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電話の相談と新たなライバルの登場

 真澄は帰宅し化粧台の前で座った。男装するようになってから減らした化粧品が並んでいるのを位置確認した。


「あまり使わなくなって消費期限切れてきた。処分しなきゃ」

男装する事に真澄は悩んでため息をついた。


「いつまでもこのままじゃ…周りの皆をだまし、裏切ってるみたいでつらい。つらいよ。もう何度も考えたけど。乾やボクシング部は嫌だったけど、日向君をはじめとしたみんなはとてもいい人だ。彼らのおかげで私は良い生活が遅れてるんだ。だから嘘をつくのは悪い事だ。とても重い罪だ神山君はそれとなく気づいてるみたいだけど、いっそ気付いたほうが良かったも。どちらにしてもいつかいつかと思ってたら先延ばしになるし、先へ延ばすほど悪い事になる」


 真澄は引き出しから取っておいた切った髪を取り出し握った。

「母さんを守るためと言って、私は友達の気持ちを犠牲にしてる。母さんの為って言って自分を正当化してるだけだよね、私は最低だ。母思いの娘なんかじゃない。友達の好意をむげにしてるんだから。友達と言う権利が私にあるんだろうか。」


その時電話がなった。

「はい、椿です」


 真澄はすっかり自分の意識に入っていたため虚を突かれた。電話の向こうでは力ない声が聞こえていた。

「ああ、俺、日向だけど…ごめん遅くに」


 真澄は安堵した。

「ううん、ぜんぜん」

真澄は安心させるよう優しく言った。自分が悩んでいるのを知ってかけてくれたような気持だった。同時に勝利から電話があったのが嬉しいのがそれとなく伝わるような態度をとるようにした。今感じているのは友情ではないささやかな愛情だと言えなくても伝えたい、いや、いつかはと言う気持ちだった。しかしそれを打ち消しかねない暗い相談だった。

「親に「ボクシングは女をかけてやったんだろ。」って言われたって前にも言ったけど心に引っかかってるんだ。」

「…」


いつもと違い勝利の口調はやるせなく疲れていた。様々な事が蓄積しやっと吐露した感じだった。


「人間って自分のため、とか友達のためであっても「女のためだろう」って言われるとすごくやだよね」


 怒りと同情が混じった表情で真澄は答えた。

「うん、よくわかるよ」

さらに恨み節はつづいた。


 いつもより影がある声である。

「嫌な人って必ず女の子のためがどうとか言うよね」

「うん。」


、「あっ、というか多分自分が頑張った事認めないから頭にきたんだと思う」


 真澄は怒りと勝利の理解されない悲しみを哀れんだ。

「ひどいよね。そんな事言う親なんていない方が…あっ言い過ぎた。日向には大切な親だもんね、僕に言う資格ないか」


「いや、俺もなんていうか、大学行きたいから言うことを聞いてるふしがある」

「日向が人の悪口言うなんてかなりよっぽどなんだね」


勝利はすこしだけ気分が和らいだ。

「愚痴っぽくなってごめん」

「ううん、全然。日向君はがんばったじゃないか。たとえ両親が見てなくても見ている人はいるって」

「あっ、こないだは保健室に連れてってくれた時「体が柔らかい」なんて変な事言ってごめん、気持ち悪いでしょ」

「あ、別に」

「たぶん満身創痍で勘違いしたんだと思う、香水の匂いがしたとか。」

「そ、それは勘違いだと思う」

さすがに真澄は慌てた。


 真澄は母に薬を飲ませて寝かせようとした。

「お母さん、寒くない?最近夜冷えるから」


「ええ…大丈夫」

母親は少し咳をした。


「ストーブ消し忘れるとあれだから、消しとくわ。代わりにカイロ入れるわ。薬飲んだよね」


「ええ、さっき日向君という子から電話があった時飲んだわ」

母親はうれしそうだった。

「えっ?」


「7時ころ。でも彼は挨拶してすぐきったの。ゴホッ」

「大丈夫?」


「真澄も男の子と遊びにいってもいい年なんだから」

「私、受験が忙しいし。」


「あっ、好きだって否定しなかった」

「あっ」

真澄は口に手を当てた。


 翌日、真澄は学校で少しずつだがみなと距離を離すようになった。

「このクラスはみんな優しいし、話すほど皆を騙すようで忍びない。」


 西巻教師は朝、生徒たちに言った。皆疲れている雰囲気なのは察していたが。

「誰か三学期の学級委員をやってくれる人はいないか?」

しかしムードをかきさくように、いきなり勢いよく手を挙げた者がいた。


「僕がやります。」

自信に満ちた声と話し方が周囲を驚かせ同時に人物も意外だった。

「おお、進藤、やってくれるか、意外だ、じゃなく良いことだからぜひとも頼む」


「進藤が? 随分張り切ってるな。」

進藤と呼ばれる少年は七三分けの髪型に細身の体、メガネとクールそうに見える目付きの持ち主だったが今日は何となく温和な目だった。口元は前は不満のありそうなかみつぶしたような感じだったが今はきりっとしている。


 勝利は少しだけ様子が気になった。

(進藤英一。成績は常にトップか2番目、あまり積極的に話さないし、雑談は苦手、ただ几帳面でゴミが落ちていると注意したりするが…正直学級委員に立候補したのは意外だった)


 それからは進藤は積極的に掃除を引き受け黙々とやったり落ちていると自分で拾ったりした。前までなかった笑顔を絶やさなくなった。


 神山はその様子を何となく疑問に感じていた。

(あいつ、勉強してばかりでクラスに積極的に関わって来なかったのに変だな)


 その時クラスの女子が運んでいたものを落とした。その時に進藤が駆けつけ大急ぎで拾い集めた。

「はい、拾ったよ」


 進藤の優しい態度に女子は

「わあ、ありがとう。優しい」

そう言われて進藤は非常に嬉しそうだった。その様子を神山は見逃さなかった。神山は国木田に言った。



「最近、進藤が変わったんだけど。君にはどう思う」

「そうね、良いことしてるんだろうけど、なんていうか、良く思われたい、そうなりたくって必死になってる感じがした。」

        その様子を前学級委員の大泉蘭子は見ていた。髪は肩よりながく、上品で几帳面でプライドが高そうで、しかし意地悪っぽさを隠している様子があった。普段はエレガントな振る舞いでそれを隠しているそぶりがあった。


 大泉は見えないよう進藤にあった。

「あなたの様子がどうもおかしいって感じている人がいるわ。神山君と国木田さん。あの二人よく人を観察してるから」

「もう気付いたか…」


「ま、あなたって自分の事しか考えなかったしね」

「当然だ。僕は人の中でもトップになる男だ」


 その冷たい口調とまなざしはさっきまでが嘘のようだった。腕を組んでいる。組んだ腕からはいらだちを感じている。

「でもきにしてるんでしょ?日向勝利の事」


「ああ、僕はあいつが気に入らなかった。ボクシングの件であいつはより決定的に人気者になった。だけどすぐ表たって意地悪するとかじゃなくそれ以上になればいいんだ」

「あなたって一本気ね。執念深いし。私は私で椿真澄が女だって疑惑を探る必要があるわ」

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