実戦
「準備は出来たか?出発するぞ!」
バランさんが馬に乗って俺達に号令をかける。
俺達の目的地は、城の裏門から1、2キロほど移動した森だ。そこで魔物との戦闘をする。
移動手段は訓練の時に教わった馬。召喚者のチート性能のおかげか、俺たちは想像していたよりも早く乗りこなすことが可能になっていた。
クラスメイトの大半は今回の実戦訓練を辞退し、参加しているのは俺や秋人、沙那、榎本、熱海などの知った面子のほか10人の、合計15人だ。
また、このメンバーは特にステータスが高く、クラスのトップ集団であるとも言える。俺たちのように予備知識があった奴らが多いな。
都市を囲う外壁の門をくぐって、先の方に見える森へと馬をすすめる。
「騎士団の人達もいるし、大きな事態にはならないだろ」
「ちょ、おい待て。俺の前でフラグ立てるなよ。一級フラグ回収士だぞ俺」
話しかけてきたと思ったらいきなりフラグを立ててくる秋人。
ちなみに一級フラグ回収士というのは、俺のあだ名。ゲーム内でのガチャや出現する敵など、近くにいた奴が建てたフラグをことごとく回収するというところからつけられた。最初は否定していた俺だが、最近では俺自身もそんな能力があるんじゃないかと思い始めているくらいだ。
「そうだったな。まあでも、こっちに来てまでそんなことはないだろ」
「だ、か、ら!なんでそうもあっさりフラグを建てるかね、お前はっ!」
門を通ってから大した時間もせずに森へと到着し、馬を降りる。
空気が美味しい。体に力がみなぎるような感覚がある。
「どの世界でも森の空気はうまいな。あと、空気中の魔力量が他のところより多く感じる」
「そうみたいだね。魔物が発生するのも、魔力が多いからかもしれない」
「てことは、この世界の魔物は魔力の大量摂取での魔物化したのかもな」
身につけている防具を確認しながら榎本、秋人と言葉を交わす。
言い忘れていたが、今の俺達は武装をしている。装備は城の倉庫から貸してもらったもので、俺は手と胸に防具、武器は刃渡り1メートルくらいの剣だ。地球にいた時は持ち上げるのにも苦労したと思うが、今は振り回すことが出来る。ステータスの恩恵だな。
森の中を一列で歩いていると、オンにしていた「探知」に反応が出た。探知は、魔力の特徴を捉えて範囲内の反応を探るスキルだ。魔物は赤、人間は黄緑、魔道具は黄、というように反応によって色がわけられるよう設定をしてあるのだが、今回の色は...赤。数は3つだ。
すると、バランさんも魔物の接近に気付いたらしい。
「戦闘態勢!数は…3、コボルトだ!」
その声に全員の顔が引き締まる。そして、木の影からこちらを伺うのようにしながらコボルトが現れた。
「まず足を狙え!後衛、初級魔法!」
ステータスの魔力、魔攻の値が比較的高く、魔法が得意な後衛が各自の得意魔法を放つ。
「へへ、いくぜ!」
『我が呼に応えよ天の雷、一閃の煌きを...』
「馬鹿野郎!誰が中級魔法を使えと言った!」「のわっ!スンマセン!」
そんな中で秋人が中級魔法を使おうとしてバランさんに怒鳴られていた。戦闘開始直後に指示を破ることが出来るなんて、ある意味才能かも知れない。
魔法が炸裂。1匹はかろうじて直撃を逃れたが、2匹のコボルトが足を負傷した。
「よし、前衛は連携を取りつつ負傷した2匹を攻撃!獣は死に際が最も危ない。注意しろよ!後衛は動く1匹を魔法で牽制、足止めしろ!」
その合図で俺はコボルトの方へと駆け出す。
隣から一緒に飛び出したのは沙那だ。
「行くわよ!」
「おう!」
他の前衛が一方のコボルトに向かうのを横目で確認し、もう一方に迫った。
俺は右、沙那が左に同時に別れ、お互いに剣戟を繰り出す。負傷し、足を引きずっていたコボルトは反撃の意思を見せ、俺に飛び掛かろうとする。しかし、沙那の切り上げによって首を飛ばすことになった。あたりにコボルトの血が勢い良く飛び散る。もう二匹の方も剣と魔法の攻撃で命を落としていた。ホッとした空気が流れる。
直後。
猛烈な血の匂いがあたりに漂い、
自分たちの手で生き物を殺したことを実感することになった。
強烈な臭いに何人かが耐え切れず、胃の中の物を吐き出す。
「しまったな。死臭に耐性がないことを失念していた。血に惹かれて大型の魔物が寄って来るぞ」
バランさんが呟いた。
「まだ森の入り口なのにか?」
バランさんへと問いかける。
「ああ、この森には主がいるらしいんだがな。その魔物が何度か森の入り口でも確認されているんだ」
「マジか。主なのに?」
「そうだ。それよりカズマ、お前は何で血の匂いが平気なんだ?」
「んー?わからん」
多分紛れ込んだ時慣れたんだと思うけど。嫌悪感はあるけど吐き気はないからな..。
「まあいい、とにかく移動するぞ。動けるか?」
バランさんが声をかけるが、皆の動きは鈍い。
そんな中、トットッという、何かが移動する聞こえた。音は静かな森に響き渡り、段々と俺達に近づいてくる。
探知をオンに……
な!?探知にかからない!?
「不味いな。急げお前ら!退避ッ!」
バランさんの号令が響くも、既に遅かった。
木の間を赤く光る2つの鋭い目。むき出しの牙。全長は5メートルくらい。不自然なまでに綺麗な銀色の毛が、木漏れ日を受けて怪しく輝いている。
殺気を感じさせず揺るがないその雰囲気は、まさに食物連鎖の頂点。
「くそっ、シルバーウルフ、だとぉ!?」