじまえ2度とうまれるなばかやろうくずやろう!」

勝利はすさまじく息を切らしていた。恐怖を感じていた相手に初めてといっていいぐらい本気で怒りをぶつけた為である。

俺も母さんと同じだ!出てってやる!」

そう言って出口に駈け出した。


翌日勝利は学校に来なかった。



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