転移
水の中を漂っているような感覚。
俺は今、それを全身で感じていた。
違っているのは息ができていること、全くもって重力の負荷を感じないことか。体が破裂していないから宇宙空間みたいな場所ではなく、なんらかの力は働いているのだろう。
恐る恐る目を開く。
そこは予想していた王城の一室でも、ましてや洞窟の中などでもない。辺り一面、永遠と広がっていそうな真っ白な空間だった。
ここはどこだ…? それにクラスの奴等は…?
俺は回りを見渡すが、そこには純白の世界が広がり続けているだけ。
…誰も、何もない!? というか俺、どういう状態なんだ? もし異世界召喚だったとしても、事故で死んだとかなったら冗談じゃないぞ…
段々意識がはっきりしていくにつれて流石に焦り始める俺。
しかし、そんな俺に声がかかる。
『そんなに焦ることはないよ』
!? 声!?
俺は後ろを振り向くが、何の姿も確認することはできない。
『久しぶり、だね。五十嵐和馬くん』
その声が聞こえると同時に、俺の目の前に光が集まり始めた。
光は少しずつ人の形を作り始め、肩口まで揃えた綺麗な銀髪が特徴的な、柔らかな笑みを顔に浮かべている人へと変化した。その顔立ちからは性別を判断することは難しいが…
若干だが胸があるように見えるな。女性か?
『こらこら、対面して直ぐに人の胸を見るなんて、紳士的じゃないぞぉ? まあ君も男の子だし、寛大な私はそれを許そう!』
な、何故バレた?というかなんとなくキャラ濃いな。
『この空間は僕が作ったからね。口に出さなくても会話が出来るんだよ』
マジか。それであんたは…?
『おっと、自己紹介が遅れたね。僕に名前はないんだけど、君たちの言うところの神だよ。』
自称神の痛い人、というわけではなく?
『僕はちゃんと自他共に認める神だよ。まったく、あの師匠にしてこの弟子ありだね』
師匠?って誰だよ。というか、何で俺を呼んだんだ?
『うん。時間もないし、本題に入ろうか。まず君は召喚されて、現在進行形で異世界へと飛ばされようとしてるんだ』
そこまでは予想できた。それで?
『今から行く世界なんだけど、君は一度紛れ込んだことがあるんだよ』
ほぉ…そんなことが…って、はぁぁ!?
『そのときの君の記憶は、僕が封印させてもらったんだけど、たぶん記憶力が上がったり、体の調子が良くなったりはしてるんじゃないかな? 何せ僕にとってはじめての封印だったから副作用が漠然としかわからないんだよね。危険ではないってことは先代から聞いてたんだけど』
な、なるほど。だから『ひさしぶり』なわけか。
『あと、実は記憶と一緒に君の力も封印してる』
俺の、力?
『うん。異世界で二年近く魔物を狩り続け、師匠である彼に教えを受けた君のステータスは、地球では異常なものだからね。記憶がないのに全力出すと、下手すると大惨事になりかねなかったんだよ』
そこまでステータス高くなったのか。スゲーな俺。
というか、その異世界はステータスが存在するのか!?
『まぁね。それで封印なんだけど、三つかけさせてもらったんだ。そのうちの一つはさっき解けたと思うよ』
そういえば教室で光に呑まれたときに声が聞こえた気がする。
『第一封印の解除、は君の持っていたスキルを使えるようにしたはずだよ。後で確認してみてね』
わかった…ん? でもスキルって他の人にもあるのか?
『今の君のクラスメイト達はまだほとんどが持ってないと思うよ。家事系のスキルをもってる子はいるかもしれないけどね。これまでの記憶の中でも、異世界に紛れ込んだことがあるのは君だけだから』
もしステータスを確認されたら異常ってことじゃ? 俺、ステータス偽装のスキルなんて持ってます?
『いや? ステータスへの干渉は神の力を使わないと出来ないはずだから、存在自体しないと思うよ?』
それは不味いな。
今、何かスキルを恵んでもらえたりは?
『君にはお詫びもしたかったから、それぐらいなら構わないよ。少しじっとしていてくれる?』
神様はゆっくりと俺へと進んでくる。そして、目の前で止まった神様は俺の顔に下から手を添えて顔を近づけた。
俺の頬へと伝わる、しっとりとした、優しい感触。
!!!!!?????!?!?!?
『はは。案外初心なところがあるんだね。こういうのは初めてだったかな?』
………………………
『まあ、君のご希望に添えたスキルは渡せたと思うよ。よく考えて、うまく使ってね』
……ッは! あ、ありがとうございます。
『そろそろ時間的に限界だね。君を送らないと』
あの、本当にありがとうございます
『何だか堅苦しいよ? もっと柔らかくても良いのに。それじゃ転移を始めるね』
俺の体が光に包まれ始める。
『あっちの世界には君の師匠がいる。記憶が戻ったら探してあげてね。寂しがってるだろうし』
そういえばさっき言っていたような。とはいえ、記憶を戻すには封印をどうにか解かないといけないってことか。
『それじゃあね。また会えることを楽しみにしてるよ』
その一言が耳に入ってきた直後、俺は再び意識を手放した。
ガツッッ
「っ!?いってぇぇぇぇ!?」
石のタイルが敷き詰められた床に頭を強打して、あまりの痛さに俺は飛び起きた。
頭を押さえながら回りを見渡すと、そこにはクラスメイト達の姿。尻餅をついていたり、驚いた顔で突っ立っている奴もいる。全員例外なく俺に視線を送っているが。
というか頭打ったの俺だけかよ!? 神様、もう少しの配慮が欲しかった!
まぁいい、落ち着け俺。
俺たちのいる場所は、やはり教室ではない。
四方が積み重なった石に囲まれて、俺たちがいるところだけ周囲の床よりも高くなっていて、まるで舞台のようだ。
足元のタイルには、教室で見たものと同じような魔方陣が直接刻みこまれている。場が混乱している中で一回チラッと見ただけのものを完全に覚えているはずがなかった。
それはともかく、
「やっぱりここ、異世界か?」
次の話辺りまでは事前に少し考えていたんですが、それ以降は思いつきで書けたら投稿になります。
考えていたところでさえ書くのに時間がかかるから、本当にどうなってしまうのやら...
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