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戸田を止めるもの

 戸田は誰がみてもわかるほど変調した。


 多重人格を端的に表すような変異であった。

モップが彼の記憶を刺激し目覚めさせた。


 手は映画の生きた死者のように震え、目は生気がなく、まるで病的犯罪者のようだった。


 口は唇をだらしなくあけたまま、何かを求めてさまよう亡者のようになった。一部の生徒は異変に気づいた。


「戸田の様子が変だ?何やってるんだ?」

戸田はゆっくりと真澄の方へ向かった。


 獲物の死骸を求める死者のようだった。振り向き戸田の様子がおかしいと真澄は気づいた。


  一瞬手をとめると

「あ、あああ。」

と頭を抱えながらも半分白目となりその後目覚めるように暴れだしそうな雰囲気になった。


 まさに狂人というにふさわしい様子の戸田がいた。


「が、が、」

と言いながら口許は震え目は焦点が定まらない。目が真上や斜めを向き、まるで眠りから覚めた怪物が周囲の状況を把握出来ていないようにも見え、かつ獲物をさがし求めて蠢いている墓場から出た亡者に似ている。


 しかし会場の生徒は一部をのぞき気づいていなかった。何せ怪物の変異のようであっても姿はさっき大試合を終えた戸田だ。


 しかし勝利はきづいていた。そして真澄の方へくる戸田の様子が変である事を知っていた。

戸田は

「モップ、モップ。」

といい真澄に手を上げ至近距離から襲いかかりそうになった。


 真澄は何が起きたのかわからず恐怖以前に状況を飲み込めていなかったが、離れた場所で勝利は叫んだ。

「モップを捨てるんだ!」


 しかし戸田の行動が理解できなかった真澄は即座にモップを離さなかったため目が点になったが次の瞬間真澄を衝撃が襲った。


 いきなり顔に戸田のフックをくらい2メートル程吹きとばされた。周囲は騒然とした。この時やっと観客は事態を飲み込んだ。


 殴った戸田は体力をもて余すように構えのポーズを取りはあはあと息をきらしている、別の標的を探す飢えた野獣のような振る舞いだった。


「戸田が!」

周囲の生徒は戸田の様子を見ながら席を開けた。乾は真澄がおとしたモップを持ったがいきなり戸田になぐられふっ飛ばされた。


 ついに中西が出てきた。しかし中西は押さえつけたがふりはらわれ殴られた。

「中西先輩が!」

中西がダウンしたのを見て生徒は逃げた。


 なおも荒れる戸田を勝利は決死の思いではがいじめにした。

「戸田!やめろ!モップを遠ざけるんだ!」

戸田の頭には戸田の家で家族を襲った男をやむなくモップでめったうちにした映像がよみがえった。


「戸田、リングに行くんだ。おれと殴りあいすれば…」

「お、おい何やってんだあの二人。」


勝利は傷ついた体を引きずりどうにか戸田をリングに入れた。それだけで精一杯だったがさらに立ちはだかり言った。

「なぐるならリングで俺を殴れ!」


 うーといいながら一旦収まりかけた戸田だったが自分の拳を見つめいきなりまた切れた。目は白目を剥き、子供と野獣があわさった、


幼児性と凶暴さがあわさった態度だった。いきなり勝利をなぐりつけ、こう言った。

「俺の邪魔をするな。」

なおも起きあがった勝利を立ち上げてパンチを浴びせた。


 柳と明石は止めに入ったが殴られた。さらに戸田は勝利に殴りかかったが、勝利はタックルのように戸田の胴体にしがみつき止めようとした。しかし背中を何発もなぐられ、顔を無理やり殴られた、


 勝利がこらえたかめさらにパンチは続いたが勝利は止めようと両手を広げ立ちはだかった。



 他の生徒は何とかしなければと思ったが戸田がなぜ狂ったのかわからず恐怖に包まれ目の前の事を理解できなかった。


 国木田は

「日向君がしんじゃう!」

と叫んだが神山は

「よし!」

と言って出ていき決死の覚悟で羽交い絞めにした。神山はスポーツはしていない為まさに命がけと言う気持ちだったがしかしあえなく戸田に殴られた。


 まともに食らった神山は倒れた。

さらに戸田は神山を殴った後後ろからきた勝利をなぐった。


勝利はとっくにピークにきていたが立ち上がり続けた。しかし決して殴りかえさなかった。

「戸田は俺が止める!」


 体力の限界をとっくに超えた状態で勝利は戸田の目を見つめ続けた。何かを訴えわかってほしいという目だった。


 戸田はそれを見て多少の迷いが見えたがまだ殴り続けた。生徒たちは怯えた。

「日向がしんじまう!」

まだ勝利は殴られ続けたがその時フルートで「エリーゼのために」が聞こえた。真澄はカラオケで吹いた曲をまた吹いた。


 戸田は周囲を見回し何が起こったのか確かめようとしたが今度は真澄に向き直った。しかし襲われる恐怖に耐え、真澄は今度はトランペットを吹いた。



  「花は咲く」だった。その音色に会場は聞き入った。その時戸田の中で何かが変わり、すーと力が抜け、ゆっくりその場に倒れた。驚くほど静かな倒れかただった。



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