国木田の奮闘
「戸田が?」
クラスがざわついた。正直、歓迎しているとは言い難いムードが教室を覆った。それが人間のエゴを浮き彫りにしていた。しかし進藤はにやりとしていた。
(戸田の事でクラスが揺れている。僕の腕の見せ所だ)
しかし国木田はにやりとしたのを見逃さなかった。
国木田はホームルーム終了後真澄に相談した。
「戸田君の話をした時、進藤君が薄ら笑いしていた。何か良からぬ事を考えてなければいいんだけど」
疑心と不安の両方がある顔をしていた。
真澄は
「僕は進藤君が何をしているのかわからないし、何か嫌な事をされたわけじゃないんだけど何となく行動に違和感を感じる」
「違和感、そうそう! 何かね。みんなの為になる事をやってるんだけど。何かってみんな、私も感じてる。でも決定的に変な事を言うわけじゃないのよね」
真澄は言った。
「そういう、あの人はどこか怪しい、って言う違和感って結構気のせいじゃなく当たってるものなんだよね」
「そうそう!」
真澄は少しして切り出した。
「うーん、僕的には国木田さんの方がクラス委員に向いてる気がする」
「ええっ」
国木田にとってはまさに瓢箪から駒、意外な一言を言われた感じだった。真澄はさらに説明する。それが妙に理路整然と冷静だった。
「面倒見がいい人だし、ちょっとした事に気づいたり、困ってたりクラスになじめない人に声をかけたりいつも気配りしてるじゃない。神経が細やかで。皆の事を考えて心配してるじゃないか」
少し顔を赤らめた後照れと無理っぽいと言う気持ちが両方ある反応を国木田はした。うれしさと困った気持ちが両方だった。
「はは・・私は進藤君たちみたいにすごく成績いいわけじゃないしね」
しかし真澄はもっと自信を持つように続けた。
「成績トップとかでなくよりむしろもっと大事な事があると思うんだよね。皆に気配りできて、クラスに溶け込めない人を気遣ったり、逆に怪しい動きや悪い人を探ったり、やっぱり人の事を考えられるかとかじゃないかなあ。最近思うけど転校生の僕が言うのもなんだけど、別の人がクラスの中心にならなければいけないと思う」
「そういえば最近大泉さんに何か言われているの気づいたけど、大丈夫?」
異性として心配すると言うより人間としての気遣いが見えた。真澄はすこし思い出し嫌な顔をした。
「うん、ちょっとつらかった。僕、嫌われてるのかな。ほら、国木田さんは心配するじゃない」
「私あの人の読んでる本見たけど怖い内容だった。変な事考えてなければいいけど・・委員交代かあ。急に話が出て来てしまった」
「僕だけじゃなくみな同意してくれるよ」
真澄は笑顔で答えた。
「転校生の椿君にそんな言ってもらえるのうれしいよ」
「転校生だからこそ気づいた部分多いと思う。国木田さんのおかげだよクラスになじめたの。それに僕をあまり男と意識しないのもフランクじゃないか。」
「ありがとう。私責任感ってわけじゃないけど特に転校生の人がなじめない事が無いようにしたい。ところで委員は日向君はどうかな」
「ああ、いいと思う。僕にもよく相談してくれたり乗ってくれたり。でも全部話してくれるわけじゃない。人に言いたくない事もあるんだと思う。あれ、鳥のキーホルダー持ってるんだ」
「あ、うん」
「日向君も鳥の筆箱持ってたけど、鳥が好きな人いい人が多いね。」
(ふーん、日向君も持ってるんだ)
クラスの女生徒がわざと勝利に聞こえる様に噂した。大声でなく聞こえるようなひそひそ声なのが陰湿だった。
「あいつ、家族が少しおかしいのよ」
「何でも親が女の子と親しくするの許さないって。」
「気持ち悪い。いや話したくない。」
その会話は全て勝利に聞こえた。勝利は嫌になり教室を出た。彼は屋上に行き座った。そこへ国木田が来た。
「大丈夫?」
「国木田さん・・」
国木田は心底辛そうだった。相手の事を親身に考えられる彼女らしかった。
「私も日向君の家の事情知ってるけど、でもそれ家々の事だし。」
勝利は心がほぐれた。
「ありがとう。さっきは辛かったけど。立ち直れたよ。国木田さんは良い人だな。困ってる人に手を差し伸べる」
「私の中学時代のバスケ部の先生が言ってた。目だっている人もベンチの人も同じように頑張れるようにしたいって。ほらこれ」
「あっ鳥」
「日向君も持ってるんでしょ?」
「知ってたんだ」
「国木田さんは学級委員に向いてると思う。」
勝利の好意的勧めに国木田は複雑な顔をした。
「さっき椿君にも言われた。でも、大泉さんが怖いの。今でも進藤君のバックにいるでしょう?」
何か暗い事を思い出したようで明らかに怯えていた。
「大泉に何か言われたことあるんだ。昨日も椿におかしな事言ってたな。
慰めてくれたお礼に勝利は親身に話を聞いた。
戸田は登校してきた。挨拶はせず暗い顔で苦しそうに歩き誰も声がかけられず、異様な雰囲気の中かばんを置き椅子に座った。
目が合いそうになるとそむける生徒が多かった。進藤は冷徹な目で見ていた。そして授業に入った。
教師はあえて戸田にきつく言った。
「戸田、聞いてるのか?」
しかし反応はない。
「返事をしなさい。」
そこへ進藤が出てきた。
「いったん教室の外へ出した方がいいのでは?」
そこへ声が聞こえた。
「やめなさいよそういう言い方!」
国木田が立ち上がり普段見せない怒りを見せた。
「隔離すべきです」
「まて」
教師は言った。大泉は立った。
「国木田さんが怒るのは珍しいわね」
国木田は勇気を振り絞り毅然とにらんだ。
「大泉さんも最近椿君に変な事言うじゃない。どういうつもり?転校生いじめ?」
「うっ……」
意外な反撃に大泉は後ずさりした。
「生意気な……」
しかし国木田は表情を変えなかった。勝利が立った。
「進藤、言い方がひどすぎないか」
ついにのってきたなという楽しみと冷徹さを合わせた口調で話した。
「僕はクラス全員の事を考えてるんだ。もし前のような事件が起きたら」
「だからそういう言い方は」
「危険人物を置くわけには行かない。事件が起きる」
勝利はカッとなった。そして進藤の元へ行き殴りかかった。
しかしそれは寸止めだった。進藤は寒くなった。
「本当言うと、俺も怖い。だけどだからこそ考えようよ。どうしたらいいか。」
教室が一瞬静まり返り、拍手が起きた。
「そうだそうだ!」
「進藤やめろ!」
進藤は脱力した。




