脅威の2人目道場破り
「よくやった!よくやったぞ!」
勝利の負けはしたが熱い戦いぶりに会場は惜しみない拍手に包まれた。勝利は悔しさがないわけではないが力を出し切りやる事はやった安堵感と心地よい疲労感があった。ただ真澄より短いラウンドで負けたのがいささかの心残りだった。肩を借りた勝利を戸田は激励し明石はねぎらった。
「ナイスファイト、ありがとう俺たちの無理なたのみを聞いてくれて。」
勝利は苦笑した。ダメージは大きい。しかし穏やかに笑い2人の気持ちに答えた。彼ならではの誠実さだった。勝利は言った。
「いや自分のため、頑張ってくれた椿のためさ。」
明石は言う。
「そういや椿もぼろぼろに頑張ったよな。」
「うん。」
「じゃあ保健室行こう。」
戸田が連れて行こうとすると葛西は言った。
「日向君!」
疲れながらも葛西は話しかけてきた。葛西はマイクを取った。
「なんだなんだ?」
「日向君、戦ってくれてありがとう。すごいファイトだった。今日は俺が勝ったが十分君たちの力はわかった。これで帰るよ。」
「ええ?」
ボクシング部はえっ終わり?と言う気持ちだった。葛西は勝利と自分から手を差し出しリングで握手した。お互い力を出したと言う気持ちから悪びれない笑顔で勝利は葛西に敬意を表した。しかし会場には不穏などよめきが起きていた。それは最前列付近に偉そうに座っていた体の大きな生徒の事に対してだった。
「あれ誰?」
本人に聞こえないよう、生徒たちは小声で話した。身長は185cm近くある体重も90kgありそうな巨漢で太くたくましい腕と胸筋克つ足まで太い髪は長いが後ろでまとめた喧嘩屋のような生徒がいる。しかしすごく不良ぽいわけでもない。その生徒がいきなりリングに上がろうとし叫んだ。
「待て!」
「誰あれデカイ声。」
周りが驚く中、少年はマイクを取った。まず途中までさけんだ。
「俺は!」
「なんだなんだ、どもってる。」
異様な雰囲気に皆は飲まれた。少々はずかしがりながら少年は言った。
「俺は!二人目の道場破り東山仙人だ!」
「ええ!」
「葛西さん!」
戸田は葛西に確認しようとしたが
「俺は知らない、あんな人。」
「知りあいじゃないんですか?」
「あっリングに!」
「こら!」
ボクシング部が騒ぎ戸田が止めに行ったがすごく太い腕で即座に吹き飛ばされた。
「うわっ!」
「何するんだ!」
ボクシング部が文句を言うのを無視し東山は言った。
「日向勝利!お前にここで勝負をいどむ!」
「ええ!」
「お前はボクシング部ではないがまぎれもなく天才だ!今の試合を見てわかった。だから勝負をいどむ。」
明石は言った。
「日をあらためてにしてくれ。」
「いやなら俺たちボクシング部が!」
とボクシング部が出てきたが東山は
「日向勝利と戦いたい!天才の日向勝利と!」
やめろと言った戸田がまた吹き飛ばされた。
「勝利はまだ終わったばかりだ。」
「では少し待とう。」
「日向、保健室行こう。」
戸田が肩を担いで保健室に行くと真澄は気がつき上体を起こした。
「目覚めてたんだ。日向君ここで休むからよろしく。」
と言い戸田は去った。
真澄は試合の結果が聞きにくかったが勝利は絞るようにぼそっと言った。
「ごめん、負けた…」
「…」
勝利の言い方は辛さを増して行った。真澄はどう返事していいかわからなかった。
「君があんなに頑張ったのに俺は後をつげなかった。」
「そんな事…」
疲れていても真摯な態度で勝利は謝った。
「ごめん本当に。」
「そんな事全然!」
何とか勝利の申し訳なさを真澄は払しょくしたかった。勝利は続けた。
「俺は椿ほど最後まで長いラウンド戦えなかった。葛西さんは言ったんだ、本当の厳しさを教えてやるって。そしたらすぐ終わった。負けたのは仕方ない、でも俺はちょっと練習しただけで思い上がってたんだ。葛西さんとは勝負にもならないそりゃそうだよな。思い上がって高揚したのがやなんだ。」
しかし真澄は女ではなく努めて男らしく振舞い友人として答えようとした。
「いいや謝るのは僕の方だ。僕の方こそ必ず勝つと言っておきながら負けた。約束守れない男って最低だ。また今度頑張ろう、お互い。」
「ありがとう実は試合中楽しいと思う事もあった。」
勝利は試合中熱くなった事を思い出し真澄は嬉しそうだった。
「それはぜひ続けるといいよ。」
「椿の姿が何回も試合中ぼやけて見えた。」
「私も苦しかった時日向君の顔思い出したよ。」
「え?私?」
思わず女言葉を使った真澄に驚き、真澄は慌てた。
(しまった!つい!)
「疲れてるんじゃない?いつもの男っぽい椿と違う。」
「男っぽい…あはは。」
「椿っていつもさばさばしてるよね。俺椿が転校してきて本当に良かった。」
(え!)
真澄は顔を真っ赤にした。胸が高鳴っていた。変に良いムードだった。真澄は何かを言おうとした。
(今なら・・)
そこへ国木田が入ってきた。
「日向君差し入れ!あっ。」
「あっ。」
真澄は顔を見合わせた。国木田は
「お邪魔だったかしらじゃあ。」
とうわべの表情でさった。
勝利は
「は?お邪魔?男二人なのに。」
「日向君寝てる。保健室に二人きり…」
(前から日向君にはいつか言おうと思っていた。でも日向君にだけ言うのは卑怯。他にも友達は出来た。だからみんなに言わなきゃいけない。ああ日向君に言えないのがもどかしい。今までは何かがこわれそうな気がしたけど。彼の気持ちをしり私が女だって言ったら。今まで言えなかったけど今なら誰も見てないし。)
真澄は何とかおき勝利のベッドをのぞきこんだ。
「ひ、日向君…」
うっ、と言って口を押さえた。おもむろにキスをしようとした。しかし罪悪感にかられそっと布団をかけた。
リングでは東山が座り込んでいた。約20分経っていた。
「日向を出せ、出さんとここに居座る!」
「強情だな!」
「自分の事しか考えてない!」
皆が批判する中、後ろから声が聞こえた。
「おーいみんな!」
「日向!」
そこには勝利と真澄がいた。
「俺が相手する!」
 




