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すれ違いと願い

 夜光子は1人で姑の事を思った。


「あの女が悪い、あの女がいつも私をこけにし失敗をすれば不釣り合いな嫁だと馬鹿にし学がないと言われ機嫌をとればまめだと言われた・・」


 ふすまの隙間からそっと様子を見ていた勝利は静かに閉め2階へと向かった。


 次の日顔色が悪い勝利を心配し真澄は廊下を追いかけた。

「何があったの?」

「何でもないよ」



 振り向かず答えた。


 珍しくかなり冷たくかつ突き刺さる言い方だった。感情的な言い方に真澄は戸惑い突き放されるのではと言う危機感を持ちさらに速く追った。


「ねえ何があったの?」

緊張した空気が流れる。真澄は勝利が心配な気持ちときつい答えが返ってくるのではと言う恐れがあった。


 勝利は立ち止まり体をこわばらせた。


 拳がふるえ必死に昨日の事を思い出した。

「わかりあえない上に自分は弱い。いつもそう感じる。あの時家出してれば」

 

 ボクシングの練習中勝利は自分が持ち上げられるバーベルをギリギリ目一杯持ち上げ縄跳びを高速でこなし、腹筋もマシンで角度をつけてやった。


 激しい運動量と汗にまわりは畏怖した。

「葛西さんにはもちろん勝てないだろう、そうじゃなくて俺は気持ちのぶつけどころが必要なんだ。最初からボクシングやれば。今言っても仕方ないけど」


 真澄は離れた場所で思っていた。

(私が戦って日向君を助け家族からも救う。それが今まで女だと黙っていた私に出来る事……)


 そこへゆっくりと部室の扉が開き笑顔の国木田が入ってきた。一遍で殺伐とした雰囲気が和んだ。


「差し入れ持ってきました」


 うきうき気分が見て取れるがそれを抑え隠した感じと勝利を見る目がどことなく他の男への視線と違って見えた。

「日向に差し入れだ!」

「ち、ちがいます、ちゃんとみんなの分」


 国木田は勝利にサンドイッチを渡した。それを皆が見る。

(何かいい雰囲気じゃないか)


 2人でいると辛そうだった勝利が少しずつ元気になってきた。

「良かった。元気なかったから」


 本当にうれしそうに国木田は安堵した。周りが見えておらず2人だけの世界の様だった。

「また二人でどっか行こう」

(えっ?)


「またあのコート着てくるかも。」

その会話を真澄が聞き戸惑った。


 少しして真澄は恐る恐る勝利に聞いた。

「あの、さっき偶然聞いたんだけど、国木田さんとどっか行ったの?」


 聞かれたくない事を聞かれた様な顔を勝利はした。非常に驚きあたふたした。

「あ、いやこの前相談センターに付き合ってもらって。その後洋服を買いに行ったんだ。ちょっと買い物の付き合いしただけで・・」


 勝利の反応はもちろん真澄を女と知らないため他の人には黙っててくれと言うような言い方だった。


 しかし真澄はかなり動揺していた。しかし女だと言う事を知られない為顔になるべく出さない様にした。


 真澄はランニングで勝利を置いて先に走っていた。勝利には真澄が怒っているように見え確認しようと追った。


「はっはっはっ」

「まてよ椿どうしたんだ?」

「別に何でもない。僕は少しでも先に行きたいだけだ」


 冷たさと本心を悟られたくない雰囲気で言った。

(いいんだ、私の役割は日向君を幸せにする事、国木田さんの事は気にしない!)


 その夜また光子は姑の事を思い出した。

「バカだね本当に!」

罵声を受けていた。


「その病院になぜいくの!」

「大士さんが勝利を連れてくようにと」


「あの子の言う事なら何でも聞くの、面白い人ねあんたも」

「ぐっ!」

悔しさに唇を噛んだ。 


 日向家2人と椿家2人の会合は土曜日に開かれた。


 4人は待ち合わせ都内の料亭に行った。高級な和食の料亭という感じで木の柱や机がありのれんやふすまもある、飲み会にも向きそうであった。


 店員が

「椿様、予約を取ってあります」



 部屋は割られており、その中の一室に案内された。ざぶとん式で襖で外と遮断出来、ちょうど四人で座る部屋だった。


 四人は緊張をほぐすようにゆっくりと座った。

「はじめまして、椿です」


 と真澄の母が挨拶し、順番に挨拶をした。


 光子はやや固く、勝利は背中を軽く叩いた。

「きれいなお店に招待いただいて」

「いえいえ、そんな」


 前菜をたのむと、少し沈黙をおいて真澄の母がきりだした。

「うちの真澄は日向君によくお世話になっているんです。転校して間もなく優しくしていただいて」

「まあ、そんな」


 恐縮する光子に真澄の母は感謝を述べた。

「おかげで生き生きと学校へ行く事が出来ました」

「まあ、それは良かった」

「今は一番色々話せる友達だと」


 すっかり勝利の事を気に入っている感じだった。


「まあ、勝利もいつの間に転校生の世話なんか出来るようになって」

感慨にむせぶ光子を勝利は気遣った。


「いやいやこっちこそ世話になりっぱなしだよ」

「僕はこの学校で本当に良かったと思います。日向君のように好い人がいて」


 真澄もうれしい気持ちを出した。

「今も二人でボクシングの練習をしているそうなんです」

「まあ、そんな体で」


「でも筋肉は結構あるんだ。何て言うか全身のばねが」


「中学時代は陸上やってたんです」

「まあ、転校される前はどちらに?」

「○県です。」


「東京のわりと近くなんですね。」

「そうですね、東京は違う!っていうカルチャーギャップはなかったですね」


「母ちゃんの地元は遠いよね」

「光子さんのご出身は?」

と真澄の母が聞くと光子は恥ずかしそうに言った。


「○県です。上京して20歳で仕事につき、そこで主人と知り合いました。」

「私は大学に行くのに上京しました」

「どちらの?」


「上智大学です」

「まあすごい」


「キャリアウーマンなんだ」

勝利が褒めると真澄の母は謙虚に振る舞った。


「でも褒めて下さる方もいますが私は日本的な女性にあこがれます。それが女性の本来の姿ではないかと」


 2時間ほど会は続き終わりとなった。光子と真澄の母は丁寧にあいさつをした。真澄は勝利に感謝した。


「今日はありがとう」

「いや。」

「今度会わない? 2人で」

「えっ?」


 突然の2人だけの外出と言う申し出に勝利は驚いた。

「今度日本画展に行こう」

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