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捨てられた写真と嫉妬

 勝利は真澄から借りた毒親やDVに関する本を家で読んでいた。

「DVをやるものは、その数年後うらまれなくする為、『そんなでもなかったんじゃないか』と思うような工作をしていく」


「自分の為に他者に命令する者は『そうするべき』だと相手に根付かせコントロールしていく。自分を持っていない者は操られる。」


「自分の過去を思いかえして『そんなに不幸ではなかった』と思うのはそう思わなければ生きていけない証である」


 参考にもなったし、知らなかった事も多くあった。


 世の中には恐ろしい親が自分の知らない所に多くいて人格も恐ろしいが何より人の心を支配しコントロールしていくその術が恐ろしいとわかり、体に悪寒が走り手で体を抑えた。


 また自分の置かれている立場を自覚して辛くもなった。その為体調を崩し病院に行く事になった。


 勝利は真澄と話していた頃から明らかに元気がないと感じられるほどのだるさ、重さ、微熱のような物を感じており、前から場合によっては検査しよう、これはおかしいと思い病院に行った。


 医者は勝利の生活態度を聞きそれからふむふむと言う感じで答えた。


「食生活のバランスが少し悪いです。血液が濃く、ビタミンB群と食物繊維が足りません、鉄分が足りないとうつの原因にもなります。」

「えっ食生活悪かったんですか」


 てっきり体調不良は精神面だけだと思っていたため自分の管理不足を知りさすがに驚いた。


「ビタミンBが足りないと糖分が分解できず体がだるくなります。B1は糖質を分解、B2は新陳代謝します。食物繊維は2種類あり、水溶性と不溶性を1:2で取るのがベストです。ダイエットにも役立ちます。玉ねぎとトマトは血液をさらさらにします。さばやイワシも」


 次に日勝利は真澄に色々相談した。

「本貸してくれてありがとう。とっても参考になったよ。すごく引き込まれた」


「いえいえ」


 謙遜していたが、内心感謝されてうれしいと感じていた。勝利は

「しかし、世の中には怖い親って大勢いるんだな。有名な人でも変な親に苦しめられた人も多いらしい。でも本当に怖いのは本人に与えた影響なんだ。あと親の方が無自覚なのと意図的なのが両方ある。」


 真澄は共感した。勝利の言う事が的を射ているとも感じた。

「僕も、母さんは良い人だけど父さんは色々あった。だから気持ちを理解するため本を読んだんだ。そしたら読む前は全然わからなかった事が多くわかった。親が何を考えて何でそういう事を言ったりしたりするのか初めてわかって怖かったけど、以前より理解が深まった。」


「あ、そうか、椿の別れたお父さんどんな人なのか考えた事もなかった」


 勝利の同情するような目に真澄は思い出しながら話したが少し辛そうだった。しかし寂しさも感じられた。


「僕にはすごく悪い人じゃないけど、でも母さんとは合わなかった。母さんとの争いや母さんが影響を及ぼされて変わっていったり・・今でも心にしこりが残ってる」


 自分だけではない事が勝利には少し理解でき、世の中の広さを少し知った気になった。同時に自分は狭い人間だとも思った


「家があるだけ事情ってあるんだね。最近自分の事ばかり考えて周りが少し見えなくなったけど」

「日向君の登校の時ってそういう雰囲気じゃない」


「はは、多分同じ目に会っている人はいないって言う思い込みから自分の世界に入ってたんだよね。でも同じでなくとも悩みを持つ人は一杯いるんだ」


「うん、ちょっと視野が広くなったでしょ。明日はもう少し明るく登校できるかな。」

「あはは、たぶんね。」


 勝利は腕を組んだが真澄は本の内容を思い出していた。

「うーん、日向の親はあまり本にないケースだったね。よくあの子と遊んじゃいけません、とか言う親いるみたいだけど」


「それと過干渉、過保護な親、その組み合わせなのかなあ。明確に女生と付き合っちゃいけないって言う親の例はなかったけど。データにないと言うか」

「まだ研究外の未知の親?」


「あはは、未知の生物みたいだね。あ、ああ、後少しバイトをすることになった。」

(日向君、よく笑うようになった)


「あっ気がついたら笑ってた。色々ありがとう」

「えっ! そ、そんな、僕は出来る事を……」

手を振って去る勝利が真澄には前より優しく見えた。


 勝利は週に1度、軽肉体労働のアルバイトをする事になった。体を動かす仕事が向いていると思ったわけではなくがむしゃらさから新しいものが見えると思ったからだった。


 同時に自立の為だった。

それは作業現場での解体作業だった。

「体力を使いますって書いてあるけど、こりゃすごいわ」

  

 現場の仕事に必死でついて行こうとしたがスピードが足りず、持ち上げられないものもあった。しかし強引に運ばされた。

(冗談でなく、今日生きて帰れるかな)


 勝利は翌日現場バイトの事を大木に話した。

「えっ! あれやったの? あれ相撲部の俺でさえひいひいだったぜ。」

「うん、正直もうだめかと思った。でも自立の第1歩だから。」


 勝利は帰ってきた。しかしいつにもまして嫌な言い方で母に呼び止められた。冷たく人を疑う口調だった。


 しかし母の顔と調子には明らかに本で見た狂気が感じられた。

「机の中整理しておいた」

無機質で冷たい言い方であった。しかし机を開けられると言う行為が心を覗かれるようでもあり、いきなり言われて勝利は久々に憤慨した。


「勝手にいじらないでくれよ!」

勝利はさらに続けた。畳み掛けるのも久しぶりだ。今まで抑えたものが噴出した。


「何でそんな事するんだよプライバシーの侵害だろ!」

嫌な目つきで母は言った。


「あなたが秘密を隠してないか調べているのよ。」

「秘密って?」


 勝利は薄い目で見た。

「まあ、だから女性関係よ。最近変な女が多いから心配でチェックしてるのよ。」


 勝利は目つきを変えず声を荒げた。

「だからと言って勝手に探っていいのか?」

しかし母には反省の色がなく自分の言いたいことしか言わない。


「あの写真の女はだれ?」

勝利は少しだけ気まずくなったが何とか言い返した。


「中学時代の同級生だよ。」

「捨てておいた」

「何ですてんだよ!」


 さすがにこれには勝利は激昂した。母は何より悪い事をした意識がない。


「あの写真の女に騙されたりたぶらかされたりするからよ!」

冷たくゆがみ憎しみに支配された母の口調に勝利の怒りは沸点まで来ていた。


「ふざけんな! 何でそんな事するんだ!」

勝利は壁を殴った。


 勝利は外へでていった。しかしする事がなく家へ帰った。そして中西に教えてもらった腕立てやスクワット等のトレーニングをした。


 息絶え絶えになりひっくり返った。


「でも心の悩みが消えないと体を鍛えても・・あした小宮先生に話そう。」


 翌日の休み時間、勝利は小宮のいる保健室に相談に行った。これまでの事や母とのいさかいなどを良く聞いてくれた。しかし真澄は外で覗くように見ていた。


(日向君、私には相談してくれなかった……小宮先生には話すのに・・もしかして私小宮先生に嫉妬して……)


 しかしそこへ大泉が声をかけた。

「日向君の事が気になる?」


 真澄ははっとした。いつもどうりのにやにや顔の大泉である。

「日向君がすごく悩んでいるのがなんなのか気になって……」

「で、小宮先生がうらやましくなった?」

「なってません!僕たちは男同士なんだから。」


 大泉は少し調子を変えた。

「小宮先生にだけ話すって事は、友達には話しにくい事なんじゃない?秘密の話とか。」


「秘密……」

「あなたが秘密にしてる事みたいに……」

また真澄はかっとなった。

「秘密なんて!」


「ないって言いきれるの?」

腕を組み意地悪な目でにらまれ強い調子と確信を付かれた事に真澄は言い返せなかった。


「知ってると思うけど私は不正を絶対に許さない。それに私が何もしなくても不正は必ず表に出るものよ」

そういって大泉は振り向き去った。言い方は意地悪でも自分の方が悪いようで言い返す事は出来ず、その場で黙っていた。


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