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愚痴と脅迫

 夜9時半、勝利は有名予備校のある町にいた。今帰りだった。

学校からは同じ沿線上にあり近いが直行する上食事もないためかなり疲れていた。


 しかもいよいよ受験本番が近いためさらに生徒の危機意識は高まり殺伐とした雰囲気であった。無機質な機械の様な不動の姿勢と目つきだった。


 そういった疲れを感じながらとぼとぼ歩いていると、歩道橋の向こう、車道を挟んでいつも通る道の反対の通りにある徳満運輸と言う宅配会社前に仕事が終わりそうな真澄が視界に偶然にも入った。


 声が聞き取りにくくなるほどの車の音の大きさにも関わらず、偶然目が合い彼女もこちらに気づいたようだった。


 お互い特に気まずい気持ちはなく、勝利は少しだけ待つ事にした。


 やがて仕事が終わり真澄は従業員通用口から出てきた。そこへ勝利は驚かさないように行った。真澄はさっき目を合わせたが少し驚いていた。


「日向君」

「やあ、偶然だね」


 真澄は勝利がいたのは知っていたが待っていてくれるとは思わず、思いがけない彼の好意を喜んだ。

 二人は駅まで共にした。

勝利は自動販売機でとまりジュースを買い真澄に渡した。

「お疲れ様」


 真澄は目をぱちくりさせてジュースを受け取った。勝利の気遣いに驚き感謝した。

「ありがとう。」

(落ちついてるけど結構人に気を使う人なんだな)


 真澄は申し訳なさそうに切り出した。

「さっきはごめん」


「えっ?」

「ほら、手を払ったりして。ただ少し驚いただけ」


 真澄は少し照れていたが勝利は全く気にしていない様子だった。

真澄は勝利の手が触れた事で顔を赤らめた。


「あっ、いや別に気にしてないよ。転校したばかりで緊張が抜けてないかな」

と勝利は優しく笑顔で気遣った。


 それに真澄は安堵し笑顔を見せた。真澄の中での勝利に対する信頼は大きくなっていった。


「日向君は心の広い人だね」


 勝利はそう言われて嬉しかったが自分が決して一面でないことを伝えた。

真澄は勝利といると安心感があった。


 彼は辛い事を人に話す時反射的につらさを見せるのを最小限にして柔らかく言う癖がある。


「あ、でも結構いつも怒ってる事多いんだよ。この前も言ったけど重い悩みもあってね……」


 と右手で頭を押さえ出来るだけ不安を隠しやんわりと言いため息とともに言葉を止めた。


「今は受験まで考えないようにはしてるけど。時々つらいかな。だから昨日見たく屋上にきたりする」


「ご家族のこと?」

「うん、俺には恥ずかしいけど……」


 勝利は一旦言葉を止め恥ずかしそうに顔を覆った。言うのをためらいながら絞り出した。

結構珍しく情けない表情をしている。辛いのを見せまいという態度には限界があった。


「門限があるんだ」

「ええっ門限?」


 まるでそんなものがこの世にあるのかと言う気持ちで真澄は目を丸くした。目を見開き心に一撃を食った感じだった。


「うん……親が自分勝手でね。困る話だよ本当。いや本当困る。」

勝利はまたため息をついた。真澄は勝利のかなり弱気になった一面を初めて見た。


「この前も親が変なこと話してて、言いにくいけど、恥ずかしいけど、あいつは一生女と付き合わせないとかいってるんだよね」

「えっ」


 真澄はさらに驚いた。

「ああ、こんな事恥ずかしくて他人に言えない……」

あまり表情を変えない勝利が顔を覆って苦悩すると真澄にはオーバーアクションの様に映った。


 先ほど以上にさらに衝撃的な言葉により真澄の心に戦慄が走った。しかし自分が置かれている状況を不思議なまでに落ち着いて話す勝利が不思議と思う気持ちと度量を感じる点が相半ばしていた。


「家の親は歪んだ感情を持ってて……理由はよくわからないんだけど、でも普通の愛情を持ってるとは思えないんだよね。

大学に受かっても変わらないんじゃないかと思ってつらかった。、自由はないんじゃないかととか色々先の事まで考えちゃう。でこのあいだ自暴自棄になりかけた。でもやっぱり働かなきゃいけない方がつらいよね」



 しかし真澄は不思議と言う気持ちをなるべく捨て深く同情した。彼の目線に立ち何とか少しでも彼の辛さを理解し力になりたかった。


「いや、僕なんかそんなでもないよ。僕より日向君の方がつらいかもしれない。僕の母はとてもいい人だし。だから頑張れるんだ」


「俺ももう少し頑張るよ」

真澄は自分も弱気を見せたら勝利にまで影響を与えてしまう、そう思って力強く言った拳を握り勝利と合わせた。



 体育の授業でバットとボールでトスバッティングをする事になった。真澄はバットを構えた。なれない手つきでやる気が先行し、頭が前に出ていた。


 他の生徒が投げる表示をしてゆっくり山なりボールを投げたが、真澄はなよっとしたフォームで空振りしてしまった。

2球目も空振りしてしまった。勝利は心配そうに見つめた。


 真澄は残念そうに腰を落とした。他の生徒は励ました。

「ドンマイドンマイ」

「華奢なフォームだな。バットの重さに引っ張られてるみたい」


 真澄は残念そうだった。

「野球はやった事なくて」


 そこに戸田が来た。

「いや、そんなことないよ彼はスポーツ向きの身体してる。」

また他の生徒が聞いた。

「スポーツは何かやってたの?」


他の生徒が聞いた。真澄は

「中学では陸上やってた」

「へえ、そうなんだ」

「100m走速いの?」


 真澄は顎に手を当てた。

「うーん、遅くはなかったけど・・選手の中では普通かな。高跳びが一番得意かな」


 勝利が駆けよった。

「陸上やってたんだ。俺もだよ。ただ1年で辞めちゃったけどね……」

勝利は当時を思い出し残念そうな顔をした。真澄は後悔の念がある事を感じ取った。


「僕は2年と少し。3年続けるのはきつかった」

「体細いけど足の筋肉は結構あるんだ。ああ、戸田がすごく柔軟な筋肉してそうだって言ってた。確かに

 俺もそう思う。足だけじゃなくて腰や背中のラインにしなりやばねがありそうな感じ」

勝利はじっと足を見つめた。その視線が真澄は非常にはずかしかった。


「背筋力強いでしょ」

と勝利が聞くと真澄は

「120kgあったかな」


「いや、すごいよそれは、かなり鍛えてないと出来ない。ところで戸田がボクシング向いてるんじゃないかって言ってた」

「ええ、ボクシング? 殴りあうの怖いよ。殴りあったことないんだ」

「そりゃ顔がきれいなはずだ。」


 その後体育はバレーボールをやったが真澄は活躍出来た。非常に流麗な動きに周りの生徒は感心した。レシーブで上手くボールの勢いをとめて的確に返し、トスもソフトに出来た。教師も生徒も褒めた。


「レシーブのフォームがすごくきれいだ」

「柔軟だ」

「汗が輝いてる」


 真澄は苦笑いした。すこし恥ずかしかった。

「あ、はは。スポーツマン的な汗とは言われたことあるかな」

生徒は付け加えた。


「何かみんな飛び散る汗が魅惑的で男っぽくないって」

戸田が言う。

「何か椿君だと綺麗だとか言われても気持ち悪い感じしないよね」


 他の生徒はからかった。

「あっおかま君の戸田が褒めてる」

「おかまって言うな」


 戸田はむっとした。勝利は真澄をほめた。

「男はもっと汗臭いからさ、でも椿はそういうイメージないからね」


 他の生徒は言った。

「膝を落とすのが上手い。下半身のコントロールが出来てる。やっぱり陸上が土台になってる感じだ」


 戸田は

「うん、陸上で鍛えただけじゃなく運動神経も筋肉も天性の素質をすごく感じる」


 真澄は戸田の好意を受け取り少し照れながら微笑んだ。恐縮した気持ちもあった。

「そ、そんな……褒められるほどじゃ……」


「しかしスポーツできて外見良くてもてそうだよな」

「部活のスカウト来るかも……」


「それより放課後はデートで忙しそうだが」

戸田は様子を見ていた。

「彼化けるほどの素質あるかも」


 休み時間勝利の噂を3人程の女生徒がしていた。

「彼、門限があるらしいの」

「どういう親なんだろ」

「普通反抗するよね」


 真澄はその会話が耳に入っていた。勝利の方を見ると辛そうに教室を出た。それを真澄は急いで追いかけた。

「大丈夫?」

「えっ?」


「今女の子が噂してて気にしたんじゃないかと。」

「少しね……」


 真澄は勝利の袖をつかんだ。少し泣きそうに下を向いた。

「気にすることないよ、日向君はすごくいい人だ。初対面の僕に優しくしてくれたじゃないか」

勝利は少し辛そうだったが、真澄の励ましてくれた意思を飲んだ。



 その日の午後、真澄は校舎の裏庭に乾という少年に呼び出された。見た目から意地の悪さが見てとれる風貌で評判は悪いようでなぜか友人の多い少年である。


 体は細く目が暗く歪んだイメージが合う外見である。髪はあまり手入れしてない。

「な、なんだい話って」

乾はいやらしい笑い方で切り出した。


「ふっふふ。俺は見たんだお前が着替えてる所を。お前は女だろう!」

「えっ」


「これが証拠写真だ。ばらされたくなかったら俺と付き合え」

乾は真澄が着替えている下着姿の写真を出した。真澄は背中に雷が走るような衝撃を受けた。まさかと言う気持ちだった。自分の不覚さを恥じた。

「そ、そんなこと!」


 真澄は写真を取り返そうとしたがかわされ腕をつかまれた。力のなさに無念さと悔しさを感じた。


 とにかくしゃにむに写真を取り返さねばならない、命がかかった様な気持ちだった。


「理由はよくわからないがばらされたくなければ俺と付き合え。なんならここで」

真澄は絶対危機の心情だった。


 そこへ後ろから声が聞こえた。

「な、なにやってんだ!」

後ろには勝利と戸田がいた。とんでもない場面を偶然見てしまった驚きがあった。

「くそ!」


 悔しがりながらそういって乾は逃げた。戸田は心配し即座に真澄に駆けよった。しかし真澄は2人に優しくされても男性に対する不安が少し残っていた。戸田は聞いた。

「大丈夫?」

真澄は恐怖と複雑な感情に怯えていた。それは乾の卑怯さに対する嫌悪感だった。勝利はかけよった。


「大丈夫か? まさか乾が変質者だったとは」

戸田は

「可哀想だけど、学校に報告しよう」

「あ、ありがとう、二人とも」


 真澄はまだ震えていた。

「気にするな。俺たちも転校生がいきなり学校こなくなったりしたらいやじゃないか」


「そのためにぼくら先輩がいるんだ」

「ありがとう二人とも。今度カラオケいこう!」


「男同士の仲だあまり気にするな」

(男同士)

真澄はもどかしさと申し訳なさを感じた。


 翌日乾が休学になったと報じられた。事件は全容は伏せられたが半分が報じられ、女生徒は口々に噂した。

「あいつが変態だったなんて」


「二度とこないでほしい」

女生徒たちは真澄に駆け寄った。

「大丈夫?」

「うん」


「やー震えてる可哀想」

神山は勝利に聞いた。

「乾が椿を襲ってたのか?あいつそんな趣味あったのか?何か変だ。」


 神山はちらりと真澄を見た。

(怯え方が男にみえない。あいつやっはり一人でいるときの態度がいつも感じるけどおかしい。まあ、あんまり嗅ぎ回りたくないけど)

神山は確信を持って言った。それはどこか真澄を疑えと言うような口調だった。


「乾は同姓愛者じゃないと思う。あいつ、女の着替えを覗いた事があって、それをボクシング部の先輩に口封じしてもらったらしい」

「よく知ってるな。でもおれや戸田はこのめで見たんだ。椿を襲おうと」


 逆に勝利は真澄を擁護するようだった。その様子を真澄は見ていた。

(日向君たちは私を男の友達として庇ってくれてる。やはり忍びないな。でも女だと今は言わない方がいいかも。何かが壊れそうで)

そのころ乾は家で恨んでいた。

「あいつら、とくに椿は許さない…」


 次の日勝利たちの教室の黒板に果たし状が貼ってあった。その件で皆騒然となっており果たし状は皆の視線が集中した。

「なにあれ?」


「椿真澄へだって」

クラスがどよめく中真澄は恐る恐るくぐりその封筒を取り開けた。中にはこう書いてあった。


「椿真澄へ。俺はボクシング部2年の明石だ。乾にしてくれたお礼をさせてもらう。ボクシング部室へこい」

寒い顔をしている真澄に心配そうに日向が聞いた。


「どうしたんだ?」

「何でもないよ」


 真澄は青い顔取り繕うと平静を装い笑った。しかし勝利は真澄が隠しているのを感じ取りより心配した。


「果たし状が何もないわけないだろ」

「でも迷惑かけたくないし」

「いいじゃないか。俺たちもう仲間なんだから」


 勝利は手紙を読んだ。

「よし、俺もついて行こう」

「僕も」

「俺も」


 戸田と大木が続いた。皆友人を助けようと言う意気に感じた雰囲気だった。真澄は皆を巻き込みたくなく止めた。

「だ、ダメだよ。僕が1人で……」


 神山は他人に聞こえないよう真澄に耳打ちした。

「そりゃ、女を一人で行かすのは危険だからな」

真澄はきっとした。

「君も乾から聞いたのか!?」

しかし神山は


「は? お前は「男だと思って」襲われたんだろ? 何で乾が女だと言ったって自分で言うんだ?」

「あ……」

真澄は口に手を当てた。しかし他の生徒には会話は聞かれていなかった。



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