暗さの中のわずかな光
勝利はまた心情をノートに書き綴っていた。しかし憎しみと言うより辛さの中に落ち着きがあった。
確かにノートに書くと自分の心がわかる。しかし段々と自分の力のなさ、いや気の小ささを感じ苛立ちは増した。
(はたから見ればただの暗い人がやる行為かもしれない。自分には本気で母を助け出そうと言う勇気がない、それ以前に思いやりがないんだ。本当になんとかしなければいけない状況なのに今は受験で忙しいと言い訳をしてるんだ。もう自分は家族全体の事を考えなければいけない年齢だ。でも問題から逃げる言い訳の為に受験を使っているんだ。でもそれを邪魔するのは自分に自由を、女の子との付き合いを認めない母のエゴだった。このエゴが憎しみとなり邪魔をする。しかも子供の頃から自分をかばってくれなかった恨みも入っている。ボクシング部と違って親父に怒れないのは肉親の情が邪魔をしてるんだろう。)
ひとしきり書き、勉強はやめ寝る事にした。
翌日前より少し生き生きしたと皆が気づく表情で勝利は教室に入ってきた。目はうつろげながらも未来を見つめているようだった。鞄からの教科書の出し入れのスピードなどがこれまでより少し早かった。
勝利は授業の前黙々と英単語を書きだした。
(今出来る事をやろう。)
そう完全ではないが心を支えるための小さな決意が芽生えていた。
(不幸だと思うのはやめよう、ではなく不幸だけど出来る事を頑張ろう。)
と考えをシフトし、次々英単語を雑念をふりはらいながら書き出した。次は英文法を同様に書き出し、明治や立教の問題も出して解こうとした。そこには内なる感情があった。
(自分には母を救う方法がない、母を連れて家を出てどこかで生活するなんて週1回のアルバイトさえ満足にこなせない自分にそんな事出来るわけがない。でもこのままじゃ母の身が本当に危ない。それなら・・)
「そうだ腕立て伏せやろう。」
1、2と腕立てを始めた。
(もっと真剣にスポーツやるべきだったかな・・)
勝利は家で掃除を母の代わりにやりお風呂を洗い沸かした。お米をとぎ炊飯器に入れ、野菜を切って夕食を作った。
次の日の学校で休み時間に真澄と話した。真澄は
「あの後父さんと会ったんだ。」
「えっ、大丈夫なの?」
「大丈夫、良い人だよ。と言うか日向君の話を聞いて自分は恵まれてるってわかったんだ。両親は色々あったけど暴力をふるった事はない。」
「そうか・・俺は母さんを何とかしたいけど、俺が聞くと問題はないって言うんだ。でも段々歪んで俺を自由じゃなくそうとしたんじゃないかと思う。でも俺は少しずつ元気になったから。」
担任は6限目に言った。
「今日は進藤君が企画した居残り授業です。では最初の問題わかる人。」
「はい!」
勝利は勢いよく手を挙げた。
「〇に入る単語は〇です、なぜなら~構文になるからです。」
「はい良く出来ました。」
進藤は様子を見ていた。
(もしかして何か悩みがあるのにそれでもがんばっているのか・・)
勝利はまたノートに書いていた。
(にくいにくい父がにくい。でも怒れない。自分の情けなさがもっと憎い。2回も殴るチャンスがあったのに殴れなかった。俺は弱い甘えん坊だ。家を追い出されるのが怖いのかもしれない。)




