表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/62

初の買い物

 トレーニングを始めて一週間、真澄たちはボクシング部に混じって練習していた。


 真澄はすごい気合いの入りようで筋トレを懸命にこなした。女だとばれたくない、勝利たちに負担をかけたくない一心だった。


 戸田は言った。

「随分気合い入ってない?すごい責任感じてない?」

「あ、僕は前回出なかったから」

「絶対勝とうなんて思わなくていいよ」


 と戸田は笑顔で励ました。


 真澄はマシンで体を鍛えた。  


 男性より少し負荷を落とし、胸筋や腹筋を鍛えた。細い体がしなった。明石たちは様子を見て言った。

「しかし針金みたいで教えてるこっちは不安だよ。」


「よし次はパンチングミット。期間が短いから早めに取り組もう。」

と他の部員が言うと真澄はグローブをつけ、勝利が受ける事になった。2人ともリングに上がった。


 勝利はパンチングミットを持ち真澄の相手をした。数十発撃つと一旦終了した。

「お見事!」


 拍手をし戸田は真澄を冗談まじりに褒めた。

「正確に無駄な力なく打ち込めてるね。勝利よりいい感じ。」

「いやみかい。」

と勝利は言った。


 中西が勝利を呼んで言った。

「日向、前に試合に出た時と比べて随分顔色が悪いな。雲泥の差だ。どうしたんだ?」


「いえ、何でもありません。」

勝利は遠慮がちに言った。


 勝利は国木田と話し合い、休み時間に小宮の元に相談に行く事にした。2人は保健室に連れ添って来た。


「あらいらっしゃい。」

と小宮は笑顔で2人を出迎えた。


 椅子に座り小宮の話をじっくり聞く事にした。小宮は切り出した。

「日向君のお母さまはDVにあってるのね。」

「はい。」


「アメリカでは6人に1人が親に性的虐待を受けているわ。後、夫婦のいさかいに子供を巻き込むのも性的虐待よ。巻き込むだけでなく、子供に責任転嫁する事もあるわ。」

「すごく大きな問題ですね。」


 勝利はぐいっと目をこらし真剣に聞いた。国木田は問題の大きさに不安な顔をした。祈るような気持だった。小宮はさらに深刻な問題に

 

 ついて例を挙げ話を続けた。

「そして子供によっては自分を道化だと思ったり邪魔者だと思いそうふるまったり、親が厳しいのは自分がかわいいからだと言うのを嘘と思い逆に自分を信じられなくなったりするの。」


「じゃあ日向君にもそういう症状が?」

「調べる必要があるわ」


 小宮は日向の今後を考え不安の混じった眉間にしわをよせた厳しい表情をしていた。

「うちの父はなかなか悪い事を認めないんです。自分には非がないみたいな顔して。暴力をもみ消し隠しています。他人にも自分自身でも。だから明るみにでないままなんですこのままじゃ救われません」


 小宮はいよいよ不安をまし表情にも緊迫感がこもった。それが部屋にも伝わる。


「そうね。機能不全の家族には他人に話すなというルールがあるの。そのため他人に言えなくなるの。そして恐れや罪悪感を感じていく。それに対するには虐待の痛みと向き合う事が必要になるの。自分を許す行為ね。長い間耐えてきた事を知り涙を流す。それまでは解放されないの」


2人は深刻で難しい話を長く聞き非常に疲れたが同時に満足感もあった。

「かなり色々話聞けたわね」


 収穫有と言う国木田の言い方に対し改めて勝利は自分の置かれた状況のシビアさに息をのんだ。

「ここまで深刻だったとは・・」

 

小宮の話が歪んだ家庭環境に囲まれた深刻さを激しく自覚させていた。さすがに力が抜けた。


 いや強い力に食い尽くされてしまったようだ。

肩を落とした勝利を国木田は労った。いつのまにか2人にはそういう雰囲気が出来ていた。


「今度相談センターに私もいくわ」

「色々ごめん」


 勝利は本当に申し訳ない表情をした。

「ここに電話して、直接行ってみよう。ところで今度の日曜日あいてる?」


「う、うん」

「私の買い物に付き合って。」

「えっ」


「場所は渋谷町ね。午後2時から」

国木田の表情は魅惑的だった。いつもの笑顔とは少し雰囲気が変わっていた。突然の申し出に勝利の心は少なからず戸惑った。


 勝利はその夜少し気にした。

(別にただの買い物だよな・・)


 日曜日、駅で2人は待ち合わせした。勝利にとっては女の子と2人きりで遊びに行くのは実はこれが初めてだった。何せ恋愛を禁じられた境遇である。


 何となく胸が高鳴り、その一方で特別な意味はないだろうと言う気持ちもあった。勝利は国木田をどう思っているのかまだわかっていなかった。

2人は会い、国木田は行く先を決めた。

「洋服を買いに「ピカレソ」に行くわ」


 駅から3分の目立つ場所にあり店としてだけでなく、町の名所となっている高層ビルで、大型デパートとはまた違う外観と作りだった。


 駅のように開かれた正面入り口から豪華で広い自動ドアを抜けると幅が広くグレー色でシンプルかつ色彩感ある廊下に続く。


 階によって様々な店がある。化粧品やバッグの店、メンズとレディースファッションが同じ階にあったりレディースファッションのみの場所がある。レディースのみのコーナーに行く事になった。

 

 フロア内にはハンガーにコーディネイトされた服が大量にかかっていた。かかっている物だけでなく同様に服を着たマネキンもある。


 ショーウインドにもマネキンは設置してある。


 来店している女性も同じような服を来ている。雑誌で見る最先端の服とコーディネートが多い。


 国木田は先導するように馴れた足取りで店内を回ったが目当ての商品はないようで馴れてない感じもありあどけない雰囲気だった。


 勝利はこれがいい等と勧めなかった。1着に決めるため2つ、3つを候補にして比べる。


 両方を交互にじっくり眺める。


 1つを手に取りまた別の服をとる。しばらくしてぴんときたように上品な柄のワンピースを取った。

「試着してくる。」


 そういって試着室に入りしばらくして出てきた。待ち時間は勝利はどんな格好になるのかとすこしどきどきしていた。

「これ、どうかな」


 見せたいと言う欲求のある笑顔になかなかワンピースが似合っていた。前の服とはかなり印象が違い勝利は少しだけ胸が高鳴った。


「いいと思う」


 優しく答えた勝利に国木田は穏やかに微笑み嬉しそうな顔をした。

「じゃあ次」

今度はさらに勢いよくコートを手に入った。少しすると出てきた。


「これは?」

「うん、バッチリだよ」

「じゃあ決めたわ。ちょっと待ってて精算してくる」

少し待って国木田は戻った。


 国木田は外で言った。

「晩何か食べる?」

「あ、うん。」


 勝利は少しだけ詰まった。国木田はそれを察した。

「あ、日向君は門限があるんだもんね」

「いや、大丈夫」


 どぎまぎし、今日こそはなんとかしようと考えた。しかし国木田は笑顔で答えた。

「ううん、悪いからやめとくわ。ただ次は行こう」

「う、うん必ず」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ