戸田への支援と揺れる心
「貴方とは楽しくなりそうね」
戸田の件で勝利が進藤に寸止めパンチを放った後も、大泉は国木田となおも教室で対峙していた。
気づいている生徒といない生徒がいたが2人は見えない火花を散らした。
大泉は戸田や真澄の件で文句を言ってきた国木田を称えた。
(ふっこの子なかなかやるじゃない。いつの間にこんなに強く。前に文句を言った時とは違う。すごく変わったと言うより芯の強さが前に出た気持ちかしら)
今回の戸田の件で改めて大泉は国木田に対し自分は混乱や争いを楽しみ思う悪趣味な気持ちと不気味さ、相手を下に見る気持ちを持つ性格、いわば肉食動物なのに対し国木田は強力な自衛本能と能力を持つ草食動物のような気持で見ており、心の中に脅威が生まれていた。
一方進藤は明らかに焦っていた。クラスの支持を集められないだけでなく肝心の勝利の関心を引けないからだった。
巧妙に「クラスのため」と見せかけた自分の為であったもの隠すことに自信を持っていた同時にアピールする事も。しかし自分のやる事が空回りし勝利を本気にさせられない、いや別の意味で本気になったりした驚きや支持率を奪われ理由がわからない気持ちが同居していた。
しかし彼は自分の力不足を認めはしなかった。
「大泉さん、僕はなぜ日向より支持を集められないんだ」
(いじわるじゃないけど冷徹だからよ。自分の事が優先だと言う事がいくらごまかしてもみんなに伝わってる)
しかし内心を隠し、大泉はわざとよく考え込んで出した答えのように振る舞った。
「そうね、私が思うに日向君は友達思いだからかしら。うーんやっぱり戸田君の件への対処の仕方かしら。1度ついたイメージが落とせるわけないでしょ」
大泉は珍しく突き放した。進藤はさすがに大泉の反応が違う事に気づき落胆し、気落ちした。
(これが最後のアドバイス、わからなければ本当の馬鹿ね)
「大泉さん」
国木田は休み時間にあえて大泉の元へ行った。色々な意味で勝てない相手に勝負を挑むような気持だった。
大泉が掴みどころがない一方怒れば怖い人格を持ち合わせている。自分の様なタイプとどちらが不利か。
しかし以前真澄に指摘された他人を思う気持ちや正義感、クラス全体の和を考え個人も見る人格が強さとして次第に最近は前に出て来ていた。
顔つきにそれは見て取れた。しかし自分が地味とは思っていなかった。
大泉はクラス混乱と言う楽しみの敵が意外な伏兵だと思っていた。いや彼女の強さは前から感じていた。
だから前に文句を言って釘を刺したのだ。
国木田は恐れながら一方でどうどうと胸を張りながらここで弱い部分を見せたら負けと言う強さも見せた。
おそるおそる大泉の本性を覗こうとした。それは好奇心ではない深い洞窟に入る気持ちだった。
「私、この前大泉さんの机から落ちた「人の壊し方」読んでみた」
大泉は自分の心を覗かれ少しだけ見えない様に動揺した。
「ああ、私怖いミステリーや心理学好きなのよ」
「進藤君とはどういう関係だったんですか?」
そういわれると大泉はポーカーフェイスの様で正直な気持ちで話そうとした。裏表がない事を国木田は感じ取った。大泉は背中を向けた。
「同じ中学で告白されたの」
中学時代の進藤が告白した。
「好きだ。僕の様な男こそ君にふさわしい」
「ごめんなさい」
軽蔑と一応の真面目さが含まれた答えをお辞儀と共にした。
「僕は必ずすごい男になる!」
「そ、そうね。これからを見て決めさせてもらうわ」
「それから、彼は今みたいになったわ。」
「それじゃ彼は大泉さんの気を引くため?」
「うーん・・」
戸田は体育の授業に参加しマラソンをしたがむっつり顔で走りびりになった。体育教師は
「戸田、本気で走ってるのか?お前の能力ならもっと早く走れるだろう。」
弁当の時間に彼は風呂敷をつまらなそうに開けていた。そのくせ礼儀正しい開け方だった。おいしく食べようと言う気がなさそうだった。そこへ勝利が話しかけた。
「一緒に弁当食わない?」
しかし無反応だった。クラスが沈んだ。しかし次に国木田が話しかけた。
「一緒に食べない?」
戸田は国木田をじっと見た。口が開き半分子供のようだった。
「ね?」
「うう……」
「すごいな国木田さん」
勝利は国木田にお礼を言った。
「さっきはありがとう。これからも戸田の心を溶かす努力をするよ」
勝利は放課後トレーナーに着替えた。テンション全開のランニングパフォーマンスで戸田に言った。
「俺と一緒にランニング行かない?」
そこへ国木田も来た。
「私も」
引っ張られるように真澄が来たが勝利は断った。
「あっ君は・・」
「えっ?」
「今日はいいよ」
突き放された言い方をされ鋭く突き刺さった。国木田はいないところで真澄をなぜ外したのか勝利に理由を聞いた。
「前に一緒に練習したとき距離を感じたんだ。戸田が「君は黙っててくれ。」と厳しく言ってた。多分一緒に練習したりしなかったり中途半端だったからだったと思う」
その後3人はロードワークに出かけたがいきなりボールが飛んできて戸田の頭にぶつかった。しばらく頭を押さえていたがやがて気がついた。
「あ、あれ・僕は何を?」
「戻ったんだ!」
勝利は土日に肉体労働のアルバイトをしていた。
(きついなあ、これ)
「急げ!」
「は、はい!」
そこへ後ろから20歳くらいの若者が声をかけた。長髪で少し染めていて背が高い。肌は荒れていた。
「大丈夫? あまり気にしなさんな」
「は、はい!」
(乱暴そうな人が多いけど良い人いるんだな)
椿は次の日学校で悩んでいた。
(国木田さんは僕をあまり意識しないっていったけど、だからと言って私は男の友達が多いわけでもない。やっぱり自然な男っぽいふるまいが出来ないとか・・もっと男っぽかったら・・でもそうなれば女である事は言えなくなる。やっぱりどっちみち無理があったんだ)
そこへ勝利は声をかけた。
「今度遊びにいっていいか? いつならいい?」
「うん、さ来週。」
 




