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深層心理と過去

 休み時間に進藤は周りに聞かれないよう細心の注意を払いながら机の上で小声でねちねちと愚痴を言った。


しかし目の下にはくまができており隠しようがなかった。


「日向のやつ、ボクシングを始めた頃からすごいと言われはじめ試合で大歓声を浴びその後も喝采されていた。男同士の尊敬はまだいい。しかし何故女の子に拍手されるようになったんだ。あんなやつが、女にもてるなど」


一見普通の考え事をしているように周囲からは見えたが拳が机の上で小刻みに震え、苛立ちが見えても仕方なかった。


下を向いている事からも他人に悟られたくない表れだった。それは単にひがんでいるのではない、自分が認めない卑下する、下に見ている相手が少しでも女にちやほやされると気に入らない勝利の親と同じ歪んだ感情だった。


さらには勝利の心などの良いところを全て嘘、演技だと思っていた。


(あいつは全て偽りで自分を良くみせ、ない自分をあるかのように見せているだけなんだ)


進藤は自分が見下す日向のもてはやされが作った偽物と言い張り認めなかった。ひがみより認めない感情だった。


自分が上で相手が下で絶対に認めない、もはや現実すら認めない悪あがきのようだった。


しかしこの小声の愚痴は大泉が仕掛けた盗聴マイクによって聞かれていた。全てをしる大泉は抑えながら腹のなかで笑っていた。


(ふん。人心掌握術も知らず人の中に積極的に入らずただアイデアを挙げたり知識をひけらかしてるだけのやつが大人になっても人の上に立てると思ってんの? それにやっぱり日向君がもてるようになったのが気に入らない認めないとか相変わらずくだらないわ。プライドの高い男がひがむのは大体地位や名誉より女の事なのよ。とくに自分が見下してる相手には)


 真澄は大泉に正体を探られてる事を不安に思いそれとなく勝利に話しかけた。

「日向君、最近疲れてない」


勝利は疲れた体を起こした。

「うん。すごく。実は親の事で悩んでいたけど自分に自立心が足りないんじゃないかと思ってバイトはじめようかとか思ってる」


「でも、大変じゃない? ボクシング終わってから色々悩み抱えたまま受験勉強だし。もう少し自分を大事にしないと。心も体も。少し休憩した方がいいよ」


真澄の言う事にうなずき少しだけ間を置いて答えた。相手の気遣いを理解し現状を説明した。


「勉強とかは休憩できる。でも親との関係は休憩出来ない。そもそもぶつかるのと逃げるのどちらが正しいかわからない。ぶつかれば暴力、逃げれば家出」


勝利は倦怠感の中に閉じ込めた不満をぶちまけたかったが必死に自制し話した。とてもつらい気持ちが周りにも伝わった。


疲れで心なしか顔にしわがよったように見える。態度もそうだが老人のような雰囲気すら感じる。


気の短い老人が怒りを抑えているようである。その上で頭を整理し、自分が考えた結論を話した。


「自分に自立心がないからつけこまれるんじゃないかと思って。でももしそうでなければ、ようするに自立に関係なく支配しようと言う親ならば人生のどこかで大喧嘩せざるを得ないよ。あと、昨日の事なんだけど」


 つらい決断の様な感じがひしひしと伝わった。


自分の自立心を原因とする事と、それ以上に親は恐ろしい、自立心など関係なく支配する気なのではと言う反省と不安と恐怖があった。


「勝利は一生女とは会わせず純潔でいさせる…!どんな女も近寄らせない…近寄ってきたら…」


 昨晩母が人のいないところで一人言をいっていた事を思い出して話した。


「よくわからないけどうちの母があそこまで狂っていたとは思わなかった。ああ……最初からそうだったのか父のDVでおかしくなったのかはよくわからないんだけど、あんな親じゃ将来が思いやられる。いや希望がない。困ったどうすれば」

勝利は肩を力なく落とした。彼にしてはオーバーアクションだった。


 勝利の話を聞き真澄は呆然とし戦慄した。今まではどちらかと言えば父の事を話題にする事が多かったが母の方もおかしい事を聞いてどう答えていいかわからなくなった。


自分の力で解決出来ることなのかと力のなさを知った。勝利が悪口をぶすっとした態度で並べるのは珍しいと真澄には映った。


同時にかなり追い詰められているのが目に見えた。進藤の事を考えなくなっている事も同様だった。


ふいに真澄は話を変えるように持ちかけた。勝利の目を見つめ後ろに手を組み好意的に言った。

「ねえ、今度家に遊びにこない?」

「え?」

「こないだ母さんも電話に出た時感じの好い人だっていってた」



さすがに勝利は良い意味で驚いた。話が出たタイミングもポイントだった。暗い話に真澄が明るい話を吹き込んでくれたようである。


「椿の家に? それはすごい楽しみだよ」

これはかなり勝利に対し突然かつ意外な申し出だった。少し勝利は息を吹き返したようだった。


しかし

(初めて会った時のような元気が完全になくなってる)

真澄は気づいていた。


 進藤は休み時間考え事をしていた。

(俺には兄が二人いた。長男は突っ走り先をいこうとするが、次男はいつも回りを考え抑えている人だった)


 進藤の長男は親の期待を受け、子供の頃から英才教育を受けた。本人もやる気だった。


しかし次男はそこまでの能力がないと親に見切りをつけられ、温和な性格からいい人になれと言われた。


彼はいつも兄弟でけんかをすれば尻拭いをさせられ、学校でも自分の意見を言わなくなった。進藤の母は


「ちょっとあの子が可愛そうじゃありません?」

しかし父は

「仕方ないだろう、あいつは他人に勝てない、だから好い人として生きるしかないんだ」


進藤は次男の事を知っていた。

(兄さんは勝手に好い人の役割を押し付けられやがて逆らえなくなった。家でも外でも。でも本当は自己主張したかったんだ。俺は知っていた。その後ストレスで体をこわし入院…だから俺は絶対自己主張出来ない人間にならないと決めたんだ…!)


 真澄は聞いた。

「最近進藤くんすごく頑張ってるけど、それについてどう思う?」

「うーん、あまりピンとこないんだよね。今は本当自分の事が手一杯で」


「彼、なんか無理してる感じがする。追い詰められてるっていうか。」

(昨日あいつが言った事さっぱりわからなかった)


進藤は会話を聞いていた。

(何故だ、何故日向はボクシングの時のように俺をライバル視しないんだ…)


しかしその会話も大泉は聞いていた。

(悲しい男ね。何故か理由がわからないなんて)

いつものあざけりを通り越し呆れていた。

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