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死闘の決着から大将戦へ

 リングの熱気が最高潮を迎えた。そして会場のボルテージも同じ位に達した。


 二人のパンチに空気がうなり細い刃で周囲を切り裂くような衝撃が走った。それは渦巻きのような形に空気が変わったように見えた。闘気の気流のようにも見える空気の固まりが螺旋を作っていた。その両側でぐいっと引き込まれて一体化した二人の目は常に相手の隙を探し続けていた。


 戸田は明石の左アッパーをかわし、右フックをすんででかわした。何事もなく戦いは継続された。


 ただひたすら相手の弱点を目と本能で探しつこうとする2匹の獣のようだった。歯を噛みしめ目に入る額からの汗に耐えた。


 戸田は吠えながら突っ込んで足を踏み出した。

(フェイントか?)


 明石はつられたが、戸田は予想通り後ろに戻った。明石はフットワークを駆使して防戦に回った。


 戸田はまたさがりフェイントとパンチをまぜて攻めた。二人の拳と拳がぶつかりあい、戸田のカウンターがきまった。


 明石はぐらっときた。会場が歓声に包まれた。

(まだだ…)

しかしまたも戸田のカウンターが決まりそうになった。明石はガードを固めしのぎきった。


 焦り攻めに転じた後またも戸田のパンチがきまった。会場はまた歓声に包まれ明石は膝をつきそうになった。


(俺の自信が崩れ落ちる…)

「ダウンか?」

会場は騒然としたが明石は持ちなおした。


「くっ、まだだ」

二人の疲労が一層激しくなり呼吸が荒くなった。


 明石は少しずつ大振りになった。それはプライドを傷つけられたからだった。己の情念をこめて打った。


 2、3発と続くうち情念は激しくなっていった。

「負けられない!」

明石は今は土下座させるために戦っているのではなかった。


 明石の右ストレートが空をきった。そこに戸田はストレートを浴びせた。

「ぐっ、鼻が」

ついに明石は前のめりに倒れた。その姿を見て客席がどよめき騒然となった。レフェリーはカウントを数え10入った。


 客席は一瞬静まりやがて歓声がおきた。戸田はレフェリーに手をあげられた。顔にはアザがいくつもあった。


 明石は陣営に戻った。

「すみません」

「あとは任せろ」

中西は肩を重く叩き低い声でいった。


 あまり怒りが感じられないのが意外だった。それでいてプレッシャーをかけるような雰囲気だった。

一方勝利は

「とうとう・・きた俺の番。無理だとはわかってたけど」


(まけるだろうけどそれでもあまりにも無様に負けるのがやだった。みんな期待してないだろうけど)

ちらりと客席を見ると真澄は祈っていた。


(あの写真の椿の妹さん綺麗だったな。同い年位に見えるけど。椿、心配せず見守ってくれ)

そういって勝利は客席に向かい手を振った。客も歓声で答える。


 一方中西は上着をぬいだ。周りのものを全て威圧するのが目的の様だった。すごいと言わせる筋肉、90キロありそうなジェロニモを思わせる肉体だった。


「あれがマグナムパンチの中西か」

客席は噂した。勝利は

(前に進んでやる!……)


 静かに拳をにぎりしめにらみ返した。



 そこには勝利がいざと言う時見せる瞳の奥の熱さがあった。体もたぎっていた。口を真一文字に結んだ。

そしてリングインした。真澄はサイドにきた。

「無理しないで」

「うん」


「しかしあいつおちついてるな。初心者で相手は中西なのに。」

勝利は体が小刻みにふるえ緊張したが見せないよう振る舞った。


 掴んだロープが震える。

(椿を助けるためとか皆が土下座するのをふせぐためとか意気込んだけどさすがに怖いや。勝たなきゃいけないけど勝てそうもない。勝てるわけがない。だけど、俺が受けた勝負だから・・!)


 勝利はリングから周りを見渡した。

(試合ってこんなに注目を集めるものなんだ・・)


 そしてついにゴングはなった。しかし中西はガードをゆるめた。こっちへこいと言うサインだった。

「挑発?」


 勝利は駆け出しジャブを浴びせたが手で弾かれた。

「き、きいてない!」

次の瞬間まともに勝利はボディブローを受けた。

「がっ!」


「日向!」

はらを抑えて苦しんだが何とかダウンせず踏みとどまった。

「ほう、打たれ強いな、それに負けん気も。」


 意外にも中西は勝利を称えた。

戸田は休みから目を覚ました。


 「またあそこにモップおいてあるよ」

「お前モップよく気にするよな」

「いや、心に色々あって。試合も集中が乱れた。」


 勝利のフックは軽くかわされた。

「大振りだな!」

「これでどうだ!」


しかしボディアッパーも軽く防がれてしまった。

「俺はただの偽善者だ!意地でやってるんだ!」

「あいつまだ気にしてたのか」

戸田は反省した。勝利はフックを叩きこんだがまるできかない。

「そんなフックで通用すると思うな!」


 中西はこれまでの相手を試したり嘲笑する様子から怒りに変わった。勝利に本気かわからないボディフックを叩きこんだ。勝利は痛さにさけんだが前にでて突進した。


「また前に出た! でも隙がある。」

「本当に2週間かあいつ!」

両陣営ともどよめいた。


 明石は中西の目に気づいた。


「俺にさえ中西さんはあんな目をした事がない、見たいのかあいつの力を。」

「見せてみろ! ただの石かそれともダイヤの原石か!」

勝利の右ストレートがもろにきまった。


「入った!」

「いやがら空きだ!」


 カウンターにもろに強烈なフックを顔にくってしまった。

膝が崩れた。しかし勝利は

(俺は仲間のためじゃない自分のためにやってるんだ)


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