次峰戦の死闘
「ま、負けた…」
客席から大木が負けたことにため息が出た。
クラスに漂う落胆。
しかしそれはやがて段々と拍手に変わった。戸田達の手を借りて何とか起き上がり、肩を背負われ大木はリングを降りた。
完敗だった。一方柳はもどってきた。
明石は
「ナイスファイト」
と言ったが柳は憎々しげな態度が消え、息を切らし下を向いていった。
「楽勝に見えたかもしれないが結構きつかった」
「俺に任せろ」
明石は後を継ぐように軽快な体さばきでロープを超えリングインした。
それに偶然の様に目があった戸田はにらみ合いながらリングに入った。明石は余裕をまじえ言った。
「さて、これから俺の力を見せつけてやる」
しかし戸田はにらんだだけで言いかえさなかった。その様子や戸田の全身から漂う雰囲気にクラスメイトは話した。
「しかし戸田は雰囲気変わったよな。まさかボクシングやってたとは。なよなよしてると思ったけど」
国木田は
「戸田くんは男っぽくないって言われるけど、一人でいるとき怖い顔する時ある。ボクシングを何故やめたのかしらないけど」
二人は向き合いボディチェックし、ゴングを待った。
明石は
(こいつ、狼のような目付きだ)
と警戒し少し畏怖の念を抱いた。戸田はあえて胸を張り腕を後方に回し緊張感を周辺にみなぎらせた。
周囲の空気が固くなる中ついにゴングがなった。二人はリング中央まできてさがり、様子を見始めた。
明石は重い雰囲気に不安になった。睨みだけでなく二人が全身から出す威圧感に。
迂回が続き、明石はジャブを打ったが戸田は即座にブロックした。2発、3発目も同様だったがするどい目と共に一発かえすと明石の頬をかすった。
「くっ!」
その鋭さに明石はひるんだ。そのためフットワークを生かし防戦に回った。間合いを取ると戸田は距離をつめて次を撃った。
明石は焦り少し大振りの一発を返した。戸田はひるむ事なく距離をとった。時々フェイントとパンチをまじえた。
何と言うか緊張しているのを知られない為余裕があるように見せているようだった。
二人は一端コーナーに戻った。
その内に1ラウンドが終わった。戸田の力に客席は歓声に包まれた。明石は焦った。
(強い…)
しかし、戸田の視界に場外にあったモップが写ると急に戸田は目を覆った。戸田の頭に過去の記憶が映った。
しかしそれが消えないまま2ラウンドは始まった。
二人は様子を見ながら再度距離を詰めた。明石は
(ブランクがあればあらが出てくるはずだ。しかしこいつの話は中学時代聞かなかったな)
二人は目を離さず、様子をみながら少しずつせめ、相手の隙があれば何発か打っていった。
しかし戸田の反撃は鋭どく明石は苦しんだ。明石は再度間を取った。ここで2ラウンドが終わった。明石は
(手強い…たたきつぶすつもりが)
そして3ラウンドが始まった。戸田は前より少しだけ積極的に責めた。明石は
(スタミナをカバーするため早く勝負に出る気か。あいつにはブランクがある。絶対現役の様には行かない!)
しかし戸田はその心の声が聞こえているようにスピードを落とさずパンチを放った。明石は
(スタミナ切れが見え見えなんだよ!)
といって大振りパンチを打ったがかわされた。戸田は回り込みステップでジャブを浴びせた。
「チャンスと思って攻めただけだ!」
「くそ!隙がない!」
ラリーは続き少しだけ明石はスタミナが切れていた。ここで3ラウンドが終わった。
明石は焦りを見せないように努め、一方戸田もはあはあ言いながら汗をぬぐわなかった。4ラウンドになると牽制だけでない大振りのフックやストレートを混ぜ打ったがお互い決定にはならなかった。明石は
(まだ勝負にいくのははやい)
そして激しい攻防の末4ラウンドが終わった。
(戸田くん…)
祈るような真澄の姿に国木田はぎょっとした。勝利は
「ごめんアドバイスがなくて」
「大丈夫、負けはしない。」
(勝ってやる)
明石はつぶやいた。
そして5ラウンドも4ラウンドと同じ様な展開で終わった。6ラウンドで少しだけ戸田が優位になったが明石は反撃してきた。
明石は叫びながら撃った。
試合が佳境に来ると彼はこういう表情をする。
(くらえや!)
しかしそれも戸田はかわした。フックも寸前で避けたしかし直後に明石のパンチがヒットしたがさらに戸田のパンチもあたり痛み分けとなった。
さらに怒りの明石のパンチが来たがこれはかわした。そして反撃のストレートを浴びせた。火花が散るように拳がぶつかり合った。そして戸田のパンチがヒットした。
「カウンターが!」
明石は膝をつきそうになった。




