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日本画展での誓い

 光子は台所で包丁を持ち姑と向き合っていた。


 お互いに憎しみをぶつけ合う凄絶な切りあいが行われまるで武士の決闘だった。


 そして姑の刃が光子を貫こうとした瞬間夢から覚めた。

「はあっ、はあっ。」

光子の寝起きはあまつさえ本気の殺し合いをしたようだった。


 目が血走っていた。


 そっと様子を覗いた勝利は黙って去った。見たくないものを見た気になり憂鬱だった。


 勝利は怒りで机をたたいた。


 自分の力のなさを悔やみやがて布団に入り眠った。勝利は夢の中に入った。

 するともう1人の自分らしき人物が何もないまっさらな空間で話しかけて来た。


「君は大分今まで自分を抑えつけてきた。暴れたり大声を出したりせず、倒れそうでも倒れなかった。にくい相手に感情をぶつけなかった。怒るのも憎むのも人間の姿の1つ。でも君は親にそれを悪だと言われ心を閉じた。」


 重い話なのになぜかその人物は笑顔で優しく話していた。何故か勝利は話に聞き入った。

 

 勝利は次の日の朝の登校時頭がくらりと来てたおれかかり電柱に頭をぶつけた。


「いてえ……」

教室に入った勝利を真澄は心配した。

「ねえ、顔が青いよ、大丈夫?」

「うん……」


 そこへ国木田が川に流れ込むようにするりと違和感なく入ってきて話しかけてきた。


 2人の関係をよくのぞきこむようだった。一旦勝利の元を離れ2人になった。


「やっぱりお家の事か」

「・・」


「この前行ったの、相談センターへ」

国木田は真澄に説明した。


「うん、日向君から聞いた」

国木田は真澄が知っていた事にそれほど驚かなかった。


「聞いてたんだ、うん、色々問題が深くて特に日向君のお母さんの精神が・・」


 それに返すように真澄が言った。

すこしためらいがあった。

「実はそういう事らしくて先日うちの親と4人で料亭に行ったんだ。」

「えっそうなんだ」


 これには驚いていた。

「日向君のお母さん場馴れしてない感じだった。と言う事はああいう人と「ひどいよね日向君のおばあさんとお父さんて」


「でも楽しそうだった。母とは境遇もタイプも違うんだけど上手く母がリードしてくれて結構会話はずんだ。楽しそうだった。」


「それは良かった」


「母はキャリアウーマンタイプなんだけど、日本的な楚々とした女性の方が自分よりえらい、その方が大事って言うんだけどそれは本当に感じてるみたい。日向君の母がまさにそうだった。日向君の母も言われてうれしそうだった」


「人に認められるとすごく自信つくよね」

相手に合せているのではなく心からの安堵だった。勝利の母を心配していたからだった。


「椿君が企画したの?」

「うん」


「もしかして日向君好きとか?」

国木田は不意のタイミングで聞いた。それは嫌味ではなかった。真澄は焦った。


 国木田は自分を男として扱っているように見え女と見られておりかつ勝利への気持ちまで見抜かれている、でも相手に悪気はないと思いたい気持ちだった。

「そんな!」

「そうだよね」

国木田は笑顔ながら少し下を向いた。


 家で真澄は食事を作りながら考え事をして手や意識が別の方に行った。

(日本画行くと勉強のスケジュールきつくなるな)


「きょうもキャベツのスープ肉なし、て肉なしは言わなくていいか。」


 真澄は母に言った。

「強調してるわよ」

「肉なしでごめん」

「いいのよ、気にしなくて。お父さんといた時は肉は食べられたけど」

「また会うの?」


 真澄は不安げに聞いた。

「うん。」

やむなしと楽しみが同居した顔で母は言った。

「でもまたお父さんと一緒になるのはどうかと思う」


 真澄は母を気遣った。それを母は理解していた。

「でも、大学行きたいんでしょ?」


 少し真澄はためらった。

「奨学金あるし。私はお父さんとまた一緒にならなくてもいい。お母さんの本当の所はどうなの?」


「考え直すとお母さんにも悪い所がいっぱいあった。もっと私が従順な女だったらって」

「でも私から見てもお父さんは家庭を顧みなかった」


「でもそんな時こそ強く愛さなければいけない部分もあった」

真澄は父の悪い所を指摘したが母は回顧していた。


 勝利は戸田と休憩中バレーボールをした。

「トスだ!」

戸田がトスし勝利がレシーブで受けようとする。

「よし!」


 そこへ明石が声をかけた。

「俺も入れてくれ。」

「明石。」


 明石は座り戸田と話した。

「日向の相談には乗ってるのか?」

「うん」


「だが優しく励ますだけじゃだめだ。誰かに苦しめられている人間は自分を苦しめている人間を倒さないと気がすまないんだ。」

「じゃあ例えば彼の親とかやっつけるって事?」


「そ、そうだな、あいついつも不満言ってたから。」

「何か医者に行ったらしいけど昔から不満溜めてたらしい」


 光子は大士に座り話した。

「先日あった椿さんのように時々でいいから他の主婦の人とあって食事したりしたいのですが」


「駄目だ」

大声ではないが冷酷で太い声で言下に否定するようだった。光子は落胆しやがて感情を絞り出した。

「こんなに頼んでもですか。私はいつだってあなたやお母様に仕えてきた。どんなに踏みにじられても。」


「俺がいつお前を踏みにじった!この俺をだれだと思ってるんだ!」

「あの、俺今度椿と約束したから」


「貴様は受験をなめてるのか! またさぼるのか! おちたら家を出ていけ!お前は一生真面目にならない遊び人の風来坊だ!」

部屋に響く声で大士は怒鳴った。


 勝利と真澄は日曜日都内の美術館で開かれているある作家の展示会に行った。絵を見るなり真澄は色々感じ言葉を発した。


「うわ、魅惑的」

植物を写生したものに色彩や形の変化を与え、書き手の感情すら伝わる一枚の絵としてしあがっていた。


 激しさ、暗さ、淡い心、様々な感情が風景と共に写し出された。


 しかし帰り道はあいかわらず勝利はつれなかった。最近は勝利は辛さを見せまいと言う配慮に少し欠けてきた。


 真澄はさっと先を歩く勝利に寂しくなり聞いた。

「怒ってるの?」

「別に」


 返事はそっけなくまた勝利は返した。

「何で男二人で来ようとしたの?」

「あっ、いや深い意味は…」

「何か元気ないね」


「最近何やっても不機嫌だよ。何もかも壊したい」

真澄はまずい予感がして走って勝利の前に回り込み強く言った。

「壊しちゃだめだ!」

「…」

「僕が何とかする!」

それは自分に言い聞かせるようだった。

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