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武器屋と、団長と

二人が立ち去ってしばらくして、ネクセルは剣の刃を研ぎながら二人のことを思い出していた。

獣人の女の子、ルーを連れた、この辺では珍しい黒髪の男の子、カズマ。

もともとは騎士で、それなりに腕が立つと思っていた自分だが、カズマの力が測りきれないでいた。



「カズマ、か。すげぇ奴だな」


あいつが店に入ってきた時、アタシは確かに魔力を放ったが、あいつは全く気に止めていない様子だった。


そして、あいつが身に纏っていた黒い外套。アタシをして、見たことがほとんどない素材。

黒い毛皮を持つ魔物は、コボルトか、熊の魔物、サベージグリズリーくらいだ。しかし、外套に向くのはコボルトのみ。あいつの外套を一度見ただけでは、殆どの人が騙されるだろう。


しかし、あれはおそらく、シルバーウルフのもの。


本人が狩ったのかどうかは定かではないが、腕が立つのは確かだろう。シルバーウルフを一人で勝ったとなれば、Aランクのパーティ、つまりAランク冒険者5人を同時に相手取ることができる、ということだ。そうなれば、個人の実力は確実にSランクに相当する。


そして、獣人のルー。猫の獣人で赤髪…。

初対面のはずだが、初めて見た気がしないのは何故だろう。



そんなことを考えながら作業を進めていると、店の外に気配。魔力を放つが、その後に聞こえるドン、ドンというノックの音。入ってきたのは、大柄の男だった。


「邪魔するぜ」

「ん?おぉ、久しぶりだな、バラン(・・・)。最近はどうだ?」


バランは現騎士団長だが、もとはアタシの部下だ。親父の頃からこの店に通っている常連だが、最近は来る回数がめっきり減っていた。


「俺は元気にやってるよ。若いのに負けるわけにはいかねぇからな。面倒みてると、こっちも若くなるぜ」


やつはそう笑って、背負っていた大剣をカウンターにおろした。ゴトン、と置かれたその鞘は、一目で年季の入りを感じさせる。


「本当はもう少し早く来たかったんだが…。今日は用件が2つある。まず、こいつを見てくれねぇか?ちょっと前に無茶な使い方したから、不調がないか、念の為な」

「わかったよ。今のアタシの仕事は武器屋だからね」

「それともう一つ」


アタシが笑って引き受けると、バランは緩んだ表情を引き締め、真面目な顔をして言った。


「団に戻ってきてくれねぇか……団長・・


バランの口から漏れた一言に思わず眉が動く。

この男は、一度、団を辞めたアタシに、戻れと言っているのだ。


「…理由は?」

「ここだけの話になるが、魔族が戦支度をしている。それに対抗して、俺らは異世界の勇者を複数人召喚したわけだ」

「ほぅ、勇者ねぇ」


勇者。異世界から召喚される彼らは、こちらの世界の人に比べてステータス伸び率がとても高い。即戦力となり得る存在だ。


「ぶっちゃけると、優秀なの相手じゃ俺でも分が悪くなってるのもあってな。教育係を頼みたいとシャルルのやつも言っていた。最近、中でもとんでもないのが一人、旅に出たよ。大物を狩ってな。全くあいつは…」

「おい」


バランの言葉を遮って声を出す。

滅多に見ない魔物の素材、珍しい黒い髪。そして、バランの言葉から察せられる強さ、年齢の低さ。


「その大物ってのは、シルバーウルフ。そして、そいつの名前はカズマじゃないか?」

「……もしかして、ここに来たのか?」

「あぁ、ついさっき獣人の女の子を連れてな」

「クハハッ!スゲー偶然もあったもんだな!」


なんせ、ここは王国の中心、王都バラノルだ。武器屋だけを考えたとしても、その数はおそらく50は下らないだろう。そんな中、偶々この店に入ったのならば、それは驚くべきことだろう。


「それで、実際どのくらいの強さがある?あのカズマは」


アタシは、気になっていたカズマの実力についてバランに問いかける。


「あいつは、ステータスと体の両方の成長が早すぎる。召喚初日に筋力ブーストを使うわ、頑丈な毛皮を持つシルバーウルフの首を一閃で切り落とすわ。俺は、やつとやり合ったのは今回が二回目だが、流石に目を疑った」

「そ、そいつはスゲぇな」


シルバーウルフと戦ったことは無いアタシだが、その頑丈さは装備の方面からも情報が入ることがある。よほどの業物でないと、一刀であの毛皮の上から首を落とすなんてことは出来ないだろう。


「その上、異世界の知識を魔法に昇華させる事ができると考えると末恐ろしくなるぞ」

「なるほどな。カズマのことはわかったが、そうなると獣人の女の子は誰だ」


アタシが疑問を漏らすと、バランは少し目を伏せつつ答えた。


「クリストフの置土産だよ」

「…!そういう、ことか」


クリストフ・ド・バラキス・アラキア。現国王シャルルの実の弟。ルーの燃えるような赤髪は、クリストフの色そのものだった。見覚えがあったのはそれが故。

呆然としていると、バランは顔を上げ、真っ直ぐにアタシの目を見て言った。


「なぁネクセル。お前がクリストフの死に責任を感じてるのは分かってる。でもな、やつの形見は今元気に生きてんだ。そいつを、この国を守るために、もう一回、力を貸してはくれねぇか」


こいつはズルい。

クリストフを守りきれなかったのは、アタシの責任だ。ルーがこの店に来ていたのは想定外だったのかも知れないが、縁を感じてしまっている自分がいる。


「…わかったよ」


数分の間考え抜いた後、アタシはそう返事を返した。


「本当か!」

「ああ。でももう少しここにいる。店を整理しないとなんねぇし、カズマからツケの代金を受け取る必要があるからな」

「来てくれるなら、特に時間は気にしていない。お前の都合で、この紙を門番に渡してくれ。既にお前を知らないやつも結構いるはずだ」


そう言ってバランは紐で止めた巻紙を取り出し、渡してきた。

こいつ、もとからアタシが戻ると分かっていたみたいだ。なんか気に入らない。


「ふん、そうなるとお前の相棒を返すのも遅くなるな」

「仕方がねぇさ。まあ、よろしく頼むわ」


ドアに向かったバランは、そこでアタシを振り向き。


「可愛い奴らだ。楽しみにしとけよ」


それだけ言い残してバランは店を出ていった。



クリストフが死んでからずっと立ち止まっていたアタシだが、これは、重い腰を上げろという天からの言葉なのかもしれない。


もし本当にいるのなら。恨むぜ、神様。



そう天を仰ぎながらも、実は勇者の実力が楽しみなことは、ここだけの秘密だ。

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