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初めての真澄の家訪問

 勝利は真澄の家に行く相談をした。

「ただ、お母さんの病気を考えて迷惑だったりするかもしれないから、場合によってはやめる」


「ううん、気にしないで。前に日向から電話があった時はお母さんも会いたいって言ってた」


 真澄は優しく気遣いを受け取った。気持ちが通じ合い勝利も明るくなった。

「それはうれしい。元々、俺が家族の事で愚痴言ったのが発端だったんだけど」


「いま日向に必要なのは他人の家庭を見る事だと思う」

(また日向君が笑顔になった。最近笑顔が増えてうれしい)


 大泉の元に二人の女生徒がきていた。

一人は読書が好きそうな目がやや悪いおとなしい感じの少女、良く三つ折りにしている人と距離を取るタイプ、しかし彼女は良くいるそういうタイプではないうっすら横目であたりをチェックしている。


 普通の大人しい文学少女と少し違う印象を与えた。目を細めた時意地悪さが顔に出る。


 もう一人は目付きが冷たいが非常にすらりとしたスレンダーな美人、髪は肩より下まである少女だった。しかし一見人間嫌いそうで話すと愛想は良い、しかしやはり冷たかったりするタイプであった。二人は側近のように大泉の元にいた。


 おとなしい感じの少女がちらちらクラスを見回し言った。

「いつまで進藤にアドバイスを続けるんですか?」


 大泉は答えた。いつも彼女は堂々としているが楽しみだけでなく少し疲れがあった。ため息をつきながら言った。


「最初はあいつをからかってたんだけどね。あいつ意外にへこたれないと言うか打たれ強い、めげないのよ。この前の戸田くんの件で信頼を失ったかと思ってたらまだ諦めてない。でも今後は突き放すわ」


 髪の長い少女が言った。

「椿が女かと言う調べなんですが、必ず更衣室で姿を消すらしいです。最初に消えたり、時期を見計らうようにいなくなったりするらしい。また他の男子に聞きましたが、男子トイレに彼が入ったのを一度も誰も見てないそうです。あと体力測定が男子を大幅に下回ってるそうです」


「ありがとう。ただやっぱり決定的な証拠がない。でも私が思うに、問い詰めた時焦ったり完全否定しなかったりで何か怪しいけど」


 おとなしい感じの少女は言った。

「でも、男装する理由ってやはり学費が男の方が安いから?」

「あの子の家庭の事情が厳しいのはつらいと思う。でもやっぱり不正はだめよ。理由がもし学費だったら私は許さない。最悪、カメラや盗聴をする事もできるけど、なんかね。もし他に理由があったら悪いから」


 髪の長い少女が聞いた。

「じゃあ、学費以外にも何か理由があると?」


「もしそうだったらわるいじゃない。…でもだとしたら何かしら。男装する人って大体女である事をすてるためにするじゃない」

「そうですね。悪い目的でする人ってあまり聞かないです」


 次の日曜日、駅で勝利は真澄と待ち合わせマンションに向かった。

 

 真澄のマンションは小近糸町郊外にある築12年の9階建てマンションだった。この近くには新しいものも含めてマンションがいくつかあった。手袋をした真澄は言う。


「この町も結構なれたよ」

入り口の受付を抜け、道行く人に挨拶をしてエレベーターに真澄が先に乗り5階を押した。そして降りて3件目に椿家はあった。

「お邪魔します」


 勝利は真澄に案内されマンションに入った。2lDKで足拭きがひいてあり壁は白と黄土色の場所が両方ある。スリッパもケースに綺麗に並んでいた。


 勝利はスリッパを履きあがった。なるべく静かに歩こうと思った。廊下も綺麗にされているが年季も感じさせた。

「いらっしゃい」


 真澄の母は布団から出て出迎えた。もともと42歳と思えない若々しさだが、病気の為か良い意味で体重が減っていてより若く見え、真澄も立って歩く姿は最近見ない為驚いた。

 その若さの残る美しさと聡明な雰囲気に勝利は心を動かされた。いつも冷静な勝利の心が揺らいだ。


(椿の母さんか。似てるだけでなくなるほどって感じがする)

「お、お母さん」


「大丈夫、気にしないで。日向君、今日はゆっくり楽しんで行って」

母は優しいまなざしを向けた。

「は、はい!」


 勝利は答えた。何となく初対面ではあるがどこかであったような面影や郷愁を思い起こさせた。

 勝利が普段は母に冷たくされどこか愛を求めている所に真澄の母が現れ心に欠けたピースがはまったようだった。


 まず真澄の部屋に二人で入った。綺麗に片付いていた。しかしそれには理由があった。

(あまりきれいにしてると女の子の部屋みたいだし、微妙に汚しておいてよかった。でも・・)

「・・・」

「どうしたの?」


(男の子と2人何か緊張する)

勝利は真澄の不安げな顔とそわそわした動きを感じ取った。

「改めてお邪魔します。ソファーすごい柔らかいね。俺の部屋のと違って。」


 (しまった。女は概してふわふわのを選ぶんだ)

と真澄はそのままにしておいたのを悔やんだ。勝利はきょろきょろした。


「綺麗にしてるよね。俺時々親に汚いって怒られるから。」

「と言うか、元々ものがないんだ。あんまり」

「俺前好きなアイドルのポスターはったりしてたけど」

「ぼ、僕はポスター貼らないんだ、落ち着かないから」


 真澄はひやひやした。

(はがしたけど、男性アイドルのポスター貼ってたら同性愛者か女だと思われるから隠したんだ。急激な改装だったなあ・・)


 何となく椿の話し方やあっちを向きこっちを向きな仕草ががぎこちないのを勝利は知っていた。

「大丈夫?疲れてない?」


 勝利は気遣った。真澄はたじろぎながらこたえた。

「あ、うん大丈夫。」



「椿って日曜日しか休みないの?今日とか休まないと疲れるでしょ。」

「うん実は・・」

「実は?」

 真澄はうかない顔で答えた。


「実は…シフトを減らされたんだ。僕があまり腕力ないから力のある人に多く仕事が廻るんだ。」

「そうだったんだ。でも減ったとはいえ、学校だけじゃなく宿題とバイト、受験勉強に家事でしょ。休みの日ずっと寝てなきゃ持たないだろう」


 しかし真澄は勝利が気を遣わなくていいよう明るく振る舞った。

「ま、たまにはこうして遊ぶのもいい、あまり気にしないで。毎週休みの日寝てばかりも良くない。だれかに遊びに来てほしかった。日向君が転校してから第1号だ」


「そういってもらえてうれしい。さびしかったらいつでも呼んでくれ」

真澄は勝利の普段の緊張が緩和されていくのを感じた。呼んでよかったと思った。


「段々家に呼べる人増えればいいと思う」

「うん、そうだね。」

「みんないい人、国木田さん、戸田君、大木くん、神山くん、あ、大泉さんは少し引っかかる」


「ああ、俺も気にしない様にしてるけど最近何かおかしくない?」

「うん・・僕も少し気を付けてる。変な本読んでるって国木田さんから聞いた」



「俺は今は休みの日は1日アルバイトしてる。結構きついけど。やっぱり俺の今やってるアルバイトも体力ある人が多くって、俺が下になっちゃうんだ。うんつらい」

「肉体をあえて選んだの?」


 勝利は少し自分の事を思いかえした。

「俺、無謀な事しやすいタイプで、得意な事より苦手な事あえてやる事が自分でもわからないけど多い。苦労した後得られる事が結構多くある。失敗する事もあるけど」


「それって結構かっこいいよ。苦手に挑むってカッコいい。」


 真澄の目が少し輝いていた。

「自立するために少しくらいきつい事も耐えなきゃいけないと思うんだ。」

「日向は自立出来ない人じゃないと思う。本にあったけど怖いのは自立させようとしない親なんだ。」

「あっそうそう、あの本で初めて知った。変な親がどう言うつもりで変な事言うのかって。」


「実は支配する側がされる側に依存してるらしいんだ。思い通りにしたいからならないと不満を言う。それは相手にこうなってほしい、と変わる事や変わらない事を強要する事らしい。」


 勝利は気にした。

「お母さんよく歩くの?」

「ううん全然、多分無理して待っていたんだと思う。」


「そうか・・何か手助けしたいな。」

「じゃあ、料理作る?」


 2人はジャガイモの煮っ転がしを作り、枝豆、漬物、なすのかす漬け等を出した。

「ジャガイモの皮剥くのむずかしい。」

「やっぱり慣れだね・・」



 少し間が空き真澄が言った。

「ねえ、日向君、やっぱり秘密を隠してる人って友達としてやかな?」

「え・・」

「やっぱり、親しいのに隠し事するのって嘘をついてるみたいじゃないか。」


 真澄は下を向きながら野菜を切ったが元気がなかった。勝利は

「秘密、っていってもそれが何なのかだけど。でも隠し事ってやっぱり全部理由があるからするんじゃないか?」


 真澄はまだ元気がなかった。

「ある程度親しくなっても何か隠し事する人って嫌いだよね。」

「・・・」


「僕が何か秘密や隠し事をしてたら、嫌いになる?」

「ど、どうしたの急に・・」


「この学校は皆良い人だから、何でも打ち明けないと自分が嫌な人に見えてくるんだ」

真澄は少しだけ泣き涙をぬぐった。

「ごめん、何言ってるかわからないよね・・おじや作ろう」



 3人は食卓に着き団欒をしていた。勝利の生い立ちやこれまで、趣味なども話題に挙がった。真澄は


「日向、少し相談に乗ってもらった方がいいんじゃない?」

勝利は迷惑かけたくない気持ちと切実さが両方あった。

「相談・・?」

「実は、僕の家族は・・」


 勝利は現在の家庭環境を説明しまた出来るだけわかりやすく簡略に自分が子供の頃からの親との関係を話した。

「まあ・・」


「ひどい親だと思いません?」


 勝利は愚痴っぽくなっていた。

「でも私にはわからないかもしれないけど、きっとご両親ともあなたの事がすごく心配なのよ」

「・・・」


「なぜ、そういう事を言うのか理由は全部わからないけど、必ず理由があって言っているの。親子ならなおさら。」

勝利は真澄の母の言う事を半分くらいしか理解できなかった。


「僕は大学行ったら1人暮らしします。なるべく親の援助は受けずに。自分が甘えてるとこも減らしたいです」

「立派ね。でもただ自立したり反抗するだけじゃなく、感謝をする事も忘れないで」


「感謝……」

「多分、すぐにはわからないかもしれないし和解にもっと時間がかかるかもしれない。でも感謝の気持ちを少しずつでいいから持っていた方がいいわ。」

「……」


 「じゃあ、お邪魔しました」

「また来てね。」

と母は見送り手を振ったが真澄は


「ああ、あんまり無理しないで寝てて」

しかし勝利が帰った後1本の電話がなり椿が取った。

「えっ! お父さん!」






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