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それぞれの夫婦事情

 電話の相手は真澄の離婚した父だった。少し真澄は緊張し、慎重に言葉を選んだ。なにせ勝利と別れた直後にこれである。


「ひ、久しぶり、うん、うん、えっ?」


電話の相手の言った事に戸惑っているようだった。

「わかった、お母さんに聞いてみる。」


真澄は電話を置いた。母親は不安に感じていた。

「お父さん、何て?」


真澄は下を向きためらいながらも話した。

「今度3人で話し合おうって。別に怖い感じじゃなく優しい感じだった。」


 真澄は勝利に電話した。それは相談と言うよりまた話したいと言う好意が多くあった。


「この前はありがとう。じゃがいもおいしいって言われた。」


「本当?」


「煮え具合が良くてだし汁の味も良かったって。」


「うれしいなあ。あのじゃがいもが俺の作れる中では一番得意なんだ。今度別の料理をいくつか見せるよ。」


勝利は真澄の母に喜んでもらえた喜びをかみしめた。

「それはうれしい。ぜひ今度作ってほしい。色々楽しかった。また3人で会おう。ところで、母の言った事どう思った?」


勝利は少し間が空いた。

「ああ、すごく参考になったよ。うれしかった。一番考えたのは「自立も大事だけど感謝が大事って事」と言う部分かな。うん、今までは自分では親が変だとか自分が甘えてるんじゃとか、また色々な人の意見聞いて思ってたから、やっぱ自分の事親身になって考えてくれる人の意見は参考になる」  


「お母さんが「何かを言うのは必ず理由がある。」って言ってたじゃない。あれはどう思った?」


「ああ、今までも考えた事はあったけどうちの母さんは「変な人」と言うイメージが自分には大部分だった。やっぱりこれも違う角度からの見方だよね。母さんがいらいらしてるのもストレスのせいだって、もう少し考えるべきだって。ただ女の子と会わせないって言うのは別の理由かもしれないけど」


真澄はうなずくように黙っていた。しかし勝利が前より新しい見方が出来元気になった感じが見て取れた。


 勝利の母は死んだ姑の事を写真を握りながら憎んでいた。姑は良く暴言を吐いた。


腰に手をあてがいあからさまに侮蔑してきた。自分がはるか立場が上と言わんばかりである。


「あんたみたいなのがあの子にふさわしいと思ってんの! 身の程をわきまえなさい!」

「ぐずだね全く」


「息子に成績の悪さが移った。」


数々の暴言を吐いた時の姑のにくい顔と言い返せず我慢している自分を思い出し悔し涙を流した。


何も出来なかった自分を恥じ悔やみ手が震えた。殴りたいとさえ思った。

「復讐しそこなった・・!」


 真澄は母と2人で話した。急な呼び出しで最近は父親の事をじっくり話すのを避けていたため向き合う事になった。


「お父さん色々心配してて話したいって」


少し母は悩みと怒りが混じった顔で答えた。何の用事かと言うのも不安だった。


「3人一緒と言うと、逆に2人でしか話さない事を話せなくなるかも」


「その時は私は席外すから。どんな格好して会おう・」

母は少し緩んだ顔で


「男の恰好をした貴方を見たら、喜ぶか悲しむか・・」


「変装が上手いと言ってもらいたい。」

と真澄ははは、と言いながら笑った。


「また母さんの写真を見ていたのか。」


母が振り向くと勝利の父がいた。音も出さずに近づきいつの間にやら後ろにいた。この男は相手を恐れさせる為いつもそうする。


いつもの様に侮蔑と憎しみしか心にないような威圧的口調で言った。

「全く、お前は母さんがいた頃からダメな嫁だった。母さんと上手く付き合えないのはお前が未熟だからだ。俺ほど偉大な男に嫁ぐならそこも熟知しろ」


そこに相手の心を配慮する情けなどなかった。それに母は耐えられなくなった。

「貴方はいつだってそう。かばってくれたことなどない!」


「女が偉そうな口を叩くな!」

そう言って殴った。殴られた母はさらにおいおいと泣いた。


もうこの家で泣きながら寝るのは何十回、何百回目だろう。


 翌日の学校で休み時間ふいに真澄は進藤に話しかけた。


「進藤君、勉強教えてほしいけど、いい?」


 進藤はかなりきょとんとした。進藤にとっては真澄は味方でも敵でもない、悪く言えばどちらでもいい存在であるからだ。

「ここなんだけど……」


 真澄はノートを見せ、その後色々と教わった。終わり際真澄は不意に進藤に言った。


「日向君の事、どう思ってる?嫌いとか・・」


 この質問もかなり進藤を驚かせた、核心を突く質問を真澄が言うとは思わず椅子が揺れた。


「き、きらいなわけがないだろう、嫌う理由がないじゃないか。僕はいつだって皆を公平に見てるし尊敬する人はしている」


 かなり取り繕ったあわてた態度だったが彼なりに冷静さをキープしているつもりだったが、真澄にはどことなく見破れた


真澄は一応の誠意に対するお礼と見透かす笑いをした。

「そう……」


 国木田に真澄は言った。

「慌ててるのが見え見えな上に隠してる感じ。やっぱり嫌ってそうだね。」


「私も大泉さんに彼の過去は聞いたけど」


 真澄はやや悲しそうな顔をした。

「でもうちの母が先日言ってたように、少し嫌な人の気持ちを理解するつもりで話しかけたんだけどね」


 今度は真澄は大泉に話しかけた。

「な、何?」

いつも大泉から話すことが多いため、かなり不意な感じで疑心暗鬼があった。


 いつもの仕返しをされるのではと言恐怖もあった。

「僕は君に言われた様に、秘密を隠してるかもしれない」

「えっ?」


 かなり意外な1言であり同時に何か攻撃されるのではと言う不安を軽くした。

「秘密を隠すって悪い事だし、申し訳ないから日向君に少しだけ言った。」


「・・これからどうするの?」

あまり敵意が感じられない反応に真澄は答えた。

「皆が、自分を含めて納得する方向で・・」


 後日、真澄の父に呼ばれた料亭で3人は会った。眼鏡をかけた、普段は柔和そうな良い企業の紳士に見える。真澄には笑顔を見せた。

「真澄、久しぶりだな。」


 真澄は少し恥ずかしくぺこりとした。

「お前も」

母に対してはやや硬かった。


 3人が席に着き、少し間を置いてきりのいいところで父親が切り出した。

「3人でやり直さないか?」

母はやや不機嫌だった。


「どういう理由でですか?」

「お前たち2人では大変だろう。僕も独りになってから辛さがわかったが。」


「随分単刀直入に仰るんですね。そこまで切った言い方は私には出来ない。」


 少し厳しめに皮肉を交えた言い方に沈黙が流れた。母がそれを補い切り出した。

「貴方は真面目だった。本当に。でも家族の心の隙間に気づくのが遅かった。それを離れてから気づいたなんて・・」


 強すぎる言い方ではないが母は父を責めた。父は切り出した。

「真澄はどっちがいい?」


 真澄は上手く答えられず父が続けて聞いた。

「大学へ行きたいだろう」

「奨学金は出るんだけど・・」


「この子に判断を押し付けないで下さい。」

少し厳しめに母親は言った。


 真澄は勝利に電話した。

「どうしたの?」

真澄は食事の話の後で疲れていた。気がつくと勝利によく相談する自分がいた。


「今日、お父さんと3人で会ったんだけど、何ていうか微妙な雰囲気だった。」

「・・そうか。ま、うちもかなり雰囲気悪。」

真澄は最近の様々な出来事で少し前より物事を知った気持ちだった。


「人を理解するのって難しいよ。言った母が理解するの悩んでるんだから。」

「うん」

「何かあったの?」

「父がまた母を殴った」

真澄はそれを聞き、自分の方が恵まれていると感じ言葉を返せなかった。

 




  

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