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身を削る友情

 葛西のパンチが何発も決まっていった。


 葛西はにやりとした。グローブの下から目を覗かせあざわらった。


 余裕を楽しんでいるようだった。同時に高揚感も感じていた。

(少しずつ本気を出すぞ!)



 葛西は同時に気迫も示そうとした。


 さらにパンチの威力も増した。真澄はひるんだ。

(くっ!さっきよりずっと鋭くて重い)

真澄のガードの上から何発もパンチを打って行った。戸田が言った。


「ガード崩しに来てるのか」

さらに葛西はフットワークもさっきまでよりいっそう良くなっていた。大げさでなく真澄には分裂して見えた。

(こんなスピードじゃよけきれない……)

しかし次のパンチを真澄はかろうじて避けた。葛西は感心した。


「よく避けたな!」

「ほとんど本能だけど」

しかしガードを崩すためか真澄の防御している腕を葛西は狙って行った。


「ぐっ! 腕に響く!」

真澄のうでに痛みが響きさらに顔をガードした際に顔にも響いた。頭がぐらっときて頬に振動が響く。


 脳の外側の部分が脳に衝撃を与えるようだった。びりびりとした痛みが顔に生まれた。

(さっきよりアップしているパンチが顔にも響く……!)


 葛西はまた嘲笑った。

「どうした? 得意のスウェーは?」

葛西は試すようにわざとよけやすくして真澄のスウェーを誘った。


 そのとうりに真澄はスウェーしたがあざわられているのに気付いた。スウェーをできなくしてさらに自信を無くさせようと言う狙いだった。

(わざとスウェーさせてる?)

「当たり前だ初心者! お前に付き合うほど俺はひまじゃないんだ!才能は感じるがな!」


「ぐっ!」

ついに真澄はパンチを食い片膝をついた。

「あっ!」


 一斉に館内が悲鳴に包まれた。

「ダウンか!?」

館内が騒ぎになるなか真澄はダウンせず踏ん張った。意識をうしなったような呆然とした顔になり外からは時間が止まったように見えた。

「カウント5!」

「もう駄目かな……」

館内は失望に包まれた。ここでゴングが鳴った。


 インターバルでセコンドでコーナーに座った真澄に戸田は言った。

「スタミナ切れだ。かなり食ったね。もう逃げに徹したほうがいい。」

「でも!」


 勝利は言った。

「無理しないでくれ……」

真澄はうなずいた。戸田は思った。

「日向の励まし妙に冷たいな。何かあったのか」


 5ラウンドが始まった。戸田は檄を飛ばした。

「これ以上くったらやばい。距離を取って逃げろ。後の事は考えず任せろ」

(くっ!)


 真澄はやむなく距離を取った。勝ちたかったが苦渋の選択だった。

(勝ちたいのに……逃げないといけない!)


 回り込みながら屈辱は増した。


 しかし葛西も負けていなかった。

「おれも少し、いや結構疲れたんでね! お前みたいな初心者に付き合って!」

「は、はやい!」


 戸田はまずいと思った。

「さっきより葛西のフットワークが軽くなってる!」

勝利は拳をにぎりしめていた。


 戸田はまた叫んだ。

「追いつかれる!」

ドンドンとガードの上にパンチが決まった。


 その重さに耐えかね真澄は膝をつきそうになりまた館内は騒然となった。

「2度目のダウン?」

「ダウンじゃない!」

真澄は叫びながらひざが落ちるのを防いだ。


 精神だけで細い体を支えていた。水分も大量消費し体は熱を帯びていた。真澄は叫んだ。

「勝てなかったとしても!」

「いい加減たおれろ!」



 葛西は向かってきた。そして数発パンチを顔に受けた。館内に悲鳴がこだました。

しかし目にあざの出来た顔で真澄は睨み、耐えて見せた。


 顔がはれている。

「ま、まだやる気なのか!」

葛西は顔を変形させながら倒れない真澄に少しだけ恐怖した。


 はるか格下の初心者と侮っていた相手の説明できない精神力に認めたくない気持ちと半々ながら畏怖していた。

(こんなやつ今までいたか……いったい何がそうさせるんだ……)


 真澄の殴られた顔が怖くなりさらに睨んでいるため一層その気持ちは増していた。体が震えるのを感じた。


 それを振り捨てるため放ったアッパーが真澄のあごをとらえた。館内がまた悲鳴に包まれた。

顎が上を向きバランスを崩し前に倒れそうになったが真澄はこらえた。

「ま、まだっ!」

葛西はまた畏怖した。


「な、何がこいつをそうさせるん

だ」

さらに葛西のパンチは続いた。何とか防いだと思ったら今度はボディーに食ってしまった。内臓を突かれるような初めての感覚が真澄を襲った。

「ぐっ!」

口から液体を吐き出してもおかしくないほどの衝撃だった。

(葛西は今まで本気じゃなかった?)

「ま、まだ……」


 歯をくいしばり決死の覚悟でにらみ膝を曲げないよう踏ん張っていた。真澄は勝てなくても勝たなくてはならないような矛盾した気持ちになっており戸田のいった後は任せろと言う言葉も頭から消えるようだった。





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