弱さへの悔しさと国木田との急接近
「勝利に近づく女は許さない・・」
光子は仮想の段階で想像の中で勝利と親しくなろうとする女性に憎しみを燃やした。
その言い方には仇の様な怨念がこもっていた。
それは先天的に光子が歪んだ情の持ち主なのか相次ぐDVの為にそうなったのか本人は知る由もなかった。
しかし放っておくとまずい危険な状態に来ている事は他人には分からないよう隠していた。
「勝利が恋愛、デートなんて許さない・・学校で女と口を聞くのも本当なら認めたくない・・この先一生認めない・・あの子には純潔でいてもらう。かつ立派な人間に。何もいい事ない私にはあの子しかない!私は全ての女に嫉妬する・・汚れた女たち、あの子をけがす女に・・」
勝利はかなり勇気を出し大士に話しかけた。崖に足を引っ掛けるような気持だった。
「母さんの事なんだけど・・」
「何だ」
相変わらず何にいらついているのか分からない憮然としたもの言いである。
全身で威圧しようという狙いが見て取れた。勝利には覚悟はあったが若干の後悔があった。
人にちょっと注意するのとはわけがちがう一世一代の様な決意であったがその反動の後悔も確かにあった。しかし胸中では
(いつまでも逆らえなければ俺は変われない!
しかし大士は黙っている。
(変わらなければ、大人になってからきっと馬鹿にされる・・!)
さらに強い決意を胸に心の階段を上り鍵をこじあけもう1段勝利は遜った。
「母さんに1度会いたいっていう医者がいて、今度連れて行きたいんだけど」
「何だと! ばかやろうふざけるな!」
予想はしていたがここまでの暴言が帰ってくるとは予想しなかった。
しかし本で見たように虐待をする親は他人に知られる事を嫌がる事を知っていたためそうなのだと何となくわかっていた。
次の日に2時限は国語で論文を書く内容だった。進藤は当てられ起立して読んだ。
「科学技術は米国が研究が最も進んでおり、対して日本は劣勢である以上、より研究施設の増設と開発費用、教育に政府がどのように予算をかけ発展するのかを調べたいです」
教室がおおっと言う声に包まれた。教師は
「良く掘り下げたな。素晴らしい!」
と言う声をいびきが打ち消した。
「ぐがー!」
勝利は居眠りをしていた。進藤はめらめらと燃え上がった。
(俺を侮辱しやがって・・)
勝利は汚名挽回ではないが休み時間歴史のノートをまとめていた。年号だけでなく事件や戦のねらいや関わった人々、法令の内容などを書き出した。
(東大では00字でまとめろって問題良く出るから。受けるかわからないけど)
ところが書いていた所を進藤が来て1部を消しゴムで消した。
さすがの勝利も突然のおかしな行動に感情的になった。
「なにすんだよ!」
「うるさい! 勉強の邪魔してやる!」
「やめろって」
勝利はトーンを抑え怒った。
進藤がこんな小学生の様な事をするとは思っていなかった。まるで子供になったように普段の落ち着きがなかった。
そこへ空気を切り裂くように後ろから声が聞こえた。
「やめなさいよ!」
そこには腰に手をあてた国木田がいた。
いつになく憤然としていた。勝利は驚いた。
そして他の見ていた生徒も同調した。
「そうだそうだ!」
勝利は国木田にお礼を言った。
「ありがとう」
国木田は照れとうれしさで微笑んだ。さっきの怒りの顔とは雲泥の差だった。
「おれいって言うとなんだけど、勉強教えてほしい所あるの」
国木田は椅子を持って来た。勝利は歴史の本を開けた。
「ええと、年号だけじゃなく、戦や法律の内容や関わった人とかをあげられるようにまとめるといいと思う。どういう狙いがあったかとか」
「私、偏差値60いくかいかないかだから志望校迷ってるの」
「でもずっと続けていれば試験当日まで伸びるって合格者の人が書いた本に出てた。」
「予備校のB先生の授業わかりやすい」
「あっ、俺も夏期講習受けた」
「ただ人気のある講座だからそこからどうやって抜きんでるか難しい所で。予備校の帰りにでも話さない?」
勝利はいつの間にか2人きりのムードになっている事に気づいていなかった。国木田も全部がそういう狙いがあったわけではない。
2人は予備校の帰りに道で話した。国木田が肩を回した。
「あーああと11か月の辛抱で解放されるんだ。」
「あー俺も肩いて。」
「怪我?」
「いや、ボクシングを少し」
「相当疲れてるんじゃない?」
「今回は椿が前面に出て、俺は控えでいいって言ってた」
(えっ女なのに?)
と思わず言いそうになった。勝利は
「しかしあの細いからだ見てると・・」
「確かに細いよね。ねえ、門限って大学行ったらなくなるの?」
勝利は肩を落とし下を向いた。
「たぶん・・」
国木田は少し間を置いた。勝利の斜めを向いて言った。
「門限がなくなったら一緒に出掛けたい人いる?」
「いない。いないから門限あっても耐えられるんだと思う。」
「でもいれば?」
勝利は間があいた。答えを慎重に選ばないと男らしくない自己主張出来ないと思われるからだった。
「ちゃんと親に反抗するよ。」
翌日休み時間にまた国木田は勝利の所にいくつかパンフレットを持って来た。
「これ、DVの相談窓口やコールの電話番号とかのパンフレットよ。今度一緒にいってあげようか」
真澄は声が聞こえはっとした。不安そうな表情だった。
「ここでだめだったら裁判とかになるのかな。裁判はお母さん方が訴える側だから出して弁護士もやとわなきゃいけないんだよね」
やや話がそれる方向で勝利は言った。
「何より母さんは他人に言わないんだ。女の子と会うななんて言うのはたぶんDVといじめによっておかしくなったんだと思う。母さんには嫌な事良く言われたけど」
勝利は夜今日の宿題と塾の宿題をテーブルに乗せた。
(俺は自分の目標だけじゃだめで家族の問題を解決しなければいけないのかもしれない。でもそうすれば受験に失敗するだろうけど)
そんな時下の階で声が聞こえた。大士が光子に文句を言っていた。
「何をやっている?また母さんの悪口を言っているのか」
うつむき加減で光子は答えた。
「あの女を憎む気持ちがわかりますか?」
パンと音がするほど大士は光子を殴った。光子は頬を押さえた。
「まだ恨んでるのか少しぐらいのいじめで! 汚い女だな貴様は!」
そこへ後ろに勝利がいた。大士は睨んだ。
「何だ。」
勝利は葛藤した。ここで切れてしまうべきか。
目は泣き出しそうだったがそれは恐怖よりも悔しさだった。大士はさらに言った。
「言いたい事があるなら言ってみろ!」
ここで殴ってしまおうか。勝利は手が震えていたしかし、
「バカヤロー!」
そう言って壁を殴り立ち去った。
勝利は部屋にもどりいじけた。
(おれはどうせ弱虫だ。何も守れない)
ノートには書かなかった。書いても意味がないと感じたからだった。




