相談センターに行く事と説得
夜7時頃日向家に電話がかかってきた。光子が取った。
「はい」
「日向さんですか? 私椿真澄の母でございます。いつもお世話になっております」
とても好意的で優しげだった。
ぜひ会いたいと言う雰囲気だった。光子は戸惑いながら答えた。
「え、あ、はい」
「初対面で失礼かと存じますが、今度家の子と息子さんの四人で食事でもいかがですか?」
真澄は電話をした母に礼を言った。
「ありがとう」
「何となく他人事とは思えないのよね。私はDVを受けた事はないけど同じ家庭内問題で悩んでいるから。日向君はとても真っ直ぐな子だから一助になればと思って。日向君にもまた会えるし」
真澄は翌日教室で勝利の母の予定を聞いた。
「いつがいい? 聞いてきて」
しかし勝利は暗く顔を落とし不安がっていた。
「はたして外出出きるか。主婦同士の遊びも認めないんだ」
「えーっ!」
真澄は同情と変なものを見る目と両方がある驚き方をした。さらに勝利はおいうちをかけた。
「趣味をやることも」
「へんな家。あっごめん」
思わず口にした言葉を真澄は取り消した。
勝利は傷ついていた。そこへ後ろから声が聞こえた
「日向君」
振り返ると国木田がいた。どうもこの前から様子が違う。真澄は気まずくなった。
「あっ」
「今いい?今度離婚とかの窓口にいく日なんだけど」
勝利は国木田と相談窓口に行く事になった事を言った。
「国木田さんが?」
「で、どっちを先にするか迷ったけど先に調べてもらったから」
「そ、そう」
真澄は寂しげだった。
結局日曜日、勝利と国木田は都内にある相談センターに朝から来た。役所のような所で窓口の向こう側にいる担当者が答えた。
「日向さんですね」
2人は窓口で話を聞くことになった。眼鏡をかけた30歳ほどの職員だった。彼は不安を和らげようと温厚に接した。
「ご両親と3人暮らしですか」
「はい」
「そうですか。それでDVがあると。どんな時ですか?」
「祖母の悪口を言ったり家事でミスをしたり離婚したいといった時です。」
「どんな暴言ですか?」
「女のくせにとか、汚い女だとか」
「それは非常に深刻です。場合によっては家庭を調査したいのですが」
「え、」
「調査し徹底的に掘り下げる必要があります。出来ればお越しいただきたいのですが」
「父は怒りそうで」
「DVは認めない人が多いのです。発覚する事をおそれしかし心配なのはお母さまの精神状況です」
「あと夜の外出と女性との付き合いを認められていません。」
「ご両親両方ですか?」
「母が特に」
「それは病気の症状でしょうか?」
「いや子供のころからそうだったような」
「今日はありがとう。どこか食べにいこう」
勝利は感謝をこめ優しく言った。国木田は驚いた。
「いいの?」
「俺がおごるよ」
二人は近くのパスタの店にいった。国木田はスパゲティを食べ笑顔を見せた。
「美味しい。」
しかし勝利が光子に報告すると冷た答えが返ってきた。
「何でそんな所いったの?」
「友達が調べてくれたんだ家の問題に対して」
「友達って女?」
また探るような言い方をしたため勝利はかっとなった。これで何回同じことをいわれたのか。
「お、女じゃないよ! 心配してくれてるんじゃないか。今度来てくれって。家にも調査が入るかもしれないって」
「家は問題ありません」
きっぱりと光子は言いきった。勝利は必死に説得した。
「だから隠す事も問題なんだって。椿のお母さんだって心配して電話してくれたんじゃないか」
「…」
「会うのいつにするの?」
「私がこの家にきた時からお母様とお父さんは家の妻は遊ぶ事は許さないと言われていた」
「それじゃ何も変わらないって。父さんは俺が何とかするから」
「友達と会うなんてもってのほかって言われてたから」
光子の言い方はあきらめと乱暴さが両方あった。
光子は勝利がいなくなってから言った。
「あの女とあの男はいつもDVやいじめにしらばっくれていた。私の気持ちは誰にも伝わらず私は狭い檻の中に閉じ込められた動物のように自己主張出来なくなり自分の楽しみもなくしていった。あの姑のせいで私は自我を失った」
そう言って姑の写真にナイフを突き立てた。
そんな時光子に電話があった。
「光子か?」
「優馬さん?」
「今度同窓会来ないか」
真澄は母と話していた。
「お母さんの昔の恋人は夢をもってる人でね。視野が広くていつも大きな事をしたいって言ってたわ。海外で実業家になるって。でも現実が見えていない所もあって段々それが大きくなった。価値観が合わなくなってきた」
「お母さんは自分の価値観をちゃんと持ってるんだね。でも日向君のお母さんはそれがないからいいなりにされるんだって言ってた」
「でも、女は本当は従順な方がいいの」
真澄の母と会う話を伝えると大士は怒鳴った。
「友達の母親と会うだと!」
「こないだお世話になったお返しだって。それだけ」
勝利は努めてなだめた。
「俺の世話はどうするんだ」
「俺がめし作っておくから」
しかし大士は勝利の言い分を否定した。
「この家の妻は1日たりとも遊んではならないんだ!」
「いいじゃないか1日くらい!」
ついに勝利はかっとなった。前は怒れなかったのが1歩変化した。しかし大士の答えは無碍だった。
「ダメだ」
「私あってきます」
光子が言うと大士はパンとなぐった。
勝利は拳を握り怒りが沸点に来ていたがぎりぎりでこらえ、努めて落ち着いて突き放すような言い方をあえてした。
「あんまり暴力が過ぎるとどこかに調査されるよ」
「なに?」
「とにかくもう決まったから」
今度は大士は勝利をパンと殴った。
「寝る!」
そう言って寝室に向かった。